集い 3
目的地まで電車で向かったが、車内での4人は案の定2対2に分かれる形となった。集合直後には挨拶もしたし、お守りを渡そうともしたが、涼子と美沙はいらない、必要ないと突っぱね、さとみもそれ以上強くは勧めなかった。座席は二人掛けが向かい合ったボックスタイプだったが、涼子と美沙はさとみたちが腰掛けるのを確認して、あえて通路を挟んだ席に座った。その行動を嫌味で子どもっぽい態度だと感じはしたが、その一方、2人らしい気がして特に腹も立たなかった。
昼食は村でと先方から言われていたため、昼の時間に間に合うように早く出発したが、そのためとにかくお腹がすいてたまらなかった。涼子と美沙はコンビニエンスストアで調達したお菓子を広げて、まるで自室のようにくつろぎ始め、一方のさとみはそれを横目に、鞄から紙製のランチボックスを出した。
「私たちも食べましょう」
ふたを開くと、ミニサイズのおにぎりがちんまりと8個並んでいる。
「え?でもお昼は村でって言われてるし・・・」
「そう思って、みんなで2個ずつ、ちょっとだけお腹に入れられるように準備したんだけど、あっちはあっちでやるみたいだから、こっちはこっちで食べましょう」
奈々の戸惑いを察知し、さとみが声を潜めて囁いた。そっちがその気ならば、こっちも好きにやらせてもらうと言わんばかりの態度に、さとみの不快感が感じられる。確かに、行く行かないの経緯はともかくとして、同行を決めてからのさとみは精一杯譲歩しているだろう。
しかし一方の涼子と美沙は、挨拶されても表情だけで反応を見せるにとどまり、お守りも小馬鹿にするような口調で拒んだ。確かにいらぬおせっかいと言われればそれまでだが、断るにしてももっと言い方があるだろうと奈々にも感じられた。
「そうだね、全部食べちゃお。もらうね」
「どうぞどうぞ。腐らないように梅にしたからね」
「でも、4つも食べたらお昼はいらなくなりそう」
米を口にしながら奈々が悪戯っぽく笑うと、さとみはそれ以上に、何かを含んだような不遜な笑みを返して来た。
「その方がいいかもしれなかったりして」
え?どういう意味?と疑問が奈々の頭に浮かんだが、さとみはそのまま視線を窓の外へと外し、楽しげにおにぎりを食べ始めた。
指定の駅まではかなり遠く、やっと到着した頃には既にお昼の時刻を回っていた。駅はまるで廃線でもしているかのように古く、しかも無人で人の気配がなかった。
「ほんとにここ?」
さすがの美沙が涼子に確認すると、涼子は送られて来たメールを確認しながら
「間違いないみたいだけど・・・」
とうなずいた。駅は申し訳程度の建物があるだけで、あとはコンクリートのプラットホームがのびているっきりで、周辺には雑草や樹木がうっそうと茂っている。駅の構内と呼べるか怪しいが、駅からは見通しがよくても、その森林が視界を遮っていた。
客はおろか駅員すらいないホームに、ただ4人だけが佇んでいるわけにはいかない。かといってこの誘いが嘘で、みこという女性に騙されていたのだとしたら、ここから離れてしまっていいものだろうかと迷わずにはいられなかった。
その沈黙を破ったのは、さとみだった。
「人がいる」
「え?どこ?」
3人が周囲を見回すが、ホームには人の影どころか猫の子一匹いない。とにかく命を感じさせる気配が皆無なのだ。しかしさとみは目を見開き、まるで猫が気まぐれに周囲を見回すかのような仕草を見せる。
「外」
「はあ?木しかないんですけど!?」
切れ気味に言い返す涼子だったが、本来、切れたいのはこっちの方で、切れられるべきは涼子じゃないかと奈々は考えた。強引な誘いでこんな田舎にまで連れて来て、あげく、騙されましたではシャレにならなさすぎる。
「外に迎えがいる・・・というか、人が集まってる。でも・・・」
「どこにもいないじゃん」
「出ればわかる。改札を出れば・・・でも・・・出ないでここで一晩過ごして、明日の電車で帰るのも手だけど」
「はああああ!?何言ってるの、この女!アタマおかしいんじゃないの!?こんな場所で一晩明かすとか、マジあり得ないんですけど!!」
今度は美沙の方が切れる。そしてそれを横目に奈々は、それはやはりさとみじゃなくて涼子に言うべきじゃないのかと、胸の内で疑問を感じた。
「じゃあ出る?どうせ無人駅みたいだから、誰もいなければ中に戻ればいいじゃない」
無表情にさとみが言い返すと、涼子と美沙は互いに顔を見合わせた。そして今の言葉には何も言い返さず、丸聞こえの文句を口にしながら改札へと進みだした。
「マジむかつく!嘘だったら絶対許さない!」
そう言いながら改札を抜け、駅の外へと足を運ぶと、いったい今までどんな死角にいたのだろうか。数人の男女がこちらを見つめながら立っていた。