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シゴキ  作者: 大友貴生
12/13

村 2

みこの家は家屋というよりも、屋敷という方がしっくりくるほど大きかった。また、田舎ということもあるだろうが敷地も広く、庭には花に埋もれるように、しごき人形が並んでいた。

「お金持ち〜!」

sabuと呼ばれていた学生が、冷やかすように声を上げると、みこは困ったような笑みを浮かべて否定する。

「そんなことないです。こんな山奥の村ですから、田舎も田舎。いくら土地が広くったって、たかが知れています。とはいえ、部屋数はたくさんありますからね」

「やっぱ、横溝ワールドだよな」

「オカルトマニアの方にそう言われると、なんだかちょっと複雑ですけどね。さあみなさん、どうぞ」

うながされるままにみんなが中に入ると、みこは大きな声をあげた。

「ただ今戻りました。みなさんをお連れしましたので、お出迎えを!」

そしてその声に、奥からふくよかな女性と、すらりと背の高い女性が現れる。2人は声を揃えるかのように、みこに向かってうやうやしくお辞儀をした。

「おかえりなさいませ、美子様」

「みなさんをお部屋へご案内して。とりあえず荷物を置いてもらってから、お昼にして」

「美子様はいかがいたしますか?お昼はご一緒に?それともお部屋にお持ちしますか?」

「みんなと食べるから、準備が整ったら呼んでちょうだい」

みこーーよしこーーは2人の態度を当然のように受け流し、きっぱりとした口調でそれだけ指示すると、一転、再び笑顔になって招待客を振り返った。

「それじゃあみなさん、遠くからいらしていただいたんですから、お疲れでしょう。これからお部屋に案内させますから、荷物を置いて少し休んでください。お昼の支度ができましたら、声をかけますので。あ、そうそう。部屋について、相部屋がいいとか一人部屋がいいとか要望のある方は、遠慮なくおっしゃってくださいね。できるだけご希望にお応えするよう、いいつけてありますから」

「えっと、みこちゃんは?」

髪を染めた長身の男が、屋敷の空気に多少気圧されつつ尋ねた。その問いに、みこは小さく首を傾げてみせる。

「私も少々疲れましたので、部屋で休ませていただきます。でも、お昼はご一緒しますから、そのときみんなで、お互いに紹介し合いません?」

「あ、そうだね。さっきから、一部を除いて誰が誰だか全然わからなかったんだ。自己紹介は大事ですよね、チャットで親しくなったとはいえ、顔は知らない同士だったんだし」

さきほどから横溝正史にこだわっている男が、みこの言葉を自分の提案であったかのように同意した。彼が納得したことで承諾はとれたと判断したのか、みこはそのまま背を向けると、正面の階段の横をすり抜けて、2人の女性たちが現れた奥へ、まるで吸い込まれるように消えた。

残された招待客たちは、自然、2人の女性の方へと視線を向ける。するとふくよかな方の女性が左手で階段を示し、

「みなさんのお部屋は2階に用意させていただいてます。こちらの階段からどうぞ」

と告げてから、先に上へと歩き出した。彼女の後ろからぞろぞろと階段を上りはじめると、背の高い方の女性が最後尾についた。客の中では涼子と美沙が最後に歩いていたが、すぐ後ろに家の者がいるというのに、2人は興奮気味に騒ぎだす。

「なんかすっごいお嬢様って感じじゃない?」

「だよねー!ていうか、お手伝いさんふたりもいるとか、やっぱりお金持ちだよね?」

「うん、そう思う。マジでリッチだよねー!」

その2人の会話を受け、先頭を案内している女性が涼子たちの方を振り返り、2人の会話に割り込んだ。

「お手伝いは私だけですよ」

「え?」

「でも・・・」

唐突にそう言われ、驚いて言葉を失った2人に代わり、眼鏡の青年が質問した。

「じゃああの人は、違うんですか?」

「あちらはこの家の奥様、美子様のお母様でいらっしゃいますよ」

最後尾からみんなを見上げるその女性は、すらりとしていて年の割にはきれいな女性だったし、みこもまた美人の部類に入る美貌を持っていた。しかし母親というその女性の顔立ちには、どこにもみことの共通点はない。ましてなぜ自分の娘を様付けして呼んでいるのか、彼らにはその理由がまったく思いつけなかった。

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