1999年度
どうにか無事、社会人2年目の春をむかえることができた。仕事には慣れてきたし、仕事の後や週末に遊びに行く物理的な余裕を作ることもできるようになった。
ただ、経済情勢は相変わらずで、給料も、わずかばかりの定期昇給があっただけ。うちの会社では、絵にかいたような年功序列がこの頃も残っていて、入社して2年間は、東京近辺か大阪近辺の大き目の拠点で仕事のイロハを学び、3年目に地方に異動するときに、人事査定に応じて最初の昇格がある。逆にいうと、最初の2年は下積み扱いだから、これは仕方ない。
ただ、参ったのが、社会人2年目からやってくる住民税。せっかく4月に昇給したと思った分が、6月以降まるごと天引きされて、定期昇給は手取り上、ほぼ無意味だった。手取りが減らなかっただけマシと思うしかない。
経済は相変わらず冷え込んでいたけれど、それでも時代は確実に動いていた。特に通信関係の進歩が著しく、携帯電話が普及期に入り、NTTドコモがi-modeを開始した。小さな画面で表現にも限界はあるものの、携帯からネットを見るという体験がこの時から始まる。町中には小さな携帯ショップが次々とオープンし、どの店もにぎわっていて、不景気な世の中の中に少しだけ変化の兆しが見えた。
そして、通信の普及は、不景気の極みだった金融業界も少しずつ変えていった。金融機関の相次ぐ破綻と並行して、各種の規制が緩和され、銀行や証券会社がインターネットに進出する動きが活発になる。この前年の1998年に松井証券からはじまったインターネット取引は、1999年の手数料自由化に伴ってじわじわと普及していく。銀行がネットバンキングを開始し、中にはi-modeの携帯電話からも操作が可能なところも出てきた。
こうしてみてみると、寒く雪に閉ざされた不景気のどん底でも、次の機会を狙って地上に出ようとするタケノコがあるのだな、と感じられた。携帯電話の普及が人々の暮らしを変えはじめ、それが金融の仕組みにも波及していく。証券のネット取引、銀行のオンラインサービス。こうした流れの先に、今の仕事がある。
そして、こうした動きはどれも、コンピューターや通信に関するものだった。ちょうど大学2年のときにウインドウズ95がデビューし、大学にはインターネットにつながったコンピュータールームが整備されていく、大学時代に感じた“新しい時代の風”が、ようやく社会の現場にも吹きはじめた気がした。
パソコンも細かいことは分からなくても、エクセルで簡単な関数を使って数値処理をするぐらいならできる。実際にそうやって効率化できる仕事もあったりして、社会人2年目も後半を迎える頃には、世の中の景気の悪い話はそれはそれとして、やれる場所で頑張っていこう、という前向きな気持ちに、ようやくなりはじめたのだった。
【家計と資産の概要】2000年3月
年度末の時点での家計と資産の状況です。
収入の部
月収:26万円(残業込み)
手取:20万円
年収:380万円
貯金の部
貯金:50万円
資産の部
なし
【コラム】税金と社会保険料
前回のコラムは、給料がどのように計算されるのか、というものでした。いわば、給料を積み上げていくプラス要素です。今回は、その逆。給料から天引きされる税金や社会保険料についてみてみます。
給料から引かれる税金は、所得税と地方税(県民税と、市町村民税)です。所得税は所得額が大きくなるほど税率が上がっていく累進課税という仕組みになっています。一方で住民税は、この物語で主人公が新人社会人だった1990年代後半は累進課税でしたが、2007年度以降は一律10%になりました。
この2つの税金には、「課税最低限」というラインがあり、それ以下の収入だと、そもそも課税されません。「103万円の壁」なんて言われていたのが、その最低限のラインです。ただ、この「壁」は毎年の税制改正で引き上げられる傾向で、2026年には176万円になるといわれています(法律の改正が必要なので、本当にそうなるかは国会次第です)。
このように、税金の仕組みは毎年のように変わります。なので、給料から引かれる税金の詳細は、毎年の税制改正をウォッチするしかありません。が、少なくとも初任給前後の給料額の場合、実際に徴収される税金の額は、そんなに多くはなりません。
さて、物語では、社会人2年目になって住民税が課税されるようになったために、定期昇給分が無意味になってしまった、というくだりがあります。これはどういうことでしょうか。
実は、所得税は、給料を支払うたびに会社が税金を天引きして国に納めます。これを「源泉徴収」といいます。一方で地方税は、前年の所得に対して、税金の額が確定し、所得が発生した次の年の6月からその翌年の5月までの期間、給料から天引きされます。そのため、社会人1年目は所得税は天引きされますが、住民税は天引きされません。他方で、2年目は、住民税が乗っかってくるので、天引き額が増えるのです。
ちなみにこれは、退職時にも同じ形であらわれます。所得税は退職した年までですが、住民税は退職の翌年に、かなりの金額を支払わなければならなくなえることもあるのです。退職金がある場合はそんなに心配はいりませんが、収入がなくなった後、翌年に住民税の請求がやってくるため、思わぬ出費に感じられることもあります。
次に、社会保険料です。サラリーマンの社会保険料は、厚生年金、健康保険、そして40歳以上の人には介護保険があります。介護保険は若いうちは関係ないので除くとして、現在、厚生年金は収入の18.3%、健康保険はだいたい収入の10%です。ただし、これを会社と社員で折半する、という建前になっていますので、給料から引かれるのは、厚生年金が9.15%、健康保険が約5%となり、全体でみると14%くらいになります。
住民税が10%で、所得税の最低税率が5%ですから、率だけみると、税金と社会保険料はそれほど違いがありません。でも、給与明細を見てみると、初任給レベルの収入の場合、社会保険料の額の方がたいてい高くなります。これは、社会保険料が各種の所得控除前の満額の給料に対して14%程度乗ってくるのに対して、所得税や住民税は、基礎控除や給与所得控除など、各種の控除がされた後の金額に対してかかってくるためです。
これ以上の細かい話は、興味があれば調べてみましょう、という領域になります。ただ、毎月の給与明細から、どのぐらい税金や社会保険料を引かれているのか、意外と意識していない人も多いようです。けれど、税金や社会保険料は、この社会で生きていく、いわば入場料のようなものです。その明細の1つ1つに目を向けることが、社会人としての“お金と付き合う力”の第一歩になるのです。
この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。
物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。
この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。




