誘い 2
「まずい・・・かな?」
気まずさをごまかすために精一杯の愛想笑いで返事をする奈々だったが、さとみの表情はかけらも崩れなかった。
「そうだね、おすすめできないと思う」
その言葉に、奈々の笑顔が固まる。
「ヤバい?」
「ちゃんと見てないからはっきりしたことは言えないけど、そんな気がするかな」
「え、何々!?やばいの?マジでほんとにヤバい祭なの!?」
顔を見合わせる二人の様子に、涼子と美沙が割り込んだ。
「逆に興奮してくるんですけど!」
盛り上がる二人をよそに、冷静なままのさとみの反応に、奈々のテンションは一気に縮み上がってしまった。奈々にとってさとみの「予言」は単なる予言ではない、ほぼ確実な「宣告」なのだ。
「ごめん・・・さとみがヤバいって言うなら、あたしパスする」
「はぁ!?」
「なにそれ!!」
急に参加の意思を撤回され、二人の顔が一瞬で不機嫌モードに変わる。
「もうあんたの名前、言っちゃってるのに!!」
「オカルトオフなら守山も一緒にって言ったから誘っただけなのに、なんで守山がだめって言ったらやめんのよ!!」
さとみと親しくない二人にとって、さとみの呼称は名字でしかなかった。が、それはさとみの方も同じだった。
「私は別に、奈々に強要はしてないわよ。ただまずいんじゃないのかってアドバイスしただけで、行く行かないの決定を下したのは奈々自身でしょ。だから、島田さんと若野さんが行きたいなら、勝手にどうぞ」
島田涼子と若野美沙にそう告げながら、さとみは腹の中であなたたちを守る義理はないしと舌を出す。とはいえ、そこまで冷酷になれないので、一応最後通牒は付け加えた。
「でも、本音を言えばあなたたちもおすすめしないわ」
さとみにまっすぐ見据えられ、さすがの二人も言葉を失い互いに顔を合わせた。そしてしばしの沈黙を守ったあと、一転、弱々しげに相談する。
「でも、ほんとにもう行くって言っちゃったんだもん・・・」
「断ればいいじゃない。急用ができたとか、なんとでも言えるでしょ」
ぴしゃりとそれだけ告げると、さとみは視線を再び本の世界へと戻した。が、彼女が続きを読むことはできなかった。ほぼ同時にチャイムが鳴り、次の授業の準備を促した。
昼休み、涼子と美沙はあえて奈々とは別行動をとり、人気の少ない体育用具室の前にいた。せっかく誘ってやったというのに、守山さとみの意見であっさりそれを反古にされてしまった。そんな彼女の対応に、どうしても納得ができなかったのだ。
「超むかつく。なんなの、霊能者気取りのあの女。奈々もさー、なんであんなのマジで信じちゃってるわけ?わけわかんない!」
「ほんとほんと、オカルトなんてマジであるわけねーじゃん。そんなのただの盛り上げ要素だろっての」
美沙の不満を受け、涼子がスマホをいじりながら同意する。自分がオカルトサイトのチャットに参加しているのだというのに、超常現象の存在を頭から信じていなかった。
「でもさ、涼子って何でオカルトサイトとか行ってんの?そんなん趣味だっけ?」
「あー、まあ嫌いじゃないよ。マンガとか映画とかさ。でもチャットはさー、なんていうか、出会い系?」
「出会い系?なに?顔とか知ってるの?いい感じの男とかいんの?」
美沙の問いに、涼子がスマホから顔を上げてにやりと笑う。
「まっさかー、チャットだよ。でもさ、あたしが女子高生って知って、他の人に内緒でメッセしてくる男がいるんだよねー。デビ男ってんだけど」
「マジで!そいつも来んの?」
「来る来る!だから絶対行きたいんだよね〜」
そう言いつつ涼子が手元の操作を終えると、ほとんど間髪入れずに着信音が響いた。涼子は美沙に了承をとらないまま、電話の相手に応答する。
「はい、あーみこさん?そうなんですよ〜急に行かないとか言い出して・・・え?直接?あ〜ちょっと待ってください」
どうやら相手はオフに招待してくれたチャット仲間らしいと、美沙はそのまま無言で待っていた。が、ふいに涼子が会話を中断し、先方の申し出を受けるか相談してきた。
「どうする?あっちが直で奈々が来るように説得するから、奈々の連絡先教えろって」
「マジで!?必死過ぎ。でもいいじゃん、断られる前に教えてたとか、てきとーにごまかしちゃえば。なんかこのまま守山の言いなりもむかつくしさ」
「だよねー、教えていっか」
そのまま再び相手との会話を再会し、涼子は無断で奈々の携帯番号を口にした。