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ムカつく

 帰ると家にチハルがいる。

 あ~~チハルがいるな~~と思う。

 昨日から今日の入学式のために帰ってきていたけれど、夕べは夕飯もさっさと食べて、自分の部屋へ上がっていった。私も2階の、チハルの部屋の隣の、自分の部屋に上がったが、先に寝ると言っていたチハルは私と入れ替わりに風呂に入りに下へ降りて、その後も両親と話をしていたらしく、私はまたチハルが部屋に上がって来たのも気付かないで先に眠っていた。

 朝ももうチハルは先にご飯食べ終わってたし。


 チハルが前に泊まりで帰って来たのはクリスマスの一日だけ。その前はお盆の1日だけ。その時だって何話したか覚えてないくらい話をしてないし。

 でも今日はチハルがいる。母も嬉しそうだ。そりゃあ嬉しいよね。ずっと離れてた息子が今日は家にいて、しかも高校の入学式。めでたいよ。

 やっぱり悪いよね。チハルにって言うより母に非常に悪い事をしている気に、またなってしまう。私のせいでって。私のせいで二人が一緒に暮らせないんだって。母がどれだけ私に笑顔を向けてくれても、チハルと私を全く変わらないように、対等に自分の子どもとして扱ってくれても、そうやって優しくされればされるだけ、母に対して申し訳ない気持ちになってしまう。



 夜にみんなで食事をするので昼は簡単にサンドイッチですます事にした。

 食べながら私は母の機嫌を取るように、今日の入学式での事を話題にしてみる。

「あんな挨拶の役するなんて聞いてなかったからビックリした」

「あ~~」と母。「春休み学校から連絡来てたから何かと思ってたけど」

やっぱり母も知らなかったのか。…いや、やっぱり知ってたのかな。



 …まあいいや。

 気を取り直してチハルを間接的に褒める。「なんかねえ、周りの子たちがチハルの事、めっちゃカッコいいって言ってたよ」

「へ~そうなの?」気のない感じの母。

あれ?お母さん…そんなに喜ばないな…

 が、母は茶化した感じでチハルに言った。

「カッコいいって言われてたんだってさ~」

ちっ、と舌打ちをするチハル。

 舌打ち!また生意気な。褒められてるんだから喜べばいいのに。


 「それってさ」と母。「チナちゃんはどう思った?」

「え?」と私。

「止めろ」と速攻で母を睨むチハル。

ふん?とお母さんがそれでも私に答えを促すので答える。

「カッコいいと思ったよ」

私がそんな風に答えるとチハルは嫌がるだろうけど、母は喜ぶと思って。実際カッコ良かったし。


 「そう?」と母。

 あれ?お母さん…これもそんなに嬉しそうじゃない…

 よくわかんないなお母さん。

 私は手ごたえのなさに付け加える。「挨拶もきちんと落ち着いて出来てたしすごくうまかったじゃん」

「もういい」とチハル。

 あれ?チハルが赤くなってる。珍しい。こんな風に姉に褒められたら、さすがに嫌がるよりは恥ずかしい気持ちが強くなるのか?なら、本当はヒロセの弟とチハルに気を取られて他の新入生はあんまり見てなかったけど、この際だからもっと言ってみよう。 

「新入生の中で一番目立ってて一番カッコ良かったよ」

ちっ!、とチハルは大きく舌打ちした。

 やっぱまた舌打ち!でもなんか今日は私が勝ってる気がする。


 「良かったじゃんチハル」と母。

「うるせえ」

お母さんにまでうるせえとか言うな、と思いながら言う。「なんかみんなに『私の弟!』って自慢したくなったよ」

言ったとたんチハルが私を睨んできた。

 さっきまで恥ずかしがってたくせに今度は急激に機嫌悪くなった。何!?そういう歳頃!?私と半年しか違わないけど。

「こっち見んな」とチハルが私にキツく言ってくる。

「見てないよもう!」私も悔しいから吐き捨てるように言った。

なんだよ、扱いにくいな。



 母が言う。

「私は買い物に行って、そしてそのままおばあちゃんも連れて来るから、あんたたちちょっと掃除機かけたりしといてくれない?」

わかった、と調子よく言う私に反してチハルは母に言った。

「オレも行くわ、一緒に」

「いいよ」と母。「あんたもチナちゃんと片付け一緒にやっといて」

 

 チハルめ~~~。

 ここにきてまだ私を嫌がるか!ほんの2、3時間じゃん。それでも私と一緒は嫌か。

 腹が立ったのでからかうように言ってやる。「どうしたのチハル。お母さんと離れたくないの?」

「は?」

「もう~~お母さん連れていってあげなよ。マザコンなんだから」

もしかしたら久しぶりに家に帰って来たし、本当に母と一緒にいたいのかも、とも思ったが腹が立ったので言ってしまった。

「コラコラ、チナちゃんたら」母が笑いながら言う。



 まあね、ずっと離れてたもんね。寂しかったのは事実だよね二人とも。私が車運転出来る歳だったら買い物だって私だけ行って、二人を家でゆっくりさせて上げられるのにとも思ってるよ。


 「本当に大丈夫だよお母さん」と私は言う。「チハルと行っておいでよ。重たいもの持ってもらえるよ。ここは私一人で片付けられるから」

「いい」母が即答した。「チハルは本当はお姉ちゃんと一緒がいいんだよね?」

「…」へ?

「お姉ちゃんていうか」と母。「チナちゃんと」

なぜか言い替える母。


 そして思わずチハルを見つめてしまう。そんなはずはないよねって思って。

「こっち見んなって!」とチハルにさっきよりキツく言われた。

何コイツ!!

「行けばいいじゃん!」と思わず怒鳴ってしまった。「行きたいなら、お母さんがダメって言ってもついてけばいいじゃん!」

母もチハルもビックリしている。

 ったく!

 褒めたのに。今日はたくさん褒めたし、チハルの事すごく誇らしかったのに。無暗に私の事嫌がりやがってムカつく。





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