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act1★お姫さま抱っこをしてくれたのは彼、でした

「なろう」さまの方へは初投稿となります。


このお話は、「ムーンライトノベルズ」にて27.6.12現在、第6話まで連載中の作品を転載しております。

あちらでは後々R18Ver.を、こちらではR15Ver.にさせていただく予定です。


「……うっ…ぷ…」


時おりグラウンドを吹き抜ける風に土埃が舞い上がって、ソフトコンタクトを入れた両目がショボショボするし少し痒い。目の中の異物感に何度か瞬きを繰り返してみたけどなんかスッキリしない。


ああ。レンズ外して洗いたい。タンパク汚れで視界が霞んで見えにくいったら。

それにさっきからもうずっと胃が痛くてシクシクするしいっそこのまま保健室に逃げ込みたい。

てか、もう帰りたい速攻ここから消えたい。消えて無になれ私!


無〜〜〜〜〜っっ!


「…おい。大丈夫か?

どっか具合悪いのか?」」


無、無、無〜〜〜っ、……ん?


「次、オレらの番だけど、走れんのか?」


そう言って後ろから覗き込んで来た顔のどアップに目を剥いて驚く私を心配そうに覗き込んでいるのは、私と同じく体育座りして並んでる同じクラスの園田快琉(そのだかいる)くん。


「えっ!?…ああ、うん!

ちょっと、目に埃が入って気持ち悪かったんだけど、大丈夫」

「…そっか。今日、風キッツいしな」

「そ、そうそう。あ…の、ありがとう」


これって、心配、してくれたんだよね?


「ん?あ、や、別に」


そう言って、園田くんはまた私の後ろに座り直した。


あああ。びっくりした!!

『一度でいいから遊ばれてみたい』と女子の間でかなり人気のちょい不良イケメンの大接近にバカみたいに心臓がバックンバックンしてしまったじゃないの!


間近で見ると抜けるように白いスベスベお肌に長めの薄茶の前髪がふわりと影を落としてその下のちょっと吊り上がった切れ長の目元に掛かってるのが、また色っぽい。


そう。色っぽいのだ、園田くんは。

私にはちょい不良っぽいとこよりも寧ろそっちが気になる!

なんでそんなにフェロモン垂れ流してるのか、どうしたらそんなクラクラしそうな流し目ができるのか。

色んな角度から園田くんを検証してみたい。


染めてると思われてるけど実は地毛だと同じクラスになってから知ったその髪も瞳も、スタンダードな日本人らしい真っ黒くろすけな私とは違って、かなり色素が薄い茶色だし。

ミディアムの緩くウエーブがかかったオシャレなヘアスタイルもパーマじゃなく癖毛なのだそうだ。

サラサラストレートな私からしたらフワフワ柔らかそうな園田くんの髪、かなり羨ましい。憧れる。


その素敵な髪に縁取られた園田くんの顔は、どっちかと言えば女顔?

中性的とも言えるかも。透明感のある白い肌や桜色の唇(女子か!)のせいで余計にそう見えるんだと思う。

けどナヨナヨした雰囲気じゃあない。シュッとしていて顔のパーツが全てバランス良く配置されている。

つまりは美形だ。色香漂う美少年。男子のくせに色香、なんてほんと羨ましい。


いつも着崩してる制服は、ネクタイなんてだらんと緩めてるし胸元のボタンは幾つか外して大きく肌蹴ててチャラいのに、チラチラ見えちゃう鎖骨は綺麗だし。

とにかく彼を構成する全てのパーツが艶めいている。


毎朝遅刻して必ず一限目の終わりか二限目か三限目からしか来ない上に、授業態度は不真面目で時々居眠りしては先生に叩き起こされてるのに、机にぺたりと顔をくっつけて先生を睨みつけるその眼差しも、顔の横に気怠そうに投げ出された、捲ったシャツから伸びるシミひとつなさそうな滑らかな腕も、席からはみ出した長い足も。

