誘い 1
「志加羽村?」
手元の文庫本から顔を上げ、さとみが聞き返すと奈々がうなずいた。奈々の後ろには別のクラスの涼子と美沙が立っている。
「聞いたことある?あたし知らないんだけど」
「私も知らない」
再びページに視線を戻しながらのさとみの返事に、後ろの二人が同時に口を開いた。
「なんかね、今度そこでお祭あるらしくって、来ないかって誘われたのね」
「りょーこが誘われたんだけど、あたしたちも一緒にどうぞっていわれたんだけど、そこいまいちどこかわかんないんだよね」
「でもさ、旅館とか泊まんなくても、家に泊めてくれるから交通費だけでいいですって言われてて、ちょっといいかなって思ったんだー」
「ラッキーだよねー」
涼子と美沙は、さとみにとってあまり接点のない二人だ。見た目こそ黒髪でまじめそうにしているが、さとみの目から見ると、その外見を武器に遊んでいるように感じられる。幼なじみの奈々は、どうやら同じクラスということで彼女たちと親しくしているようだが、あまり近づかない方がいいというのが本音だった。
「奈々も行くの?」
思わずそう尋ねたが、幼なじみの返事はわかっていた。
「うん、お祭ってのにもちょっと興味があってね」
「志加羽チンコン祭っていうらしいんだけど、オカルトっぽいんだって!」
涼子がぐいっと前に出て、わずかばかりの情報を提示する。
「あたし怖い映画とかちょー好きで、オカルトサイトの掲示板に出入りしてんの。この前・・・いつだったかな?みこってHNの人が初めてきて知り合ったんだけど、その村ってみこさんの住んでるとこなのね。すっごい田舎なんだって!」
「オカルトサイト?」
涼子の言葉を受け、さとみが本を閉じてまっすぐに彼女を見据えた。
「なんでわざわざそんなのを見るの?」
「え?だっておもしろいじゃん!そのお祭も、なんかオカルトっぽい感じで興味あるんだよね!」
あっけらかんと答える涼子に、さとみは無表情なまま首だけを傾げる。関わらないですむならば、あえて魑魅魍魎に飛び込んで行かないでもいいものを、スリルを求めたとしても、映画や小説といった架空で満足していればいいのだ。
「奈々も行くの?」
さとみが眉をひそめて尋ねると、奈々が返事を言いよどんだ。さとみがこういう反応をするときは、必ず自分の申し出を否定的に考えている時なのだ。