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第5話「ナイトの消失と、記憶のない男」


 月光の下、シャドウウルフの群れを瞬時に眠らせた「銀髪のナイト」。リィンはその圧倒的な美しさと力に見惚れ、呆然と立ち尽くしていた。


「あ、あの……! 助けていただいて、ありがとうございます……!」


 リィンが震える声で呼びかける。だが、ナイトは答えない。それどころか、その凛とした立ち姿が急にぐらりと揺れた。

 彼を包んでいた鋭い魔力の霧が霧散し、次の瞬間には、その場にドサリと崩れ落ちた。


「えっ、ちょ、ちょっと!?」


 慌てて駆け寄るリィン。倒れた男の顔を覗き込むと、そこにはナイトの面影はあるものの、ひどく疲れ切った、いつものノアの姿があった。


「ノア!? なんで、どうしてここに……ナイトさんは!?」


 周囲を見渡すが、誰もいない。ただ、眠りこける狼たちと、同じく深い眠りに落ちたノアがいるだけだった。


 ……翌朝。


 森のシェルターで目を覚ましたノアは、大きなあくびをしながら、焚き火の番をしていたリィンに声をかけた。


「……ふわぁ、寝不足。あれ、なんで」


「何も覚えてないの!あんた、昨夜のことは!?」


 リィンは詰め寄る。昨夜、ナイトが消えた後に倒れていたノア。まさか同一人物なのか、それともナイトに助けられただけなのか。


「昨夜? ……薬草を探してたのは覚えてるけど、急に眠気がきて……気づいたら朝だった。薬草、拾えたか?」


 ノアは、死んだ魚のような瞳で首をかしげる。その顔には、昨夜の凛々しさは欠片もない。


「……覚えてないの? 嘘でしょ、あんなにすごい魔法……」


「魔法? 俺は魔力ゼロ判定なんだが。……腹減ったな、パン食べたい」


 ノアのあまりにいつも通りの「ポンコツ」っぷりに、リィンの疑惑は霧散していく。


「(……やっぱり別人よね。あのナイトさんが、こんなにだらしない男のはずがないわ。きっとナイトさんがノアを運んでくれたんだわ!)」


 リィンの中で、「素敵なナイト様」と「ダメな後輩ノア」が完全に別の存在として定義された瞬間だった。

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