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act8★そんなに、オレから逃げたい?

今夜は前話(act7)より3話続けての更新となります。



「オレのことだけ考えて」

「……えっ?」

「オレだけを見て」

「えっ、あの……えっ?」

「キミがアイツを見てるだけで苛立たしくて仕方ないとか……らしくないよな。

こんなのあり得ない」


さっきまで愉し気に笑ってた池田くんなのに今度は苛立たしいとか言い出して、キュッと眉を寄せて若干投げ遣りなムードを醸し出している。


コロコロ表情を変えてるのは私じゃなく、絶対池田くんの方だと思う。


「気付けばキミのことばかり目で追ってるとか、あり得ないだろ?

けど……自分でもどうしようもない。コントロールできないんだ」


キミノーーー?

アリエナイーーーーーーコントロール?


え。


待って。

待ってなにこの状況。


池田くんの言葉は耳に入って来るのに、意味不明のまますり抜けて行ってしまう。


「……あの……池田、くん?……ねぇ、ちょっと」


呼び掛けても『このオレが』だの『挑発に乗せられて』だの、どこか一点を見つめてブツブツ言ってるこの人、大丈夫だろうか。


なんて密かに心配してたらバチッと目が合ってしまった。


「……っ、あ、のっ」

「アイツだけじゃない。

キミの関心がオレ以外のヤツに向くのを許すなんて、絶対にあり得ない」


今日何度目かの『あり得ない』を言い放った池田くんの目がぎらりと光ったような気がしてハンパなく怖いっ。


「え……っと、ちょっと、意味が……」

「分からない?」


こくんと頷いたその時、池田くんの顔が動いて、そして。


「ひゃあっ…!?」


左耳を齧られた!

耳たぶがビリッと痺れたと思ったら、またちゅって!ううん、ちゅうって強く吸って齧って引っ張られたーーーーーー!


その上、あの背筋ゾクゾクだけじゃなくお腹の奥の辺りもきゅんとするようなおかしな感覚に襲われてしまった。


「体はこんなに敏感なくせに、鈍いんだね」

「いっ、いい池田くんっ!?……なに…っ、なにす……っ」


齧ったり吸ったり敏感だの鈍いだの好き勝手されたり、言われてるのに。


なのに顔も耳も体全部が熱いし舌は縺れるし。

なにするの!って言い返したいのに上手く言葉にならないし。


焦る私とは対照的に落ち着き払った池田くんが、


「なにって……鈍感な雛に刷り込んでる真っ最中ってこと」


などと、さらりと宣うた。


………………………。


「……はああぁぁ???」


首を傾げる私の目の前でフッと口元を緩めた池田くんは、綺麗な瞳を静かに伏せてそのまま黙り込んでしまった。


「池田くん?」

「………………」

「あのぉ……?」

「………………」


私の耳で好き勝手遊んどいて黙るなんて卑怯でしょーーーーーーっ!


強く念じたその時、男子のくせに羨ましいくらい長い睫毛がふわりと瞬いて、吸い込まれそうなほど深い漆黒の双眸にひたりと見据えられてしまうと、ただならぬ空気に我知らず喉がゴクリと鳴った。


「こんな感情、厄介なだけだ。手に負えない」


突然そう言われても。

なんのことやら推し量れないけれど。


確かにこんな支離滅裂…いや喜怒哀楽コロコロな池田くんは厄介だ。

怖いくらいに真剣な眼差しも私には受け止めきれないし、手には負えない気がする。


つまり。


今すぐ逃げ出せと、私の脳内で危険信号が点滅しているのだ。


「……池田くん。あの、そろそろ降ろして……ほしいんだけ、どっ?」


そう問い掛けた途端、射るような眼差しに貫かれて、どくりと心臓が跳ねた。


「そんなに、オレから逃げたい?」


『うん』と言いたいのに言えない。

押し寄せる威圧感に飲まれてしまう。


「逃がさないよ」

「…………っ」


速 攻 逃 げ た いーーーーーーーーーっ!


蛇に睨まれた蛙の気持ちが今、分かった気がする。


「厄介で、苛立たしくて、思うようにならない。

なのに……いつも頭から離れない」


池田くんの艶やかな前髪がサラサラと頬を擽る感触に気付いたその時にはもう。


「キミのせいだ」


視界いっぱいに池田くんが映り込んでいて、その顔はなぜか苦しそうに見えた。


「池田、く……」

「オレを好きになれよ」


え………………?


