集い 2
待ち合わせ場所に到着すると、2人の姿はまだそこになかった。もしかしたら奈々の予想通り、さとみを出し抜くためにお迎えにいったのかもしれない。さとみと奈々は口には出さないまでも、どちらも同じことを考えていた。
「あ、そうだ」
ふいにさとみが思い出したように、鞄についた小さなポケットから、小さな紫色の巾着袋を取り出した。袋には長い紐がついていて、絡まらないように本体に巻き付けられている。
「朝、急に来られて忘れてた。これあげるから、肌身離さずつけて」
受け取った奈々が紐をほどいて袋をあけると、中から小さな石が転がり出て来た。きらきらと光を反射していたが、当然、高価な宝石ではない。
「もしかして魔除け?」
嬉しそうに奈々が訪ねると、さとみが笑みを浮かべてうなずいた。
「そう。急ごしらえだから、こんなんしかできなかったけど、ないよりましかなって思って」
「ううん、さとみがおまじないかなんかしてくれたんでしょ?すっごい嬉しい!ありがと!」
「いえいえ、そのためについてくんですから」
奈々は石を指先でつまむと、視線より上に掲げて光で透かしてみる。
「きれー。ね、これ何の石?」
「水晶。お守りだからね」
再び石を袋に戻し、奈々はそれを首からぶら下げる。肌身離さずといわれたからには、首にかけてしまえという意味なはずだった。
「これ、一応島田さんと若野さんにも作って来たんだけど、つけてくれると思う?」
「うーん、どうかな。一応・・・聞くだけ聞いてみるとか?」
「そうだね、まあ・・・よかったらどうぞって感じで」
そう答えながらポケットの中の袋をちらりと見たさとみだったが、これまでのさとみとの経緯を除いたとしても、「みこ」さんへの共鳴ぶりから想像すると、2人が素直に受け取るとは考えにくい。それでも同じ学校の生徒として、最低限の義理は果たしたかった。
彼女たちの学校には、付属の中等部があった。高等部から入学したさとみと奈々に対し、涼子と美沙は中等部からの持ち上がり組だ。しかし持ち上がり組には入学すること自体が目的となってしまい、中学生にして燃え尽き症候群に陥ってしまう生徒が一定割合生じてしまう。今まで優等生として通ってきたのに、周りは当然ながら同じような学力の者ばかりで、自分を一目置いてくれなくなる。というより、全員がそんな環境で過ごして来たのだから、特別扱いしてくれるはずがないのだ。
努力に疲れ、授業に取り残され、しかしプライドは高い彼女たちは落ちこぼれにもなりきれず、見た目だけは校則に忠実な優等生なまま、遊びを覚えていく。涼子と美沙はまさに、そちら側の生徒だった。
「別に咎めるつもりはないんだけどね」
そう口火を切りながら、さとみは自分が奈々を咎めていることを自覚していた。
「奈々はなんであの人たちと仲良くしてるの?気が合う?」
「特にこっちから仲良くしてるつもりはないんだけど、あたし、名字が下村でしょ。涼子と出席番号近いんだよね」
指先でお守りの巾着袋をいじりながら、奈々はぼんやりした風情で続けた。
「話してみると悪い人じゃないよ。楽しく会話ができてる分にはね。でも、外で男の子とお茶してたとか、ナンパについてったって噂もあるから、仲間だと思われたくないってのも正直な気持ちかなあ・・・それに今回、勝手にケーバンばらされちゃったし、ちょっとどうなの?って気持ちが勝りつつある」
「そっか・・・」
さとみが奈々の愚痴に相づちを打ったそのとき、大きな通りの反対側の歩道から、涼子と美沙が歩いてくるのが目に入った。