第1話「静寂を愛する王子、不本意ながら追放される」
帝国の至宝「輝きの祭壇」の前で、第9王子ノア・ゼニスは、冷ややかな視線を浴びていた。
「魔力測定……ゼロ。属性……無し」
神官の声が祭壇の間に響き渡る。静寂の後、周囲の貴族たちからクスクスという失笑が漏れた。
煌びやかな銀の髪、燃えるような青の瞳を持つ兄王子たちに対し、ノアは猫背で、常に目の下に濃いクマを作っている。何より、彼の纏うオーラは「キラキラ」ではなく「どんより」としていた。
「はっ、やはり『出来損ない』だな、ノア」
第一王子が鼻で笑う。帝国では、派手な攻撃魔法こそが至高であり、強さこそがエレガントとされる。ノアの地味な佇まいは、帝国の美学に完全に反していた。
「ノア・ゼニス。お前を帝国の恥として、塔へ永久幽閉……いや、帝国外への追放を言い渡す」
皇帝の言葉に、ノアは小さくため息をついた。
正直、どちらでもよかった。塔は塔で兄たちが嫌がらせに来てうるさいだろうし。
「……追放でいい。静かな場所をくれるなら、それで」
ノアのボソボソとした返答に、周囲は呆れ返った。
彼らは知らない。ノアが「魔力ゼロ」なのではなく、彼の魔力があまりに強大すぎて、測定器が認識できなかっただけだということを。そして、その力が彼の精神を常に削り、強烈な寝不足をもたらしていたということを。
「さらばだ、無能王子、今後はゼノスを名乗ることは許さん」
軍の魔導師によって転送魔法が発動し、ノアの姿は瞬く間に帝都から消え去った。
彼が捨てられた場所は、凶悪な魔獣が徘徊する「最果ての森」。
夜の帳が降りる直前。捨てられたノアは、周囲を見回した。木々の葉擦れの音すら、今の彼には心地よい。
「……やっと、寝られるかな」
沈みかけた太陽が、水平線の向こうへ消えようとしていた。
ノアの「真の力」と「安眠への旅」が、今、始まろうとしていた。