とにかく色っぽい。色っぽすぎて女子のみならずソッチ系の男子からも迫られそうな気がするのは私だけじゃないと思う。


ちなみに園田くんの成績はいつも、学年トップテン入りしているという驚異の安定感だ。

一体キミはいつ勉強しているのかね、園田くん。

一度問い詰めてそのコツを聞き出したい。ぜひ私にも伝授してほしい。切に希望する。


それに、ちょい不良と言われてる割には、こういう行事にはちゃんと参加してるとこを見ると、根は真面目ないいヤツなのかもしれぬ。ふむふむ。


「なあ…?」


キュッと眉間に皺を寄せたその顔もまた色っぽい。実にいい。


「おい、聞いてんのかよ?」

「え…?って、ちょっ…やめてよ」


まさかの園田くん再び。

しかもまただ。またやられた。

ポニーテールにした髪を引っ張られるという技を掛けられて、ちょっと後ろに倒れそうになったじゃないか。


「も、もう…!なんで髪…」


最近。どうしてか分からないけど、時々こうして私の毛束を掴むのだ、園田くんは。

普通に声を掛けてくれればいいのに。なんでよ。


「ボーッとしてるからだろ。

ほら、次、オレらの番だぜ」

「えっ!?あ、ほんとだ」


園田くんとはなんぞや?いや、如何なる男子ぞや?などと考えてる内に、いつの間にか順番が回って来てたーーー!


あああ。いよいよかぁ。


仕方なくノロノロと立ち上がり歩き始めると、後ろに並んでたメンバー達もそれに続くように立ち上がる。


今日はまだ練習なのに。

このバクバク感はなんだ!!

さっき園田くんを直視したバクバクとは異なる嫌な胸の高鳴りを感じる。


こんなんじゃ本番どうなるんだろ、私。


「はあぁぁぁ…」


思わず、諦めという名の深ーーい溜息が漏れる。


「もしかして、緊張してんの?」


園田くん三度(みたび)

立ち上がると私よりうんと背の高い園田くんの顔が上から覗き込んできた。


「へっ??」


だから心臓に悪いから急襲はやめて、絶対。


「…う、ん…まあ」


と答えたけれど、ほんとはしてるしてるすんごいしてるよっっ!!!


「まあ、もしコケてもオレが挽回してやるから気楽にいけよ」

「…って、ほんとにコケたらどうすんのよ!?」

「そん時はお姫さま抱っこして走ってやるよ」

「ええっ!?じょ、冗談…」

「…かどうかはそん時のお楽しみ」


目も口もパカンと開いたままの私の目の前で、スタンバイの号令が掛かる。


「…………いやいや。冗談でしょう?」





今は体育祭の練習の真っ最中。


そして、私はスタートの合図を待ちつつ、地面に両手をつけ、前傾姿勢でクラウチングスタートのポーズをとる。


ああ嫌だ。

緊張するっっ……。


誰か代わってよお願いします。


なにをって?

リレーよ、リレー!!



大して運動が得意でもなく足が速いわけでもないどちらかと言えばインドア派の私なのに。

クジ引きで決まってしまった結果、拒否権などなく「クラス対抗男女混合リレー」のメンバーとして、今現在ここにいるのだ。


嫌だ。嫌だよお……。

しかも第一走者だけこのスタートだなんて。


上手くスタートできなくてコケたりしたらどうするの!?

コケたらお姫さま抱っ……ありゃ冗談だ。


それよりバトン、ちゃんと渡せるかなあ。


てか、バトン持ったままこのポーズでスタートなんて器用なマネ、私には無理ぃ!!



………、なんて。



懊悩しつつ構えていた体はガッチガチに固くなってたようで、スタートダッシュで変な力加減になってしまったらしい。


なぜなら。


べりん!!!!!!

