第18話「最果てへの大行進と、小さな羽音」
数日後。街の東門の前には、かつてない活気が溢れていた。
今回の「最果ての森・生態調査」は、ギルドが威信を懸けて行う大規模合同クエストだ。参加者は総勢五十名。複数のDランク、Cランクパーティが組み合わさり、前線、中衛、後衛と役割が分担されている。
「……リィン、やっぱり帰りたい。人が多すぎて、空気が薄い……」
「ダメよ! もう受付済ませちゃったんだから!」
ノアは台車(リィンが格安で借りてきた、荷物兼ノアのベッド用)の上で、眠たそうに目をこすっている。その頭の上には、試験の時より少し立派になったぷーちゃんが、誇らしげに胸を張って鎮座していた。
「見て、ぷーちゃんもやる気満々じゃない。あんたも少しは見習いなさいよ」
「キュイ!」
ぷーちゃんは、背中の翼のような膨らみをパタパタと動かしている。まだ飛ぶことはできないが、時折、その小さな羽からキラキラとした銀色の粉が舞い、ノアの周囲を包み込んでいた。
「(……あの粉、ノアのピリついた魔力を落ち着かせてるみたい。本当に不思議な子ね……)」
リィンがそんなことを考えていると、集団の先頭から太い声が響いた。
「よし、全員揃ったな! 今回の目的は討伐ではなく、あくまで調査だ。だが、最果ての森は何が起きるか分からん。各々、自分の命を最優先にしろ。……出発だ!」
ベテラン冒険者の合図とともに、大部隊が動き出す。
道中、他の冒険者たちはノアとリィンを見てヒソヒソと囁き合っていた。
「おい、あの眠そうなガキが、例の『蒼炎の主』の現場にいたって奴か?」
「嘘だろ。隣の娘が頑張ったにしても、運が良かっただけじゃないか?」
そんな陰口を意に介さず、ノアは台車の揺れに身を任せて深い眠りに落ちていた。
しかし、森の入り口に近づくにつれ、ぷーちゃんが敏感に反応し始める。
「キュ、キュイィ……」
ぷーちゃんが周囲を警戒するように首を振る。その目は、ベテラン冒険者ですら気づかない、森の奥深くから漂ってくる「不自然な静寂」を捉えていた。
かつてない大規模な行進。
その賑やかさとは裏腹に、最果ての森は、巨大な口を開けて獲物が飛び込んでくるのを静かに待っているかのようだった。




