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2003年度

 福岡での3年の勤務を経て、再び東京に異動になった。27歳、社会人も6年目になり、そろそろ日々を楽しく過ごすだけというわけにも行かなくなってくる時期だという自覚はあった。


 ただ、何か具体的なキャリアプランがあったかというと、そういうわけでもない。この時期は就職氷河期のどん底で、とにかく数年にわたって新卒の採用が極端に少ない。そのため、5年経っても入社してくる後輩はごくわずかで、担当部門によっては実質的に自分の年次がまだ一番下だったりした。


 年功序列の最後の時期でもあり、福岡に異動する際に一応昇格はしたけれど、東京に戻るときにはそれもなかった。今後は完全に、人事査定によって昇格が決まるらしい。しかし、昇格しようがしまいが、タイトルは変わっても下っ端なのは同じ。実際にはキャリアプランどころではなく、こんな時代に就職できただけマシ、という時代がまだ続いていた。


 そんな感じで、仕事の方は相変わらずだったが、この年、私生活の方が動き出す。仕事にもある程度慣れて、余裕はないものの時間を作ることぐらいはできるようになっていたこの頃、大学時代のサークル同期と、とある飲み会で偶然再会し、なぜか意気投合して交際を開始したのだ。サークルで盛り上がっていた頃には全然意識しなかったのに、お互い社会人として全然違うフィールドで年数を過ごすうちに、新しい刺激を感じるようになっていた。


 半年程度の交際を経て、2003年が終わる頃には結婚を意識するようになり、2004年の春を迎えようという頃、プロポーズに至った。そのときのシチュエーションや言葉は、ここでは秘密にしておこう。だけど、彼女はそのプロポーズを即断して受けるようなことはしなかった。翌週に、今後の人生のことをしっかり話し合って、それで納得して結論を出そう、というのがその日の答えだった。


 この1週間は、本当に気が気ではなかった。そもそも何を話し合うのかも、その時点では聞かされていなかったからだ。土曜日の午後、彼女は僕の住んでいる部屋に来るという。部屋に来るだけなら、これまでも何度も来ていたが、そこでする話とは何なのか。このときの僕には何も分かっていなかった。そして、実際に土曜日を迎えて、プロポーズが単なる勢いによるものであったことを思い知らされるのだ。


 土曜日に行われた話し合いは、将来の生活設計についてだった。どこに住むのか、子供は何人ほしいのか、実家との関係はどうか、そうしたことを、かなり具体的に、それこそ仕事の会議のように話し合うことになった。人生の中でこのような話し合いをしたのは、おそらく高校3年生のときの進路面談ぐらいだった。この話し合いをプロポーズへの答えの条件にするというのは厳しいと感じたけれど、逆にいえば、それだけ真剣に検討しているということでもある。一緒に生活し、子を育てるということになれば、たしかに必要なことだ。


 そして、話を進めていくなかで、彼女が僕よりも、社会人としてのステージを一歩先んじていることも分かった。彼女が勤務する会社は、いわゆるインフラ系のB2B製造業で、この不景気の中でも安定した業績を維持していた。新卒の採用も細りながらも続いており、部下もいる。これだけでも一歩先を行っていたけれど、そうした会社で人事、総務系の仕事をこなしていた彼女は、仕事に生かすためにファイナンシャルプランナー3級の資格を持っていた。これでは敵わない。


 当然、現在の資産状況から、将来の収入などに関する計画、妊娠可能年齢や定年までの年数を含めた子育てプラン、そうしたものを午後いっぱいかけて棚卸することになった。棚卸の結果は、めでたく合格。プロポーズは受け入れられ、晴れて結婚に向かって進んでいくことになった。


 この話し合いの中で、僕がTOPIXのETFを可能な限り毎月均等額で、1万円程度になるよう調整して購入していることも、もちろん開示した。「投資なんて危ないことをしている」と言われる覚悟もしたが、意外にもFPの彼女の反応は高評価だった。むしろ、「広く分散された資産を定期的に積み立てるのは正しい戦略だ」と褒められてしまったのだ。竹中平蔵の発言から何となく始めたことが、この場面でむしろ好印象になって、少し舞い上がったぐらいだ。


 そして、結婚したらお互い1万円ずつを出し合って、1万円分はTOPIXのETFに、もう1万円分は海外先進国株式に積み立てていこうということになった。気づけば、彼女にうまくおだてられながら、将来の無駄遣いの防止と、半ば強制的な貯蓄の仕組みづくりを約束させられていた。なるほど、こういうところにも、FPとしての腕が光るのかもしれない。



【家計と資産の概要】2004年3月

 年度末の時点での家計と資産の状況です。


 収入の部

  月収:31万円(残業込み)

  手取:25万円

  年収:480万円


 貯金の部

  貯金:130万円


 資産の部

  株式

   36万円

  投資信託

   日本株式:14万円(△1万円)


 積立状況

   TOPIX連動:毎月1万円


※投資信託は年度末の時価を表示し、括弧内で損益を表示します。△が含み益、▲が含み損です。



【コラム】結婚と人生設計

 今の時代、結婚する人もいればしない人もいます。また、子をもうける人もいれば、そうでない人もいます。これはどちらが正しいというものではなく、個人の価値観や、さらには出会いの有無といった偶然にも左右される事柄です。


 この物語の主人公は、結婚して、子供がほしいという選択をしました。そして、その第一関門になるプロポーズの時点で、はじめて人生設計というものに真剣に向き合うことになりました。しっかりした彼女のおかげですね。


 実際には、そのような人生設計を特に考えずに、勢いで結婚するという人もいます。これはこれで、よくあるパターンだと思います。とにかく好きな人と一緒になりたい、その一途な思いから結婚という選択をすることは、条件を検討してプロポーズに応じるか考えるこの物語の彼女よりも、むしろ自然でしょう。


 ただ、そうではあっても、どこかの段階で、人生設計についてはきちんと考えておいた方がよいと思います。これは、計画通りの人生を歩むことがよいという意味ではありません。むしろ逆で、計画通りには絶対にならないからこそ、一定の振れ幅をイメージしながらその先の人生をシミュレーションしてみることに意味があります。現実がそこからズレてきたら、そのズレの程度をみながら、現実の生活の方を計画に近づけることもできれば、計画の方を現実の生活の方に動かすこともできるからです。でも、何の指針もなしに行き当たりばったりで進み続けてしまうと、気がついたときには軌道修正が難しくなっている、ということもあるのです。


そしてそれは、結婚する場合も、しない場合も、同様です。そして、勢いで結婚した場合や、結婚しない場合は、そうしたことを考える機会が意外となかったり、かなり遅くなったりしがちです。社会人になった時、5年目、10年目、あるいは転職したとき、といった一定のタイミングで、人生設計を考えたり、修正したりして過ごしていくと、よりよい人生が拓けていくかもしれません。

 この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。


 物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。


 この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。

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