温かな吐息が唇を撫でた瞬間、慌てて両手で自分の口元を覆っていた。


「……ダ、ダメッ……!!」


ブンブンと頭を振れば、瞠目したまま見下ろしていた池田くんがフッと笑った。


「どうして?」

「どっ、どうして、ってそれは」


さっきのアレって、キ……!?

だよね??

え?勘違い?


「オレに触れられるのは嫌?」


私の唇にじっと注がれる視線が、やっぱり勘違いじゃなかったと伝えて来る。


「い…やとか、そういうことじゃなくて!くく、唇はっ、ダメなのっ!!」


あ。嫌って言えば良かったのに、私のバカ!


「ダメ?」

「ダメ……ッ!だって、こういうのは、軽々しくそんな……っ。

すっ、好きな人と……両想いになった人と、するものだと思うしっ」


いつか誰かに恋し恋されて、両想いになった相手と目出度くファーストキスをするその日までは、大事な唇の貞操を戯れに奪われたりしちゃダメだのだ。


「だったら、キミがオレを好きになればいい」

「そっ……んなこと、簡単に言わないで!もっ、もう、からかうのはやめて!」

「からかってなんかいない」


そう言って、きゅっと唇を引き結んだ池田くんは神妙な面持ちをしていたけれど。


「でも……。だって、今日の池田くん、変だもの。

訳分かんないことばっかり言うし、変なことするし」

「だから。全部キミのせいだって言ったろ?」

「どうして池田くんが変になったことが私のせいなのよ」

「分かれよ」

「分からないわよ!」


なにを分かれって言うのだ。


『オレを好きになれ』とか、どこまで上から目線なの。

好きって気持ちは、強制されてなれるものじゃないのに。


「キミがオレを好きになれば『両想い』になるだろ。そうすれば……」


両想い……?


「ちょっ、ちょっと待って!」


思いの外大きく響いた自分の声に、うっかり両手を下ろしてしまったことに気付いて急いでまた唇を隠した。


危ない危ないっ!

大事な唇の貞操を守らねば。


でもあんまり驚いてしまったものだからつい手が離れて…………って!


「…………両想い……?……あり得ない、でしょ」


独り言のように呟いた声は覆っていた手の中でくぐもっていたけれど、池田くんの耳には届いたらしい。


「あり得ない?」


そう繰り返す池田くんに同意するように、コクコクと首を大きく縦に振る。


「池田くんも言ってたでしょ?苛立たしくてあり得ないとか絶対あり得ないとか」


そう。両想いなんてあり得ない。

なんら間違ったことは言っていない。


「キミのあり得ないとオレのあり得ないではニュアンスが異なると思うけどね」

「い、今、ニュアンスの話をしてるんじゃないでしょっ」

「そうだね」


そうよ、そうそう!

今日の池田くんがいかに変でオレ様で強引かって話を……


「両想いになれば、キミの唇もオレのものだって話をしていたんだよね」

「違うし!くっ、唇は私のものだし池田くんにあげるつもりはないし、そもそも両想いじゃないし!」

「キミがオレを好きになれば両想いだろ」


私が池田くんを好きになる=両想い?

まるで簡単な数式の説明でもするような口振りに唖然としてしまう。


「だからどうしてそうなるの?

もしも私が池田くんを好きになったとしても、池田くんは違うじゃない」


次々と告白する女子達を『ごめん、興味ない』と容赦なくぶった斬ってきた漆黒の王子がよ?こんな平々凡々な私を好きになる訳がないのだ。


「違わない」

「そうでしょ。違わな……え……?」

「違わない、って言ったんだ」

「違わないって……。それって、つまり……つまり……」

「答えは簡単だろ?」


私が、池田くんを、好きになったとして……違うってことは、その反対で。

好きにならないってことで……。


違わないってことは……?


好きにならないことはないってことだから。

えっと。それはつまり。


グルッと回って結局……?


『キミがオレを好きになれば両想いだろ』


それって、つまり、両想いってことは、つまりーーーーーー。


「えっ!え……?ええええええーーーーーーーーーっ!?」


口元を手で押さえていたお陰で素っ頓狂な雄叫びが響き渡らずに済んだけれど、今度の衝撃は流石に大きすぎて、呆気なく役目を放棄した両手は力なく垂れ下がってしまった。


「梨々香」

「ははは、はいっ!?」

「分かった?」

「わ、かった……、やっ、でもっ、きっと正解じゃないと思う……から」


言える訳ない。もしかして池田くんは私をーーーなんて。

いや違う!断じて違う!身の程知らずなことを考えちゃってごめんなさい!


お読みくださいまして、ありがとうございました(o^^o)

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