act6★二度ある抱っこは三度ある…?
皆さま、ご無沙汰しております!
大変お待たせいたしまして申し訳ありませんm(_ _)m
「もうちょっとそっち、寄ってもいいかな」
「や…あの…っ」
(いやこれ以上無理!って、なんか私の椅子の背に腕、乗っかってる??背中ほんわりあったかい気がするけどこれってもしや手のひらの感触!?)
「梨々香って……すごく丁寧で綺麗な字、書くんだね」
「……っ!!…そ、…んなこと、ななない…っ」
(って、ノートから顔上げたらいきなり美形のどアップなんて止めて心臓飛び出る!名前呼び捨ても止めて耳が溶ける!てか、そう言う池田くんこそ、すんごい達筆なんですけど!?)
「梨々香って…」
「梨々香はさ…」
「梨々香の」
「梨々香、ほら」
「梨々香が」
唐突に始まり今この時も延々と繰り出されている、 謎の梨々香五段活用。
「色白いよね」
「睫毛長いね」
「唇、赤く熟れてるみたいだ」
「耳まで赤くなってる」
「髪…下ろしてるのも見てみたいな」
……って。
やめてっ。
このイケボイス攻め!!
そんな大安売りみたいに梨々香梨々香言うなあああ…っ。
「梨々香って…」
はい来た!
「……………」
なに?
「……………………」
だからなに!?
「…っっ!?」
(俯いた私の耳元で呟いたきり黙り込むから気になって見上げたらじいいっと見つめて来たよ、ナニコレ王子マジック!?顔が…目線が逸らせない…っ)
ソコちゃんせんせえーーーーーーっ!!!←遥か彼方の教壇まで届けと念を送ってみた。
乞ひ願はくは、疾く助けよや~~~~~~!!!!!!
こっち!ココ!この人見て!
「ちょっとソコ!お喋りしない!」って、いつものソコちゃん節!言っちゃってくださいよ!!
王子ひとりで喋ってる、いや、囁いてるレベルなんですけどもう止まんないんですよ延々と!
私無実ですけど、多分そっから見たらくっついて喋ってる感満載なんで巻き添えくってもいいんでもう二人纏めて叱って!
ビシッと!王子のお口に!チャックさせてくださいよ、せんせえぇぇぇ!!
ーーーーーーナンデコウナッタ。
ここは教室だ。
そして今現在も古典の授業の真っ最中だ。
健全な高校生達の真面目な…一部不真面目さんが早々に居眠りしてはいるが…お勉強タイムなのだ。
なのに…。
なんということでしょう……!!!
隣の席から艶然と微笑む美貌のタラシ…いや光源氏もかくやあらん!ってな誰かさんのせいで、授業開始間もなくからずーーーっと心臓は踊り狂い、困惑ここに極まれり!なパニックタイムへとシフトチェンジしてしまっているのです!!!
ーーーーーーそれもこれも、ぜーんぶ、王子改め池田源氏のせいだ!!!…と声を大にして言いたい!
言えやしないけど。
そうです、小心者なんですごめんなさい!
事の始まりは、『教科書を忘れたから見せて』との池田くんのひとことだった。
隣同士だし、うん、いいよって答えれば忽ち机と机をぴったりくっつけられた。
その途端、それまで池田くんと火花散らして睨み合ってた園田くんの両手がいきなり机に向かって伸びて来てスパーンと引き離した……ところで、竜田川素子たつたがわもとこ先生、通称「ソコちゃん先生」の登場。
と同時に、流れるような仕草で再び隙間なく机をくっつけた池田くん。
そのまま授業に突入したけれど、チッ!と派手な舌打ちをひとつして池田くんをギロリと睨めつけた園田くん、なんでそんなにご立腹!?
そんな園田くんを一瞥した池田くんの口角が微かに上がり、ふっ、と鼻先で笑えば、「お前…っ」と言いかけた園田くんに先生から「ソコ!授業は始まってますよ!」との声が飛び。
ぶすったれたような顔のまま前に向き直った園田くんエリアは、さながら『イライライライラ』って擬音が無数に飛び交うような高濃度の不機嫌モードに染まっていた。
ううう…。園田大魔神、なんで復活したのかなぁ。
しかし、気にしてても仕方ないと気分を引き締めて。
そんなこんなで、始まった授業中。
開いた教科書を真ん中に、池田くんと肩と肩が触れ合うやら顔と顔が吐息まで感じられそな距離まで大接近するやらで。
ドギマギしまくって速攻離れたかったけど、私の席は校庭に面した窓際。
に、逃げられなかった……。
耳元で声を潜めて囁かれ続けた艶やかで甘やかな低音の威力にーーー腰、砕けたと思う。
もうヘロヘロで、座っていられない程。
そして冒頭に戻るーーー。
「梨々香って…」
(だからなに!?
