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45話



きらびやかな照明に照らされて、私の視界はどんどん滲んでいく。


と思っていたら、頬を温かいものがつっと流れている。


溢れる涙は止めようがなくて、既にお開きとなった会場の片隅でハンカチを瞳にあてていた。

気持ちが落ち着くまでもうしばらく、夏弥が抱きしめてくれるこの時間を過ごして何もかもを整理したい。

ここに来た時には予想もしなかった現実が私の感情すべてを硬直させて、思考回路を破壊した。


思えば、この紅色のワンピースをおばあちゃんに見せられた時から動き出していた真実への道のり。

私の出生に関する正確な情報を誰かが知っているとは思わなかったのと、すぐそばにあった同じ血が流れる人。


それがシュンペーでありシュンペーの父親だなんて、だれが想像しただろう。


『隼平の大切な先輩としてでいいから、これからも花緒さんの人生に参加させてもらえないだろうか』


シュンペーのお父さんからの真摯な言葉が、私の涙腺を一気に壊して、もとに戻せなくなった。

これまで、どんな悲しいことも、切なく身を切られるような苦しいことも、泣かないように、笑ってやり過ごしてきたけれど。


人は温かい言葉をかけられたり、抱えている重いものをおろせる時には泣いてしまうのだと気づいた。

そう、私は一人ぼっちではない。おばあちゃんしか身内がいないわけじゃない。


自分と血の繋がりがある人がこの世にいて、近くで呼吸ができる幸せが寂しさを失くしていく。


「落ち着いたか?」


「うん……ごめんね」


「いや、いいんだ。花緒が落ち着くまでこうしてるから大丈夫だ」


パーティーの行われていた会場では、ホテルの人たちが撤収作業を始めていて、片隅にいるとはいえ、作業の妨げになっているのは間違いない。夏弥の胸の中に包まれて泣いている私の事を怪訝そうに視線を送る人もいる。


「夏弥、おばあちゃんは?」


ふと気づいて顔をあげると、優しい笑顔の夏弥の視線に気持ちが落ち着くのを感じる。


「『今日は瀬尾さんの部屋に連れて帰っていいよ。話はゆっくり今度しよう』って言って帰ったよ。

シュンペーがタクシーで送って行ったと思う」


「あ、そうなんだ、シュンペーが……」


単なる後輩だと思っていたけれど、今ではもう私の人生に絡み合った大切な人となったシュンペーを思い出して複雑な気持ちになる。これまでだって、他の同僚よりも私と近い距離にいて親しさだって格別にあった彼が、私の従兄弟だったなんて。


きっと、お互いに大きな声で口にする事はないと思うけれど、その事実をシュンペーもシュンペーのお父さんも穏やかに受け止めてくれた事だけで、私は救われた。これまでの私が経験したすべての悲しみが、今日この日の喜びによって小さくなる。


「私ね、この会社に入ってよかったよ……」


シュンペーから『木内さんを、俺の……大切な……先輩をよろしくお願いします』と頭を下げられた時、かなり戸惑いながらも大きく頷いてくれた夏弥。

その姿が私の涙を助長しているって気づいてるかな。


こうして夏弥の胸に包まれているだけで涙は止まらない。

自分の出生の事実を知った事で泣いているのか。

そんな状況なのに、何も聞かずにただ優しく包み込んでくれる夏弥が大好きで泣いているのか。


わからないくらいに気持ちは荒れているけれど。


「……夏弥の部屋に帰りたい」


今は、それだけ。


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