act2★そして翌朝、登校早々囲まれました、女子達に
本日、二話目の投稿になります。
「ねえねえ、どゆこと?」
「なんで王子がハニーをお姫さま抱っこぉ!?」
「ラインもメールも全然返事ないしなにやってたんだハニー!」
「あの後二人でどこでなにしてた!!」
「正門前に停まってた車に王子と二人して乗り込んでったってネタ、掴んでるんだ!
そん時もお姫さま抱っこだったって二組の子がバッチリ見てたんだよ!吐けっ!洗いざらい吐けぇ!!」
「抜けがけは許さん!てか、どこでどうして王子をタラシこんだんだ〜!
言え、ハニー!!正直に言えば許してやんないけど言え〜〜!!」
「ちょ…っ、みみ、みんな、おちお、落ち着いて…!」
「「「「「「落ち着けるかあ!!!!!!」」」」」」
「ヒッ……!!」
こ、怖いぞ友よ!!!
みんなの勢いに押されて思わず椅子から落ちそうになったじゃないか!
私は怪我人!右足太もも肉離れホヤホヤの怪我人なのだ!!
松葉杖ついてヒィヒィ呻きながらやっとこさ三階まで上がって教室入って倒れ込むように椅子に座った途端、押し寄せた友人達に囲まれてしまったのだが、みんなもっと離れて!足、当たってる当たってる!!
「ちょっと…!痛い、痛いってば!
そこ当たってるんだってば!!」
ナミダ目になりつつ訴えれば、鬼の形相の友人達の顔がハッと固まり、バッと離れ、一気に私の周りに空間が広がった。
スーーーハーーーーーー。
ああ生き返った。
「ごめん、ハニー。だ、大丈夫?」
一人が言えば次々に「ハニー、ごめん!」の輪唱が始まった。
ちなみに「ハニー」とは、私の名字の「羽生」をもじった呼び名である。
名付け親は一年の時のクラスメート達だが、私としては中学まで呼ばれてた「りり」もしくは「梨々香」がベターだ。
だってさ、「ハニー」だよ?
なんか外人さんのカップルみたいじゃないの。
「ハニー」「ダーリン」なんて、小っ恥ずかしい!!
「けどさぁ、ハニー」
ん?まだ呼ぶか。
「なに?美樹ちゃ、うっ…ぷ!」
机に両手をついたサラサラボブヘア美人の美樹ちゃんの巨乳に顔面を押し潰された。マシュマロ。ほわわ。
羨ましいぞ美樹ちゃん!!
「落ち着けって方がムリじゃん!
あの王子だよ!?大スキャンダルじゃん!」
「スキャンダル…って、んな大袈裟な」
「なにおう!?王子に愛でられて既に天狗か?天狗になってんのかあ!?
ちょっと可愛いからって調子に乗るんじゃないっ!!」
「乗ってない!乗ってないよ!」
「嘘つけ!王子だけじゃないんだよ!
さっき下でハニーを見送って帰ってったイケメンは誰なんだ!」
「え…?」
「なにそれぇ?どのイケメン?どこよ?それ誰よお?
なんでハニーばっか、許せーーん!」
ショートカットを逆立てんばかりにダンッ!と机を叩いて歯軋りするそこの友よ!
「千佳ちゃん、机壊さないでよ」
「うっさい!」
ダダンッ!!
これ私の机ぇ。
バレー部エースアタッカーの腕力、マジ恐るべし。。
「落ち着け、千佳!まずは私から状況を説明しよう」
って、ハーフアップのセミロングヘアをふわりと靡かせ、オシャレなパープルフレームの眼鏡越しの瞳がキラン!と妖しく光ったのは。
「ゆ、百合ちゃん、まさか…」
「ふっふっふ。この私を出し抜けると思ったのが間違いなのだ、ハニーくん」
「いや思ってな…」
「いい?みんなよく聞くがいいわ!
駐車場にてハニーを車から降ろし、松葉杖をついて歩くハニーの横で鞄を持って付き添って靴箱前までやって来た謎のイケメンとハニーの遣り取りを一言一句違わず再現するからよおくお聞き!!」
ふん!と鼻息荒く宣言した百合ちゃんの言葉にゴクリと喉を鳴らす一同…。
…って私までゴックンしたわ!
「百合ちゃん、あの、それはね」
「ハニーは黙ってて!
いい?推定身長百八十五、例えるなら福士蒼汰似の謎のイケメンはね、こう言ったの」
「福士蒼汰ぁ!?!?!?」
あ。福士くんの大ファンの星羅ちゃんがお口に両手を当てて、「信じらんなあい!いるのぉ?そんな人!!」とか何とか言ってプルプル首を左右に振っている。
星羅ちゃんはいわゆる、母世代の頃登場したと言われる『かわいこぶりっこ』属性である。
小柄で華奢で目が大きくてチークも入れてないのに桃色ほっぺで、ふわんふわんの猫っ毛をシュシュで纏めて肩から胸元へ流してる様はぶりっこしても許せる可愛さだぞ、星羅ちゃん!
