第13話「問い詰めと、解けない謎」
宿の食堂。
運ばれてきた湯気の立つスープを前に、ノアは今にも机に突っ伏しそうな様子でスプーンを動かしていた。その向かい側で、リィンは一口も手をつけず、腕を組んでノアを凝視している。
「……何よ。その『何も覚えてない』って顔は」
リィンの低い声に、ノアが眠そうに目を上げる。
「……本当に、覚えてないんだ。逃げてる途中で、急に強烈な眠気が来て……。気づいたら崖の下で、ぷーちゃんに顔を舐められてた」
「崖の下……。あんた、そこがどんな場所か分かってるの? 騎士団が全滅した現場のすぐ近くなのよ」
リィンは身を乗り出した。
「街では、最果ての森から迷い込んだ特級魔獣の仕業だって大騒ぎよ。でもおかしいじゃない。あんたは無傷で、ぷーちゃんもピンピンしてる。……ねえ、本当に『あのナイト様』は来なかったの?」
ノアはスプーンを止め、少しだけ視線を泳がせた。
「……ナイト? さあ。……夢でも見てたんじゃないか、お前が」
「私が夢を見てたって言うの!? 失礼ね!」
リィンは憤慨して背もたれに体を預けた。
問い詰めれば問い詰めるほど、ノアの言葉は要領を得ない。だが、彼のボロボロになった服の袖口に、見たこともないような「黒い砂」が付着しているのを、リィンの目は見逃さなかった。それは、強力な魔力が霧散した後に残る残滓のようにも見えた。
「(……絶対、何か隠してる。あるいは、本当に無自覚に何かが起きてるの……?)」
リィンは溜息をつき、自分の分のパンを半分ちぎって、ノアの皿に放り込んだ。
「もういいわよ。これ以上聞いても、あんたの頭の中は寝床のことでいっぱいでしょ」
「……助かる。リィンは、たまに優しいな」
「『たまに』は余計よ! ……ほら、ぷーちゃんも欲しがってるわよ」
ノアの髪から顔を出したぷーちゃんが、リィンのちぎったパンを器用に前足で受け取る。
事件の真相は闇の中。だが、リィンの中で「この眠り続ける少年を一人にしてはいけない」という直感は、確信へと変わっていた。
「ノア。明日からは、絶対に私の視界から消えないで。……いいわね?」
「……努力はする。……たぶん」
窓の外では、撤収作業を始める帝国の別の調査班が慌ただしく動いている。
その喧騒とは対照的に、宿屋の一角には、どこか落ち着かない、けれど切っても切れない二人の奇妙な沈黙が流れていた。




