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第16話「月下の再臨と、小さな成長」


 一泊二日の昇級試験。初日はリィンの奮闘もあり、通常のフォレスト・ウルフ数体を退治して、合格ラインをほぼ確実にしていた。


「ふふん、見た? ノア。私の剣筋、だいぶマシになってきたでしょ」

「……あぁ、すごかったな(見てない)」


 野営の火を囲みながら、ノアはぷーちゃんを枕にうとうとしていた。リィンは誇らしげに鼻を鳴らす。このまま夜を明かし、明日ギルドへ戻れば無事にDランク昇格……のはずだった。


 だが、深夜。

 森の奥から、心臓を直接掴まれるような重圧が漂ってきた。


「……ッ! なに、このプレッシャー……」


 リィンが飛び起きると、暗闇の中から青白い炎を纏った巨体――シャドウ・ウルフの特別個体『蒼炎の主』が姿を現した。試験範囲外の、それも最果ての森の奥深くにいるはずの魔獣だ。


「逃げ……なきゃ……」


 足が震えて動かない。周囲の受験生たちも絶望に顔を白くさせている。

 『主』が大きく口を開け、冷たい炎がリィンを飲み込もうとしたその時――。


「……うるさいって、言ってるだろ」


 背後で、ノアがふらりと立ち上がった。

 しかし、その瞳は焦点が合っておらず、体からは漆黒の霧が立ち上っている。


「ノア……? ダメ、逃げて……!」


 リィンの叫びが届く前に、ノアはその場に力なく倒れ込んだ。

 ――と同時に。

 倒れるノアの影から、あの時と同じ、白銀の鎧を纏った「ナイト」が音もなく這い出した。


 ナイトは一歩、踏み出す。それだけで、森全体が静寂に包まれた。蒼炎の主が恐怖に身を震わせるが、抵抗の隙すら与えられない。ナイトが一度腕を振るうと、特別個体の巨体は音もなく両断され、霧のように霧散した。


 後に残ったのは、最高純度の輝きを放つ、親指ほどの大きさの魔石一つだけだった。


「…………」


 ナイトはリィンを一瞥すると、再びノアの影の中へと溶けるように消えていった。


「……ナイト様……」


 翌朝。

 ノアは「死体か?」と思われるほど深い眠りに落ちており、どれだけ揺さぶっても起きない。完全に使い物にならない状態だった。

 しかし、彼の髪の中にいたぷーちゃんだけは元気いっぱいだった。昨夜の特別個体の魔石を、リィンが止める間もなく「パクッ」と平らげてしまったのだ。


「キュイ!!」


 一晩明けて、ぷーちゃんは以前より一回りほど成長していた。

 これまではノアの髪の中にすっぽり隠れていたが、今は頭の上に乗ると少し存在感があるサイズだ。背中には小さな翼のような膨らみも見え、銀色の鱗もより硬く、美しく輝いている。


「……ノアは全然起きないし、ぷーちゃんはなんだか少し立派になっちゃってるし……」


 リィンは、泥のように眠り続けるノアを台車に乗せ、一回り重くなったぷーちゃんを膝に抱えて、複雑な心境で街への帰路につくのだった。

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