「そう!その福士くん激似のイケメンが、『上まで連れてってやるよ』そしたらハニーが『い、いいよ、ここで。自分で歩くから』『それじゃ痛むだろ。ほら』とここでお姫さま抱っこしようとするイケメンにハニーが『ヤダ!みんな見てるのにやめてよ』『平気だよ』『いい!歩くから!』『それじゃ鞄も持てないだろ?』そしたら通りかかった二組の女子が『私、鞄持とうか?』渡りに船と『お、お願い!』と女子にしがみつくハニーにピクリと眉を上げたイケメンが『分かったよ。けど無理はするな。いいね?何かあればすぐに連絡して』『うん。ありがと、せいくん』『いいよ。十分気を付けろよ。じゃあまた帰り、迎えに来るから』とここで手を伸ばしてハニーの頬をスルリと撫でるイケメン!!俯き恥じらうハニー!!……どうよ!?どうなのコレ!!!」
高音、低音、見事に駆使して会話を再現した百合ちゃんに釘付けだったみんなの喉が、ゴッッキュン!!って鳴ったと思ったら。
「「「「「ぎゃあ〜〜〜!!!」」」」」
耳をつんざくような雄叫びが教室中に響き渡った。
ちょっと!!鼓膜破れるって!!!
「と、溶けるぅ」
「喉にグラニュー糖ザラザラの刑かコレー!」
「ベッタベタに甘くてにちゃにちゃするうぅっ!」
「くっそぉ、ハニー、そっちでいいわ!
王子はあんたに譲ったげるから『せいくん』を私に寄越せ!」
「って、せいくんって誰さ!?」
キイキイキャアキャア朝っぱらから煩いぞみんな!!
「ほら、とっとと白状しろ、ハニー」
「いや、だから…グエ…ッ、…」
情報屋百合ちゃんに首を絞めんばかりに迫られたその時。
「その話、オレも聞きたいね」
甲高い女子の声に混じってふいに聞こえたホンモノの低音に、その場にいたみんながビシリと固まった。
「おはよう、羽生さん」
「おお、はよう、池田くん」
そう答えた瞬間、私の周りで山猿の如く喚いていた友人達が一斉にそれぞれの席に散って行った。
す、素早い。忍者か!?
「足の具合、どう?」
そう言って私の右隣りの席に座る池田くん。
おお、そうだ!
「うん、少しマシになったみたい。あの、昨日はどうもありがとう。
病院まで連れてってもらって。それに…家まで送ってもらって…」
「大したことじゃないよ」
「大したことだよ!色々、ほんと色々お世話になったし。
私、あんな近くに整形外科があったなんて知らなくて…それに、すごく優しい先生で丁寧に診察してくれたし、温熱治療とかもしてもらったし、当分通わなきゃいけないけど学校からも近くて丁度良かったし。とにかくほんっっとにありがとう!!」
お姫さま抱っこされてあんなこと言われてドキドキさせられたけど。
池田くんにはうんと助けてもらったのだ。
あの後、なぜか保健室の前にたむろしてたクラスの男子達を掻き分けて、池田くんに抱っこされたままの私は池田くんが手配してくれた車で(池田くんちのお抱え運転手さんが送迎してくれたのだ!池田くん何気におぼっちゃま!?)学校近くにあるという、池田くんの親戚の叔母さまが先生をしてる個人の整形外科まで行って診察を受け、肉離れとの診断をされ、電気治療諸々も受け、我が家まで送ってもらい、無事の帰宅と相成った。
その時池田くんとご対面した我が母と妹は、クールビューティ池田くんのご尊顔に唖然、呆然、顔面沸騰し金魚の如く口をパクパクさせた後、帰る池田くんを名残惜しげに見送り、腫れ上がった太ももを庇いつつ痛みを堪える私に、ありもしない池田くんとの恋の馴れ初めなどを根掘り葉掘り尋ね、また連れて来いとしつこく食い下がったのだが、母よ妹よ、そりゃ不可能だ。
私と池田くんにはクラスメートという以外、なんの接点も関わりもないのだ。期待するだけムダである。
…と、お礼を口にしつつ、あれやこれやと回想していたら。
目の前の池田くんが、なぜか僅かに口元を綻ばせていた。
おおお!!わ、笑った…!?
みんなー!漆黒の王子の激レアショットだぞよーーー!!
教室の奥、最後列の窓際に座る私の方を向いてる池田くんのその微笑み、とも言えないような、とっても微かだけども確かに浮かんだその笑みは、どうやらみんなからは見えなかったようだ。残念!
「ほんと、目まぐるしく変わるよね……面白い」
「え?」
机に肘をついて手のひらに顎を乗せて、顔を傾ける池田くん。
彫刻のように整ったお顔にサラリと斜めに落ちる黒髪がまた。せ、せくすぃ…っ!
こ、これはアノ色気魔人園田くんにも引けを取らぬ艶やかさではないかっ。
そしてそのツヤッツヤの御髪の水分量をぜひ測定させてほしい。
キューティクルたっぷり潤い満ち満ちた光沢ヘア。この指で梳いてみたい。
「……プッ」
プッ……………?
なんなのだコレは。
夢か幻か???
池田くんが。
アノ王子が。
「……ククッ」
声出して笑ってる!?
いつもは冷凍光線飛ばしてるその目が愉しそうに細められているではないかっ!!
「え?と、池田くん…?」
目の前の珍百景を眺めながら呼び掛ければ。
「ああ、ごめん。
なんて言うか……小動物?」
「……?」
うん…? 何だって??
お読みくださいまして、ありがとうございました(((o(*゜▽゜*)o)))