2019年度
2019年度も引き続き、アメリカと中国の貿易摩擦が主要課題だった。ただ、状況は国によりまちまちで、何だかんだといいつつ株価も堅調に推移したアメリカに比べ、Brexitの後処理に追われるヨーロッパは冴えなかった。日本はこうした世界的な課題が直撃したわけではないものの、10月の消費税率引き上げに伴う消費の低迷もあって、全体としては弱含みだった。
全体として不透明感がある中で年が明けると、世界の景色は一変する。新型コロナウイルスという、文字通りのブラックスワンが舞い降りたからだ。
中国で正体不明の肺炎が流行している、という報道が出たのが2020年の正月明け。当初は、中国武漢市における原因不明の肺炎、などと報じられていた。この頃は、隣国は大変だな、というぐらいの、今思えば暢気な感想しか持っていなかった。この20年、SARSも、新型インフルエンザも、結局日本では大した問題を引き起こさなかったので、今回も似たようなものだろうというバイアスがかかっていた。
状況が一変するのは、1月末から2月頭にかけて。この時期、日本でも感染者が確認されはじめる。ただ、その多くが武漢への渡航歴がある人や、武漢からの観光客と直接の接点がある人で、日本国内で広まっているという感じではなかった。他方で、中国の武漢の状況は非常に悪化していて、1週間の突貫工事で患者1000人を収容できる病院を作る、などというスケールの話が報道されていた。それでも、どこか対岸の火事という感じは否めなかった。
日本に暮らしている僕たちが、新型コロナウイルスを我が事として認識したのは、感染者が出たクルーズ船が横浜港に到着し、乗客乗員が下船もできずにそのまま船内検疫になった2月初旬。横浜港まで来ているのに下船ができないクルーズ船というのは、見た目にもわかりやすい。裕福な人たちが楽しむ贅沢な旅行、という華々しいイメージと、新型感染症の落差も際立っていた。
2月は、世界中に新型コロナウイルスが広がっていった時期だった。日本は他の先進諸国に比べるとスロースタートだったものの、この時期はまだ海外旅行なども制限されていなかったので、ヨーロッパやアメリカに旅行した人が、新型コロナウイルスに感染して帰国し、帰国後に発症するということが相次いだ。後に自粛警察とよばれる人たちが目立ち始めたのもこの頃で、たとえば卒業旅行に行った大学生が糾弾されたりもしていた。たしかにこの非常時に海外に行くか、と直感的に思う人がいるのは分からないではない。でも、その問題の根源は、大学4年の卒業前を逃したら、長期の海外旅行に行くのが難しい日本の勤務体系の方だろう。そっちを批判すればいいのに、旅行に行った人を責めるというのが、何とも暗い気持ちにさせられた。
僕の会社でも、2月中旬以降、出張がほぼ止まった。ギリギリの時期に海外出張に行った同期がいたが、帰国後は大変だったようだ。この頃は、海外からの帰国者の公式な隔離は始まっていなかった。しかし、会社からは自宅勤務を命じられ、しかし、出国前に仕事の資料などを家に持ち帰っていたわけではなかったので、職場に電話をかけて資料の宅配を依頼するところからだったとこぼしていた。社会が全面的にテレワークに移行する前夜、実際にはまだまだ紙ベースのアナログな資料が多く、これが、翌年度の僕たちの仕事を圧迫していくことになる。
他方で、日常生活はそれなりに続いていく。子ども達の学校も、3月の終業式まではほぼ通常通りだったし、まだ日常が、辛うじてその形を保っていた。
【家計と資産の概要】2020年3月
年度末の時点での家計と資産の状況です。
収入の部
夫
月収:49万円
手取:37万円
年収:800万円
妻
月収:50万円
手取:38万円
年収:830万円
貯金の部
貯金:1630万円
資産の部
株式
26万円
投資信託
日本株式:1206万円(△364万円)
世界株式:1662万円(△840万円)
投信合計:2868万円(△1204万円)
積立状況
TOPIX連動:毎月7万5000円
先進国株式投信:毎月7万5000円
累積積立投資額:1664万円
【コラム】ブラックスワン
物語の本文に、「ブラックスワン」という耳慣れない言葉が出てきました。この言葉は、いくつかの分野で参照される単語で、分野によって意味が違います。たとえばクラシックバレエの知識があれば、白鳥の湖に出てくる黒鳥32回転を思い浮かべるかもしれません。
本文中の「ブラックスワン」は、そうした芸術分野のものではなく、経済分野の比喩です。その名も『ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質―』という本まであります(名著なので、少し長いですが読んでみることをお勧めします)。これは、かつてスワン、つまり白鳥とは白いものしか知られておらず、黒い白鳥なんてあり得ない、と信じられていたことに由来します。しかし、実際に黒い白鳥が発見され、あり得ないと思われていたことが現実になる、ということの比喩として「ブラックスワン」という言葉が使われるようになりました。これをさらに一歩進めて、ほとんど無視されていたリスクが現実化する、という比喩表現が成立したのです。
比喩の内容がかなり重層的なので、「ブラックスワン」と言われてその言葉から意味を直ちに想像することは難しいと思います。しかし、そういう悪夢のような出来事の象徴として、ポンッと、この言葉が使われることがあるのです。
とはいえ、人類の歴史は、あり得ないと思われていたことが現実に起こってしまうことの連続でした。21世紀に入ってからだけでも、2001年9月11日の同時多発テロ、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災とこれに伴う原発事故、そして、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックと、思いもよらないようなことが起こっています。
これらを並べてみると、同時多発テロは民族や宗教に端を発する犯罪、リーマンショックは当時の金融業界の闇、東日本大震災は自然災害とそれに伴う人災、新型コロナウイルスは保健衛生上の綻びと、それぞれ分野が異なっています。さすがに東日本大震災級の自然災害が10年おきに起こるようなことは、考えにくいわけですが、個別の分野でみれば低確率のできごとでも、社会全体としてみると、5年から10年に1回くらいは、どこかの分野で何かが起きる、ということも、全く珍しくはありません。
人生というのは、こういう自分ではどうしようもない、その時代その時代に明らかになるブラックスワンと向き合いながら、それぞれの場面でどういう道を選び取っていくかという選択の連続でもあります。この物語は、家族の成長と資産形成を軸にしていますから、どうしてもこれらのイベントが株価に与える影響を中心に据えることになってしまいます。でも実はそれだけではなく、例えばこうしたイベントが人々の思想や、価値観、そして行動に与える影響には、非常に大きなものがあります。
人生の貴重な事件を費やすべきことは、資産形成以外にも多々あり、むしろそちらの方が人生の本道でしょう。ですが、経済状態というのは確実に人生に影響する事項ではあるので、その不安を取り除けるならば、それは大きな力になります。積立投資は大して手間もかからず、経済に関心を持つきっかけにもなりますから、そのための有力な選択肢になることでしょう。
この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。
物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。
この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。