早く……早くマジック解いてよぅ…うっ、うっ、うっ…)
池田くんの瞳は宝石か!宝石なのかっ!?
キラッキラした二つの黒曜石が見つめてるのは平々凡々な私の顔ですけど!?
穴が開くほど見られてもなんの面白みもないことは保証します。
なのでいい加減、その綺麗な瞳は閉じちゃって!お願いお願いお願いします!!
……結果。
魅惑の池田源氏ビームに耐えられなくなったからって「な、なに…?」って尋ねたりしなきゃ良かったんだよ私ってば!
「ほんと、華奢だよね。
抱き締めたら……壊れそうだ」
「------っひっ……!」
(う……うぎゃあああっっ。こ、鼓膜の奥まで溶けたーーーっ!!)
ボンボン沸騰して顔が熱くてたまんないってのに、池田くんてば池田くんてば……。
「壊れるくらい抱き締めて……腕の中に閉じ込めたらどうなるかな」
(いやどうもなりたくないし壊れたくないので結構です…っ)
「…ね?」
って、端正な顔かんばせに浮かんだ綺麗な微笑みがなぜか怖い。
「ぅ…うっ、…」
(片肘ついて手のひらに頬乗せてズイッと下から見上げるとかどんだけズームしてくれてるの!ひ、ひ、ひいいいいーーーっ!!)
私のちっぽけな脳内、もうわぁわぁきゃうきゃうドえらい騒ぎになってたけれども飲み込みました!雄叫びだけは!!もう切に!授業に集中させてたもれーーーっ!!!
砕けてヘロヘロな腰とふわんふわん霞んでる思考に、ギリギリ持ち堪えてたのに。
「ね、梨々香。試させて」
ふう…っと。
剥き出しの耳朶の奥に吹き掛けられた、温かななにかに。
「……ひぁ…っ…!」
低く、甘く、鼓膜を震わすその響きに。
クラッときて。
ズルッとなって。
椅子からずり落ちかけて。
肉離れした太ももにビキン!と痛みが走ったら。
「……いっ……たいっ!」
不可抗力だよ出ちゃうよ大声。
「ソコ!!なんですか?」
先生の視線が、ついでにみんなの視線も突き刺さる。
「羽生さん?どうしました?」
「あっ、の…いえ、なんでも…」
巻き添えどころか私、単独犯じゃないか。
項垂れ、足を庇いつつ座り直そうとすれば、いきなり腰を引かれすんなり元の位置に戻されて、驚いて隣を見上げたら。
「先生。羽生さん、気分が悪いそうなので、オレが保健室に連れて行きます」
そう言い放った池田くんが私の腰に宛てがったままの腕で私をゆっくり立ち上がらせて。
ちっとも顔色悪くもなく寧ろ真っ赤に茹だっているであろう私に告げる。
「梨々香、ほら…行こう」
…あ。また、五段活用。
なんてバカなことを思ったのが先だったのか、私の体がふわりと浮き上がったのが先だったのか。
本日、もう何度目かの甲高い悲鳴や野太い雄叫びが派手に上がる中。
「えっ?なっ、え、え、ちょっ…!?
い、池田く…っ、おおおお、下ろしてっ…」
ーーーーーー羞恥地獄、再び。
抵抗虚しく本日二度目、昨日からトータル三度目となるお姫さま抱っこをされたまま、悠々と歩を進める池田くんと共に教室のドアから廊下へ出た瞬間。
池田くんの肩越しに、一番奥の席にいる園田くんが椅子から立ち上がり、まるで殺気を放つようにこっちを睨めつけている姿が目に飛び込んで来て、思わず背筋にぶるりと震えが走り抜け、慌てて逸らした目線の先で、サラサラボブヘアを揺らしてこっちへ身を乗り出した美樹ちゃんが、ニヤリと笑って宣った。
「ハニーーー!んもぉ、そのまま王子に奪われちゃいな!」
「……はあああぁ!?」
お読みくださいまして、ありがとうございました!