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act5★お姫さま抱っこ、再び…?

実験は惨憺たるものだったーーー。



終始メラメラと怒気を放つ園田くんオーラに飲み込まれたらしい矢部くんの手元が狂い薬液が溢れるわ、私のノートの端までびっちょりになるわ、慌ててティッシュやら雑巾やらを手に拭こうとしてくれた知花ちゃんの肘が試験管立てに勢い良く当たって試験管が割れるわ……。



結果。

時間内に正しいデータを出すどころか、実験そのものさえ満足に出来なかった私達の班は、居残り再実験が言い渡されてしまった。



「マジか。オレ、今日は交流試合あんだよな」


これは矢部くん。

ああ。バスケの試合かな?


「ええ…っ、今日ムリだよぉ、あたし、約束あるのにぃ」


これは知花ちゃん。

「久々に会えるのにサイアクだよぉ」と唇尖らせた困り顔もキュートだぞ!

ん?約束って、もしや大学生の彼氏とおデート?


「あっ、じゃあさ、私やっとくよ。

手順通りやればちゃんとデータ、出るし」


うんうん、大丈夫、大丈夫。


「えっ!?マジで?」

「うそっ!や〜ん!ありがとお〜!ハニーさまさま!!」


いやあ二人共。そんな崇め奉る勢いで手を合わせなくてよろしい。

たかが実験ではないの。


ーーーあ、そうだ。


「園田くん」


目の前にある相変わらずの仏頂面に向かって呼び掛けてみたら。


「…んだよ」


それまで黙って俯いていたままの園田くんが、眉間に刻まれた深ーい皺もそのままに、目線だけを上げる。


ほんとに。今日は超絶不機嫌なんだね。

やっぱ寝不足が祟ってるんだろうか。


「聞いてたと思うけど、実験は私がやっとくから園田くんは帰っていいよ。

それで早く休んでしっかり睡眠取ってね」


そして明日はいつものフェロモン垂れ流しのちょい不良な園田くんに戻ってくれたまえ。

こんなお怒り魔人園田くんじゃ、クラスのみんなも生きた心地がしないのだ。


「あ、でもさ。今日って、ハニー、お迎え来るんじゃん。

ほら、謎のイケメンくんがさあ」


知花ちゃんの言葉に、はたと気付く。


「そっか。うん…大丈夫。

(せい)くんには後で連絡しとくよ。ちょっと遅く来てって」

「ああっ、そうだ!!

ハニーの方が遅く帰ったら、その『せいくん』も見れないんだぁ」

「いや見なくていいから」

「あっ、明日は?…って、明日からは王子と一緒に車で登下校だもんねぇ。

くそう。ハニーのくせになんて贅沢な…っ、やっぱ許せん!」

「ちょっ、やめてよ、髪、触んないでよもおっ」


ポニーテールを鷲掴みにされそうになり、上半身だけで逃げ惑う私に容赦なく伸びる知花ちゃんの魔の手。

ひいい…っ。

怪我人を虐めるとはヒドイぞ知花ちゃん!!



じゃれ合う?私達を凶悪な目つきで睨みつけながら「アノ野郎…っ」と怨嗟の如く呻く園田くんに気付いた矢部くんが、漲るその殺気に総毛立っていたことも知らず。


やがて二限目の終了のチャイムが鳴り、理科室から移動し始めたその時。


「羽生」


呼び止める声に振り向けば。


見た瞬間呪い殺されそうな、アノ貞子も高速四つん這いで逃げ出すんじゃなかろうかってくらいにオソロシイ形相の園田くんが私を見下ろしていた。


「ひえっ…!」

「ひいぃ…っ!!」


後ろで同時に上がった悲鳴の主達が、


「じゃ、じゃあ羽生、た、頼むな」

「ハ、ハニー、先、行ってるね」


そそくさと逃げ出したとしても無理はない。


けど待っててほしかったーーー!!




先生も生徒達もいなくなった理科室に、残ってるのは園田くんと私だけ。


「……………」

「……………」


ううう。

なんか。なんか言ってくれー!


さっきからもう一分?いや二分?はこのままなんですけど!


そろそろ戻らねば三限に間に合わぬと焦り出した私は、意を決してこの沈黙を破ることにした。


「あの…。用がないなら、私、行くね」


ヨッシャ!言った!


寝不足なだけなのか他に理由があるのか分からないが、今日の園田くんの怒りの矛先の一端は確実に私に向いている…気がする。


ので、このままバックレます!!

うしゃ!逃げろ逃げろぉ…っ。


松葉杖つきつつ、教科書ノートペンケースを入れた手提げを持ち、うんせうんせと慣れない足取りで戸口へ向かいかけた…ら。


「あっ!?」


ヤバ!!!

つんのめったーーー!!!


固い床に顔面から叩きつけられるの覚悟でギュッと目を閉じた。


「………?」


あら?


痛く、ないぞ??


パチリ、目を開けてみれば、倒れているにはいるけども。

私の体の下にあるのは白いシャツに赤い…ネクタイ?


ゆるゆると視線を上げていった先に見えたもの、それはーーー。


「ぎゃっ!!

そそそ園田くん!?!?

ごご、めん!!だ、大丈夫?あの、あの、う、打った?

頭とか腕とか背中とか、打った?打ったよね!?ごめんね!!!」


慌てて起き上がろうとしたけど、いかんせんこの足が言うこと聞いてくれやしない!


「…痛…っ、…へっ?…きゃあ!」


思わず顔を顰めていると、いきなり視界がぐるんと回った!


