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2025年度

 2025年度、第1子が大学に進学し、第2子は高校に進学した。仮に第2子が1年浪人して、さらに大学院の修士まで進むとして、教育費がかかる期間はあと10年。僕はいま50歳だから、60歳には教育費の出費は終わる。そして、定年までは更に5年。この5年間は給料は下がるけど、教育費抜きの生活を維持するだけなら、全く問題はないだろう。


 対する妻は、数年内に部長職に就任することがほぼ確実視されている。そうなると、おそらく定年までの15年ほどを部長や本部長といった上級管理職として過ごすことになるのだろう。昨今の情勢からすれば、女性役員ということだって、あるかもしれない。ますます多忙を極めそうだ。でももう、下の子も高校生で、お弁当作り以外は何も口出しをすることもないし、遅く帰ってきた妻をねぎらいながら晩酌をするのが1日の締めになっている。家庭には、穏やかな時間が流れていた。


 少し変わったのは、大学に進学した上の子への金融教育を始めたことだ。といっても、何かを上から教えるというのではない。浪人せずに進学した上の子に、少し奮発した入学祝として、50万円分の投資信託をプレゼントしたのだ。ただし、いくつか条件を付けた。50万円分の投資信託をプレゼントするから、夏休みまでの間にどの証券会社に口座を開設し、何を買うかプレゼンせよ、もし知識が必要であれば、投資対象については無制限に相談に乗るし、文献も紹介する、その投資信託は、大学卒業後10年経つまでは売ってはいけない、と。


 要するに強制的に約15年の長期投資をさせることにしたのだ。この間、その投資信託を通じて、株価や債券価格の変動がどうなるかを見てくれればいい。そしてあわよくば、その間に大暴落や、大暴騰があって、それでも15年を乗り越えてみると増えていた、という経験をしてくれれば、さらによい。大学卒業から10年経っても、まだ32歳。そこから積立投資を始めても、リタイヤまでには30年以上の時間がある。説教がましく言ってもきっと受け入れてもらえないから、そこに気づいてもらうにはどうすればよいか、そんなことを考えての「プレゼント」だった。


 18歳にとって、50万円という金額は、すごく大きい。この年のゴールデンウイークには、相当真剣に、証券会社の選び方や投資対象、そして、僕がどういう投資をしてきて、うちが今、どういう資産状況にあるか、といったことを聞かれた。聞かれたことにはすべて正直に答えたけれど、我が家の資産総額を知ると、驚愕していた。おそらく、この時ほど子の尊敬を集めたことは、これまでなかっただろう。


 そんな2025年末の我が家の資産残高は、貯金が2500万円近く、そして、投資の残高が8000万円に達していた。2年前に5000万円を超えた残高が、この2年の絶好調の株価でさらに5割増しとなり、毎年、僕の年収をはるかに上回る果実をもたらしてくれた。でも、その裏に、リーマンショックの地獄を耐え抜き、闇夜の中にお金を投じ続けた日があったことを、子どもたちには余すことなく伝えた。あんな思いをしてほしいとは思わないけれど、でも、そういう苦境を越えていくことで開ける未来があるという知識は、きっと、この子たちの将来の力になるだろう。


 最初は、漠然とした老後の不安のような話から始めた積立だった。それが、妻と出会い、理論的な裏付けも得、そして、リーマンショックとその後の闇夜のときを経て、ついにここまで来た。ここから先は、次の世代が、新しい物語を紡いでいくだろう。相変わらず人手不足だから、子どもたちの就職も特に心配はない。氷河期世代としては、もうそれだけで十分だ。何だか引退する人の気持ちみたいになってしまったけれど、この年、確実に、人生のなかの1つの扉が静かに閉まっていくのを、感じたのだった。



【家計と資産の概要】2025年12月

 家計と資産のバックテスト、到達点です。


 収入の部

  夫

 月収:49万円

   手取:37万円

   年収:770万円

 月収:58万円

   手取:43万円

 年収:920万円


 貯金の部

貯金:2430万円


 資産の部

  株式

   30万円

  投資信託

   日本株式:2934万円(△1737万円)

   世界株式:5152万円(△3975万円)

   投信合計:8086万円(△5712万円)


 積立状況

   TOPIX連動:毎月5万円

   先進国株式投信:毎月5万円

   累積積立投資額:2374万円



【コラム】億り人とFIRE

 投資に関する本や雑誌を読んでいると、「億り人」や「FIRE」という到達点を強調するものが多く見られます。たしかにひとつの象徴的な目標ですし、特に「億」というケタが持つインパクトは非常に大きいので、そこにいかに早く到達してその後の人生を楽しむか、というのは、夢のある話を売るという意味では理解できます。


