七月七日
七夕記念に活動報告で書いたショートストーリーです。
いつも通りの仕事が終わり、ありあわせの材料で作った夕飯を食べ終わった男が、食後の一服を吸いにベランダに出る。アパートの壁を黄色くしたくないので、煙草は必ず外に出て吸う癖がついていた。
夜風にあたりながら吸う煙草も気持ち良いものだ。
ベランダの手摺りに寄りかかり息を吐く。紫煙が風に流され消えていく様を目で追い、夜空を見上げた。晴れた空には星がぽつぽつと見える。住宅街の光に負けじと輝く星々を眺めながら、今日は七夕だったかとふと気付く。
「彦星と織姫ねえ。一年に一回でも会えるんだからお前らはラッキーだよ」
誰にとはなしに呟く。こっちはもう二度と会うことは叶わないというのに。
星達は語らない。ただ光るのみ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
セラムは一仕事終え、夜の空を眺めていた。
昔見た空とは違う。星の位置も、月の大きさも。何より見える星の数が段違いに多い。その代わり、地上は手を伸ばせば指先が見えない程の闇。これが本当の夜なのだろう。
「セラム様、紅茶はいかがですか?」
ベルが持ってきた紅茶で一服する。温かい液体が身体の中に染み渡る。
そのまま隣に侍るベル。彼女はこういう時、必ず近くにいて優しく微笑んでいるのだ。
(そういえば、昔はこんな風に誰かとゆっくりお茶を飲むなんてことはなかったな)
一人暮らしをして以来、家ではいつも独りだった。あの日も夜空を眺めていたが、こんな凪いだ海のような心境ではなかった気がする。
「ところでベル、あの星々に名前なんかはあるのかい?」
「ありますよ。あの一際輝く星がゼア、その右下に十字に見える四つの星が剣聖アカザという星座、あの連星が……」
星を何かに見立てて名前を付けるなんて、どの世界でも一緒なんだな。セラムは柔らかく微笑む。
もう会えない人にも、この空の彼方で繋がっているような気がして、セラムはそっと目を閉じた。
瞼の裏に彼女の笑顔を思い浮かべながら。