↑ほんっっとに音がしたと思う!!(涙)


「痛…っっっ!!!」


スタート直後、右太ももにトンデモナイ激痛が走ったのだ。



「ーーーーーーーーーーっ、く……っ、!…!…」



五月の風薫る爽やか…とは言い難い、モワモワと蒸せ返るような初夏の陽気の中。


グラウンドに倒れ蹲る女子、若干一名。


ポニーテールがよく似合う、クリクリ大きな瞳がチャーミングな和み系清純派女子、と評されていると本人は知らないが一部男子達の間では大変人気の愛くるしいその顔が苦悶に歪む。


二年一組、羽生(はにゅう)梨々(りりか)


『出るよりはむしろ応援する側で!』と彼女が切望していた体育祭は、この瞬間、身を切るような激痛と引き換えに見学決定となる。


その時。


「大丈夫か…っ!?」


横たわり膝を抱えて呻く彼女をそっと抱き上げる男子、こちらも若干一名。


「…足が、ふ、太もも…痛く、て……って、え?…え!?」


一瞬、痛みを忘れ(でもすぐ蘇った。痛い!!)、ポカンと彼を見上げる彼女。



彼が彼女をお姫さま抱っこにてグラウンドを横切れば。

遠巻きに見ていた観衆、主に女子達からは『いやあ!なんでぇ!?』と絶叫にも似た悲鳴が、そして、一部男子達からは『ずりぃぞ!あのヤロー』などと唸るような怒号が沸き起こる。



そんな外野の思惑も悲鳴も誹謗中傷もまるっとスルーして、腕の中の彼女を大事そうに抱えて歩くのは、すらりとした長身の、誰がどう見ても文句なく美形!と賛美されるに違いない王子さま系男子。


彼の名は、池田涼也(いけだりょうや)。同じく二年一組。

容姿端麗、スポーツ万能、学業優秀。ちなみに常に学年トップである。

彼は王子は王子でも、色で例えるなら爽やかな『白』ではなく、クールな『漆黒の王子さま』なのである。


クールもクール。常に沈着冷静。冷めた眼差しで周囲を見渡し、視線一つで相手を凍らせる威力さえ持つ理知的なその瞳に魅入られてしまう女子多数。

特に親しい友人(男子に限る)以外では、彼の笑顔を見る者は殆どなく、特定の彼女も作らず、告白する女子は後を絶たないが、『好きです!付き合ってください』の『好き…』のひと言目を発するよりも早く『ごめん、興味ない』とオトメゴコロを容赦なくぶった斬るのはもはや学校中が周知のこと。



「あ…、ああのっ、いっ、池…田く…、下ろし…」

「歩けないだろ?」

「でもっ、…み、みんな…見て…」

「いいよ。気にしない」

「いやいやいや…!気にするし!」

「………」

「池田くん?ねえ…きゃっ!」

「落ちないようにオレの首に腕を回して」

「え?」

「ほら早く」

「えっ!?えええ??あ、や、あの…」

「今ここでオレにキスされるのと首に腕を回すのと、どっちがいい?」

「………!!!」


え?

このヒト、池田くんだよね?

クールで滅多に笑わない、って…。

しかも寡黙なんじゃ…???


「……冗、談…?」

「だと思う?」


妖しく微笑む美少年の麗しい顔が間近に迫り、額同士が触れそうになった刹那。


「わわ、かった…、から!」


慌ててその首に両腕を回せば、ひどく満足気な様子の美少年が、とんでもなく甘く甘く囁く。


「いい子」


うっとりするようなその響きに体中がビリリと痺れ、優しく細められた魔性の瞳に絡め取られ。

紅玉りんごの如く真っ赤な顔で見上げたまま陶然となった少女をしっかりと抱え直し、堂々とした足取りで保健室へと向かう美少年。


その後ろ姿を呆然と見つめる男子、いち、にい、さん、しい…。

ええっと、若干名。


その筆頭は、目の前で彼女を引っ攫われ、ギリリと歯噛みする園田くんであったことを、彼女は当然知らない。



ーーーこの日、彼女、羽生梨々香は人生初の、肉離れを起こした。



それは、彼女自身、これまでに経験したことのない、人生初のモテ期到来のキッカケにすぎないことを。


この後、追いかけて来た男子達の目の前で、彼女と彼がキスをしている場面に遭遇するなんてことも。


実はそれが「コンタクトが痛くて」「見せて?」的な急接近によるためで。

とんでもない誤解から、恋する男心に火を点けられた男子若干名による熾烈なアプローチ合戦が始まることも。


この時の彼女はまだ、知らない。


お読みくださいまして、ありがとうございました(o^^o)

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