第10話「安眠の城と、夢の住人」
冒険者ギルド「ルナ」からの帰り道。
リィンは、ノアの髪の中で眠る銀色の小さな魔獣――「ぷーちゃん」――を見つめながら、深刻な顔で立ち止まった。
「ちょっとノア。あんた、今どこに住んでるの?」
「……町外れの、レンガ倉庫の隅。静かでいい」
ノアは気だるげに答える。彼が住んでいるのは、雨風をしのぐのが精一杯な、ほぼ野宿に近い廃倉庫だった。
「倉庫!? ダメよ、そんなところ! そんなところに、そんな希少な魔獣を置いたら、悪い冒険者に狙われちゃうわよ!」
リィンはノアを倉庫へ引きずっていく。そこは確かに静かだが、冬場は凍死しかねない場所だった。
「それに、ぷーちゃんも風邪をひいちゃうわ! ……だから、もっとちゃんとした場所に引っ越すわよ!」
リィンがノアの腕を引いて向かったのは、町の中央にある、少し高貴な雰囲気の宿屋だった。
「ここならセキュリティもバッチリだし、何よりベッドがふかふかよ!」
「……高そうだ。報酬を安眠の材料に使いたい」
ノアは渋るが、リィンは「ぷーちゃんの安全のため!」と押し切る。
部屋に入ると、確かに今までとは比べ物にならないほど清潔で、静かな部屋だった。ノアはベッドに倒れ込むと、その快適さに一瞬で眠りに落ちそうになった。
「あー、やっぱりリィンは頼りになる……」
「ちょっと、すぐに寝ないの! ほら、この部屋でぷーちゃんのお世話するのよ!」
リィンに起こされ、不機嫌そうに目を覚ますノア。しかし、肩に乗ったぷーちゃんが不思議な鳴き声でノアの頬を撫でると、少しだけ表情が和らいだ。
「……まぁ、静かだ」
静かな部屋、そして寄り添うぬくもり。
帝国を追放された王子は、ボロボロの倉庫から、ほんの少しだけ快適な「新しい寝床」を手に入れた。
……しかし、この快適な宿代を払うために、次のクエストはこれまで以上にハードなものになることを、ノアはまだ知らない。




