ひとつだけ約束してくれますか?
変な宗教家のおっさんと男との掛け合い漫才のようなコントです。
「世界を一つに〜」
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「こんにちは〜、世界を一つにしませんか?」
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「そこのお嬢さん、世界は一つ。世界を一つにしませんか?」
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駅前で、宗教勧誘の男が道行く人に『怪しげなフレーズ』で声をかけていた。
その姿は怪しい白装束でも豪華な装飾品で着飾ってもいなかった。
ただの「アフロヘアーの普通のおっさん」だった。
誰もが目を合わせず早足で避けて通って行く。
そんな誰もが無視して通り過ぎる中、ある男だけがふと足を止めた。
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「あの……あなたの話、聞いてもいいですよ」
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男は友人と野球観戦に行くため駅前で待ち合わせをしていたのだが
後30分も遅れてくると知ってとても暇を持て余していたのだ。
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(いい暇つぶしになれば…)
男はそう思って声をかけたのだった。
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「本当ですか! では私の話を聞く前に、一つだけ約束してくれますか?」
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「……約束によるけど。まあ、駄目元で言ってみろよ」
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「分かりました、駄目元で言いますね。
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『うんこだけは絶対に食べない』って約束してくれますか?」
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「うんこなんて約束する以前に絶対食わねえわ!
どんな極限状態になっても死んでも食わねえわ!」
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「あぁ、駄目元で言ってみてよかったです」
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「全然駄目元じゃねえわ! 全員即答でオールオッケーだわ!
え、何、お前には俺がうんこ食いそうに見えてんの!?」
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「いや、人生何があるか分からないじゃないですか」
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「何があろうと食わねえよ!」
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「本当に?…じゃあ試しに2択を出しますね?必ずどっちか選んでくださいね」
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「わかったよ。出してみろよ」
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「目の前に『ほうれん草』と『うんこ』が出されたら、どっち食べますか?」
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「ほうれん草に決まってんだろ!! 比較対象がおかしいんだよ!」
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「じゃあ『カレー』と『うんこ』だったら?」
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「カレーだわ! なんでちょっと美味そうなものにランクアップさせてんだよ!
どっちにしろカレー一択だわ!」
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「じゃあ……『うんこ』と『うんこ』だったら、どっち食べますか?」
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「両方うんこじゃねえかよ!! どっち選んでも地獄だわ! 食わねえよ!!」
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「繰り返しになるけど、死んでも食わねえから!」
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「でも、そこまで言えるのは『生きてるうち』だけですよね?」
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「……は?」
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「つまりそれは……死んだら食うってことですよね?
ゾンビになってうんこ食うってことですよね?」
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「死んだ後のことなんて知らねえわ! なんでゾンビになる前提なんだよ!
それにゾンビはうんこ食わねえだろ!」
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「腹が減ってたらゾンビも食いますよ。
表現的に好ましくないから作中で描いていないだけです」
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「なんだよ表現的に好ましくないって! それ言ったら人を喰らうシーンだって好ましくねえだろ!」
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「あれは一部の層が求めているからです。欲望を伴った快楽は道徳すら飲み込む。すべては需給ですよ」
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「そういうこと言うな! 角が立つから俺を巻き込むな!」
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「それに、ゾンビがうんこ食ってるなんて知られたら『ゾンビの質』が落ちるんです。業界はクオリティ重視なんですよ。先人が積み上げてきた品格を壊すわけにはいかないんです」
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「なんだよゾンビの品格って!! ゾンビに品格なんてねえよ!
一体誰があんな化け物尊敬してんだよ!」
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「ゾンビって実話ですよね? 実話のオマージュですよね?」
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「実話なわけねえだろ!! あんなもん本当にいたら怖すぎるわ!」
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「はぁ……真実を知らない人はこれだから困る。
正しい宗教の教えを知らないと、全く話が通じないですね」
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「ゾンビの真実教える正しい宗教ってどんな宗教だよ! やばい宗教だろ!」
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「やばいわけないじゃないですか。……
まあ、別の意味でやばいかもしれませんが……」
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「『別』なんていらん! 『別』を取れ! そのままでも十分やばいんだよ!」
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「なんせ我が宗教は、世界中の宗教を一つにまとめられる唯一無二の存在ですからね」
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(……一つにまとめる? こんなに世界中で争いが絶えないのに、そんなことが可能なのか?)