 しかし、現実がどうなのかというと、少し違った観点からの検討が必要かもしれません。


 まず、「億り人」。最近よく聞く言葉ですが、投資などで1億円を超える資産を保有するに至った人、ということです。とはいえ、1億円の資産を得たとして、もしそれが投資によるものだとすると、その資産は日々増減します。それこそリーマンショック級の経済危機に襲われたら、半減してしまうかもしれません。つまり、ある一点で「億」を達成してもあまり意味はなく、それを維持し、不測の事態があっても動じない状態になっていないと、下手に多額の資産を持っているだけに、かえってストレスがたまりかねません。


 次に「FIRE」です。一応用語の意味を確認すると、これは、Financial Independence Retire Earlyの頭文字をとったもので、要するに、経済的独立を達成して早期リタイヤ(退職)する、ということです。ここでいう経済的独立というのは、誰かに雇われて仕事をするのではなく、自分の資産と不労所得で生活を成り立たせる、というぐらいの意味でとらえておけばよいと思います。そういう状態で、たとでば30台でリタイヤして、その後の長い人生を楽しむ、というコンセプトです。


 ただこれは、単身者であれば見通しも立てやすいですが、伴侶がいたり、ましてや子どもがいたりすると、億り人どころでない多額の資産を積み上げない限り、実現は事実上不可能です。では、それが可能になる単身者がいいのかというと、単身者は1人で人生を飛び続けることになります。この場合、仕事と投資という2つのエンジンあれば片方のエンジンに変調を来しても何とかなりそうですが、この片方を自発的に切ってしまうとなると、航続距離の範囲内に着陸できる場所ぐらいは確保しておかないと、緊急事態が起きたときに大変なことになりそうです。しかし、FIREをうたう記事に、そこまで視野に入れたものはあまり見かけません。


 つまりどちらも、人目を惹くキャッチフレーズ以上の意味はないということです。一方で、物語の主人公は、50歳にしてほぼ1億円の資産を達成しました。しかしこれは、夫婦でお金を出し合い、子どもの生活も含めた家族を支えるためのものですから、主人公が1人で達成したものでもなければ、1人でその全てを使えるものでもありません。この物語の主人公は、「億り人」になったのではなく、「億り家」を築いたということなのでしょう。


 そうした観点でみてみると、たとえば夫婦共働きで子どもがいない家庭であれば、実は1億円に達する資産を形成することは、それほど難しいことではありません。それこそ、1人1月8万円、2人で毎年200万円を積み上げていくだけでも、40年で8000万円になりますから、ここにほんのわずかの投資利益が加われば、1億円を突破するのは、考えようによっては簡単だといえるかもしれません。


 他方で、片働きで子どもがいるという家庭の場合、資産1億円というのは途方もなく遠い目標になります。そして、その1億円を投資で保有するのか不動産で保有するのかに大きな違いはないとすると、このような家庭が首都圏で家を持つということもまた、極めて大変ということになります。


 単身者はそのどちらでもなく、また、投資判断も自分の一存で可能なので、やり方次第で1億円を目指すことは十分可能です。だからこそ、そういう層に訴求する記事が世の中にあふれるのでしょう。ただ、実際にそうなった時に、得た資産を何に使うのか、FIREのために使うのか、その資産を精神安定剤として仕事をしていくのか、ということは、考えて損はないと思います。


 そして、物語の主人公のように、共働きで、子どももいるという家庭では、投資の利益はまさに家族のバッファになります。ただ、この主人公がそれだけのものを築けたのは、リーマンショックにあたって一歩もひるまず、むしろ積立額を増額し、その後もそれを維持したからです。これが非凡な決断であることには違いないので、その意味では、一定の特殊なルートに入れば1億円を目指せる、といえるのかもしれません。


 しかし、物語の主人公は、夫婦で投資の歴史と理論を学び、相場の将来を信じて予め準備をしていたから、このような決断ができた、という面はあると思います。とすると、大事なのは、この夫婦の非凡さそのものというよりも、その非凡さをもたらした知恵にあるといえるかもしれません。さすがに暴落相場で投資額を増やすというのは強烈ですが、そこまでいかなくとも定額積立を継続した人は、やはり相応のリターンを得ています。額の多少や、「億」という象徴的なインパクトの有無はありますが、それでも、歴史を顧みた場合にその行動がもたらす結末を知識として知っておくことには、意味があるのではないでしょうか。


 最後に、どのような人生を選び、どのような資産形成戦略をとるとしても、最終的に大事なのは、資産を積み増すこと自体に意味があるわけではない、ということです。何かのときに躊躇なくお金を投じることができる、その後の人生を維持できるという事実にこそ、意味があります。何しろ、どんなにお金をためても、そのお金をあの世に持っていくことだけは、絶対にできません。でも、最後のその日を、憂いなく安らかに迎えられるようにすることはできます。その終着点を見据えた物語は、これからも続いていきます。

 この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。


 物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。


 この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。

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