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2001年度

 福岡での勤務も2年目を迎え、相変わらず仕事に遊びにと充実した日々をおくっていた。平均的な昇格を経て給料も少しは上がった。ただ、将来のことも考えて、昇給した分の多くは蓄えにまわすことにした。


 この時期、周囲でも株式投資を始める人がぽつぽつ出始めた。ネットでの取引が活発になってきて、家にいながらトレーダーのようなことをする人が出てきたのも、この頃だったと思う。ただ、トレーダー的なスタイルは自分には合わなかった。そもそも日本の株式市場が開いている時間帯は仕事をしていて、相場にかかりきりにはなれない。それに、陳腐かもしれないけれど、せっかく購入した銘柄に夢を託したいという気持ちもあって、高頻度に売買をしようという感じでもなかった。


 これは多分に、両親の影響もあるように思う。両親は、ごく普通のサラリーマンだった。でも、どういうわけかバブル以前の時期から証券会社に口座を持っていて、結構な数の銘柄の株式を保有していた。バブルが盛り上がる途上で値上がりした株式を売却して不動産を購入したので、一時的に保有株式はほとんどなくなったけれど、その後も、たとえばオリエンタルランドが上場すると聞けば1単位買ってそのまま保有する、といった調子で、長いこと株式を保有して、株主優待を得る、というスタイルだった。山一証券の株式を経営破綻するまで持っていたりもしたので、決して投資が上手な両親ではなかったけれど、そんな姿を見ていたからか、不思議と行動の傾向は、似たようなものになった。


 というわけで、保有株は保有株、仕事は仕事、貯蓄は貯蓄という感じで生活していたこの年、大事件が起こる。9.11のテロだ。希望の象徴だった「空」が、一瞬で、世界の恐怖と混乱の象徴に変わった。


 この日のことは、今でもよく覚えている。夜10時のニュースステーションをつけたら、ニューヨークのワールドトレードセンタービルから煙が上がっている。火災でも起きているのか大変だなと思っていたら、生放送中のテレビ画面の中で、もう1機の飛行機がビルに突っ込んで大爆発を起こす。これは一体、何を見ているのだろう、意味が分からぬまま、徹夜でテレビを見て、翌日は文字通り仕事にならなかった。


 これだけの大事件なので、株式市場も大きな反応を示す。それが最も強烈なネガティブインパクトになった業界の1つが、航空業界だった。それはそうだろう。あんなテロが起こって、中東では戦争がはじまるという状況で、飛行機の乗客が増えるわけがない。全日空の株式は、購入からわずか半年で、結構な額の含み損を抱えるに至った。もともと直近で使う予定のないお金で購入したものだから具体的な痛みはなかったものの、あぁ、これが下げ相場の感覚なのか、と実感した。


 夏目漱石は、留学時代のロンドンで、ヴィクトリア女王の崩御を迎え、「新世紀の開始、甚だ幸先悪し」と日記に書き留めたという。漱石がいう新世紀とは20世紀のことだったが、21世紀も、大概幸先の悪い始まり方をしたのだった。



【家計と資産の概要】2002年3月

 年度末の時点での家計と資産の状況です。


 収入の部

  月収:28万円(残業込み)

  手取:22万円

  年収:430万円


 貯金の部

  貯金:90万円


 資産の部

  株式

 34万円



【コラム】テールリスクと保険

 2001年9月11日の同時多発テロのような事態は、滅多に起きません。普通に日常生活をおくっている限り、気にする必要がほぼないような、そんなリスクです。しかし、実際に起きてしまうと被害が甚大で、それこそ取り返しのつかない影響を世界に与えます。テロとは違いますが、2008年のリーマンショックや、2011年の東日本大震災なども同様です。こうしたリスクのことを、テールリスクといいます。


 物語の本文では書きませんでしたが、こうしたテールリスクに備える仕組みが、保険です。確率は低いけれど、それが直撃したら回復不能なことになるようなリスクに備えて、同様のリスクを負っている人がお金を出し合って積み立てて、リスクが現実化したときに、その不運なリスクに見舞われた人に積み立てたお金を支払う、それが保険の本質なのです。


 同時多発テロも、倒壊したビルを所有していた会社は莫大な損害を被りましたし、飛行機をハイジャックされて墜落させられた航空会社も、航空機という高額の資産を失いました。また、何よりも、テロの犠牲になった被害者は、その人自身の命が失われるということだけでなく、その収入で生活していた家族の生活までも危機に瀕する事態になったのです。


 こうした危機的な事態に対して、保険は有益に作用します。失った資産に対応する保険金を得られれば、ビルを再建し、航空機を購入し直すことができます。失った命を取り戻すことはできませんが、せめて、遺された家族の生活を保障することができます。そうしたリスクに対処するために、保険というのはよく考えられた仕組みなのです。


 ただ逆に、保険がそういうものだとすると、多くの人が直面するリスクに対する保険には、実はあまり有用性がありません。その代表的な例が、がん保険でしょう。日本では、2人に1人ががんになります。つまり、がん保険に入っている人の半分は保険金を受け取る計算です。単純に考えると、受け取る金額は支払った保険料のおよそ2倍。確かにないよりはマシかもしれませんが、なければ生活が立ち行かない、というほどの保険ではありません。


 これとは逆に、小さな子がいる場合の生命保険は、非常に大きな意味を持ちます。月々の保険料は数千円から高くても1万円ほど。それで、もし自分が不慮の事故で亡くなった場合、3000万円や5000万円の保険金を家族に遺せます。そのお金で、わが子が大学を卒業するまでの学費をまかなえるかもしれません。滅多にないけれど、それが現実化したときに大変なことになる、まさにテールリスクに備えているわけです。


 ちなみに、ここでテールリスクの例としてあげたリーマンショックに関しては、保険の出る幕は全くありませんでした。そもそも個人向けにそのような保険はありませんし、リーマンショックのときは保険的な作用をもつ金融商品自体が破綻して被害を広げてしまったので、それこそ規格外のリスクが現実化したのです。そのあたりの経過は、このあとの物語とコラムで追いかけます。ご期待ください。

 この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。


 物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。


 この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。

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