「ぎゃあぎゃあ喚くなよ。

オレは平気だし。お前の方が痛むんじゃねえの?その足。

お前、ほんとドンくせーな」


さっきとは形勢逆転した園田くんに真上から見下ろされ、鼻で笑われて、助けてもらったとは言えちょっとむくれてしまう。


「ひ、否定できないけど。そんなハッキリ言わないでよ。

それに、そんな痛くないし。私だって…平気だよ?」


キッと睨みつけた私を見た園田くんがーーーーーー笑っ……た?


「バーーカ。無理すんな。

痛きゃ痛いって言えよ」


さっきまでの怒り魔人園田くんは綺麗さっぱり消滅し、そこにいるのはいつもの…。

そう。色気ダダ漏れフェロモンキング園田くんリターンズ!!!


いいやああああああ………っっっ。


ちょっと吊り上がった切れ長の目元が甘いカーブを描いて微笑んで。

桜色の唇が緩く口角を上げて。

薄茶色の柔らかなその髪が額にはらりと落ちて。


「………っっ」


なに?

なんか私、おかしいおかしい変だよこんな。


胸の真ん中、狙い撃ちされたよな衝撃波が体中を駆け巡る。

ビリビリざわざわズキズキ。


ちょっと園田くん、もう見つめないでくれないだろうか。私、変になる。

そんな笑顔こんな距離で向けられたら、しかもこの体勢なに。


ダメだ。平常心だ私。


そうだ。こんな時の早口言葉!


『ブタがブタをぶったらぶたれたブタがぶったブタをぶったので

ぶったブタとぶたれたブタがぶったおれた』


おおっ…完璧っ!


「お前……なにブタブタ言ってんだよ。

おもしれーヤツ」

「へっ?」


ありゃ。声出てた?


「ほら、行くぞ」

「え、あ、ちょっ」


えええーーーっ!?!?!?


そのまま横抱きにされてグンと視界が高くなって廊下に出て。


たまたま通り掛かった男子に園田くんが、「悪いけどあれ、持って来て」と松葉杖を持たせて。

ス、スミマセン、そこの男子くん。


そして教室まで戻る最中、廊下側の窓から覗くみんなの目、目、目…!!!


聞こえる悲鳴に、雄叫びに、降ろしてくれとジタバタする私を抱え直した園田くんが、麗しいその顔を私の鼻先まで近付けて、吐息が掛かるほどの距離で囁いた。


「暴れんな。足に響くぞ」

「だって、こんなの…っ」

「これで約束、果たしたろ?」


って、なんの?


「お姫さま抱っこ」

「…え。あれって、冗談」


だよね?

目をパチパチさせる私から視線を逸らした園田くんが、開け放された教室へと入った途端。


「「「「「「ぎぃやああああーーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!!」」」」」」


一斉に沸き起こった割れんばかりの悲鳴の真っ只中を平然と進む園田くん。


あああ。もう手遅れだ。羞恥地獄に堕ちてゆくううう。

俯き身を縮める私の上で「うるせーぞ、お前ら!」そう一喝する園田くん。

ピタッと黙るクラスメート達。


効果覿面!先生よりスゴイぞ園田くん!!


やがて私の席に着くとぽすん、と私を降ろした園田くんが、「羽生」と呼び掛ける声が、水を打ったような静けさの中にやけに大きく響く。


……う。

みんな。お口にチャックはしてるけど、目は爛々と開いて逐一見逃さぬよう凝視しているに違いない。


ナンナンデスカ?

ナニやらかしてくれてんですか!


恥ずかしさに塗れ、もうとっくにアツアツに沸騰して真っ赤っかな顔を上げてやりましたよ、ええ!

一体これ以上この私に何が言いたいのだ!

もうとっとと言ってサッサと終わらせてくれたまえ!!


「なに!」


フン…ッ!と鼻息荒く答えれば。


「……実験。オレも残るからな」


ボソッと呟かれたその言葉を飲み込めず、沸騰した脳みそを暫し巡らせる。


「え。い、いいの…?」

「ああ」

「でも体、大丈夫なの?」

「別に。んじゃ、そゆこと」

「え……あ、うん」


そのまま私の前の席に着いた園田くんを見て、そうだ私も座らねば!と、いつの間にやら机の横に置かれていた松葉杖を見遣り、おお!どこのどなたか分からないままの男子くんよありがとう!と念じつつ、やっと自分の席に座ったその時。


「おい」


目の前の背中がくるりと向きを変えた。


「な、なに?」


なにかね、園田くん。

うわあ。なんか今大量の園田フェロモンを浴びてる気がするのだ。溶ける。


「オレさ」

「う、うん…」

「お前にはマジだからな」

「………うん?」


マジ?マジ……マジ………?


急になんなのだ。さっぱり分からん。


「絶対、渡さねえし」


更に続いた言葉も意味不明だ。


うーーーーむ。


園田フェロモンに溶かされそうな脳みそをフル回転して、この会話はどこに繋がっているのかと、さっきまで園田くんと交わした言葉の記憶を辿ろうと首を傾げていると。


「教科書、忘れたみたいだ。

見せてもらっていいかな、梨々香」


ふいに隣から聞こえた声にそちらを見れば。


漆黒…いや、おどろおどろしい闇色のオーラを放つ王子が、底なし沼のような昏い昏い二つの瞳を真っ直ぐに私…じゃない、園田くん、に向けていた。


一方の園田くんはと言えば。バチバチとその目から火花が噴き出しそうな眼差しで、王子のことを睨み返していた。


……な。何があったのだ、二人共!?!?


お読みくださいまして、ありがとうございました(o^^o)

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