第15話「不本意な昇格と、リィンの作戦」
宿での「監視生活」が続いていたある日、リィンはギルドの受付で一枚の依頼書を叩きつけた。
「いい? ノア。今の私のランクじゃ、受けられる依頼が限られてるの。これじゃあ、ぷーちゃんの贅沢な魔石代なんて稼げないわ!」
「……贅沢? 石なんて、そこら辺の砂利でもいいだろう……」
受付のカウンターで立ったまま寝ようとするノアの首根っこを、リィンが掴んで引き寄せる。
「ダメよ! ノアの魔力を吸ってくれるぷーちゃんは、あんたの唯一の安眠グッズなんだから。……だから、これよ!」
リィンが見せたのは、EランクからDランクへの『一斉昇級試験』の案内だった。今回は「最果ての森」の入り口付近に生息する「フォレスト・ウルフ」の群れを討伐する実地試験だという。
「……群れか。騒がしそうだな」
「そうよ。だから、あんたは後ろで寝てなさい。私が全部倒して、私のランクを上げてあげるから。……その代わり、試験が終わったら、ぷーちゃんの魔石を買いにいきましょう」
「……キュイ!」
ノアの髪の中でぷーちゃんが賛成の声を上げる。ノアは重い腰を上げ、仕方なく試験会場へと向かった。
――試験当日。
会場には、やる気に満ちた新人冒険者たちが数十人集まっていた。その中には、ノアの不潔な(といってもリィンが洗わせているが)身なりを見て鼻で笑う者もいた。
「おいおい、あんな眠そうな奴と一緒に試験かよ。足手まといだな」
そんな陰口を無視して、森へ入る二人。リィンは気合十分で剣を抜く。
試験会場の周辺は、最果ての森に近いだけあって、通常の森よりも空気が張り詰めている。
しばらく進むと、茂みからフォレスト・ウルフの群れが飛び出してきた。
「来たわね! ……っ、数が多い!?」
リィンは震える手で剣を構え、ノアを背後に隠した。
「逃げて、ノア……! ここは私が……!」
その時。
背後で盛大なあくびをする音が聞こえた。
「……あー。……静かにしてくれ。頭に響く」
ノアがふらりと前に出る。彼は半分寝ぼけた眼差しで、迫りくる狼の群れをじっと見つめた。
彼が指をパチンと鳴らそうとした瞬間。
ノアの足元から、どろりとした漆黒の魔力が溢れ出した。