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男は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
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「……ま、万が一それが本当なら、名前だけでも知りたいな」
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「ふふ、興味が出てきましたね? ……ふう、仕方ないですね。名前だけですよ?」
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「早く教えてくれ!」
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「『真実ゾンビ教』です」
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「そのままじゃねえか!! 無理無理無理!絶対無理だわ! 誰も受け入れねえわ!」
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「あなたは何もわかっていない。真実ゾンビ教は『死後』を包括している唯一の宗教です。この世の生き方しか示せない他の宗教とは訳が違うんですよ」
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「なんだって……!?」
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(死後を包括する……? それが万が一にも本当なら、触りだけでも知りたい……!)
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男は期待を込めて、おっさんの次の言葉を待った。
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しかし——沈黙。 重苦しい沈黙だけが、二人の間に流れる。
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「……え?」
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「『え?』って何がですか?」
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「いやいやいや! この流れはさっきのパターンで言ったら『ふう、仕方ないですね。では触りだけですよ?』の流れだろ! それが自然な流れだろ!」
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「いや、教えるかどうかを決めるのは僕なんで」
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「なんでだよ! ちょっと期待した俺の期待損じゃねえか! なんで俺がお前に精神的ダメージ負わされなきゃいけねえんだよ! 『触りだけ』でいいから早く教えろよ!!」
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男が身を乗り出して叫ぶと、おっさんはフッと鼻で笑い、急に落ち着いた手つきで胸ポケットから1枚の紙を取り出した。
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「そこまで言うなら、触りだけですよ」
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「おお……! やっと教える気になったか!」
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「では、まず第一条。『入会に際し、いかなる場合も食前に歯を磨くべからず』」
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「……は?」
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男は一瞬、耳を疑った。
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「第二条。『食後に磨くこと。特に甘いものを食べた後は速やかに磨くこと』」
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「ちょっと待て。お前、それさっきから何読んでんだ?」
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「当教団の厳格なる聖典、『虫歯予防の心得』です」
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「虫歯予防の心得!? ゾンビ関係ねえじゃねえか! ただの歯磨きの指導じゃねえか!」
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「当然です。我が教団において『真実ゾンビ』とは、食後の歯磨きを怠り、生きたまま歯を失っていく哀れな者たちの隠語メタファーですから」
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「ただの虫歯患者じゃねえか!! ゾンビ関係ねえ!!」
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「ですから最初にお約束したでしょう? 『うんこ(食べかす)だけは絶対に口の中に残すな(食うな)』と」
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「そんな意味で言ってねえだろ!!」
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男の絶叫が、静かな路上に空しく響き渡った。
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「どうですか?(満足げに頷いて)うまいこと言えたでしょう?」
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「誰が上手いこと言えつったんだよ!!……って、結局ただの歯磨きの話かよ!! ゾンビどこ行ったんだよ!!」
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ハァハァと肩で息をつく男に対し、おっさんは紙をポケットにしまうと、真顔でボソッと言った。
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「……冗談ですよ」
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「は?」
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「冗談です。場を和ませようと思って」
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「和むわけねえだろ!! どこに和む要素あったんだよ! 完全に意味不明な空気になったわ!」
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おっさんはフッと寂しげに目を細め、遠くの空を見上げた。
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「……本当の『真実ゾンビ教』の教えは、そんな甘いものじゃありません」
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「また始まったよ……。もういいよ、俺帰るわ。疲れた」
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「『死後を包括する』という意味。それは——人間が死んでゾンビになった時、最初に失うのが『羞恥心』だからです」
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「……」
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「だからこそ、生きてるうちに『一番恥ずかしいこと(=うんこを食わない)』を固く心に誓っておくことで、死んで理性を失った後も、かろうじて人間としての最低限の尊厳が保たれる……それが、我が教団の真実です」
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男は足を止め、じっとおっさんを見つめた。
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「……お前、さっきから『うんこ』と『ゾンビ』の話しかしてねえな?」
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「はい。当教団の双璧をなす二大テーマですので」
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「やっぱりただのヤバい宗教じゃねえか!!」
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完
こんな宗教はありませんのでご注意下さい。
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