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1998年度

 どうにか無事、内定先の会社の入社式の日を迎えた。内定通知書を受け取ってから今日までも、びっくりするようなことの連続だった。


 まず、1997年11月に、北海道拓殖銀行が経営破綻し、山一証券が自主廃業を決めた。「社員は悪くありませんから」と社長が号泣する異例の記者会見を見ながら、気分は沈む一方だった。この2社に限らず、内定式から実際の入社までの6か月の間、内定先の企業の業績が極度に悪化して内定が取消になったとか、他人事では済まないような話を、いくつも耳にした。


 内定通知書をもらって一安心と思ったら、そこから入社までも息つく暇もないほどに不景気な経済イベントが連続し、どうにか1998年4月1日の入社式を迎えたときには、もう経済危機や企業破綻は、もう、お腹いっぱい、という感じだった。


 しかし、まだはもうなり、もうはまだなり、である。


 新入社員としてバタバタと日々を過ごす中で、朝の出勤は早く、夜の帰宅は遅かった。それでも、夜11時のワールドビジネスサテライトは、飲み会でもない限り必ず見るようにしていて、その日の経済ニュースを振り返るのが習慣になっていった。が、この時期、そこで流れるニュースの酷いこと酷いこと。銀行への公的資金の注入にゼネコン各社の苦境、景気は最悪なのになぜか円高に転じて製造業も苦境。どこを見てもよいことがない。朝の満員電車に揺られながら、景気の悪さが空気の重さのように感じられた


 政治の世界も混沌としていて、消費税率引き上げを主導した橋本内閣は参院選で惨敗。自民党は参議院で単独過半数を失い、こんな経済情勢の中で首相が退陣することになる。これを受けて開かれた臨時国会では、小渕首相が選出され、この国会がそのまま、金融国会とよばれる国会になった。


 金融再生法はどうにか成立したものの、その後も金融機関の厳しい状況は続き、年末にかけてその勢いは加速していく。10月には長銀が経営破綻し国有化、12月には日債銀も経営破綻し国有化。GDPは史上最悪のマイナス成長。もう何も信じられない年の瀬だった。


 そして、一般のサラリーマンもこうした情勢に否応なく巻き込まれていく。後に「追い出し部屋」と呼ばれることになる特殊部署が大手の企業でも出現し始め、報道されたりもした。それまでも「リストラ」という名称の人員整理はかなり行われてきていたものの、それが行き着くところまで行き着いて、会社にしがみつく人を振り落とすために様々な仕組みが開発されるという新フェイズに入ったのだった。


 しかし、新社会人になった僕が最初に直面したのは、こういうダイナミックな経済とは全く無縁の、小さな危機だった。


 その危機は、給料の支払いスパンに由来する。就職した会社は、毎月末日締、翌月20日払いという、よくある給与支払日だった。ただこれだと、初任給が入るのは5月20日。しかも、就職に伴って実家を出ていたので、就職してからの50日は、給料がない状態で何とかしないといけない。


 幸い会社の寮に入っていて、寮費は初任給以降の給料から天引きされるので、家賃の支払いや日々の朝食の支払いはなかったものの、それ以外の費用はどうやってもかかる。といって、新入社員の貯金なんて大学時代のアルバイトの残りだから、たかが知れている。当時は今ほどクレジットカードも通用しなかったので、カードを使って支払い時期を1か月ジャンプさせるということも難しかった。そんな中で、初任給までの50日間、ギリギリの資金繰りをすることになった。


 けれど後になって思い返してみると、このとき、ギリギリの資金食いを体験できたことは、その後、資金計画を立ててお金を回していくという場面で結構役に立ったように思う。最初のボーナスが出て以降は、ざっくり10万円単位ぐらいで口座の残高がどのぐらいかを把握していれば支払いに苦労をすることはなくなったものの、最後の最後は1日単位の資金繰りがあるということを、借金に追われているわけでもないのに経験できた機会は、後にも先にもこのときだけだったから。


 社会人1年目はこんな感じで過ぎていった。とりあえずギリギリの資金繰り生活を終えて、給料から1万円かそこらの定期預金の積み立てを設定したぐらい。社会人1年目のボーナスなんてたかが知れているし、生活もまだセットアップの途上で、スーツを1着買い増すといった出費から、細々とした生活費の出費もあり、まだ、貯蓄とか、投資とか、そういうことを真剣に考えるというところには行かなかった。


 それでも、これだけ失業率が上がる前年に曲がりなりにも就職活動を終えて、就職できたわが身に感謝したぐらいのもので、その先、というのは全く見えていなかったように思う。そして悲惨な経済情勢も、ただただニュースの中のもの、というのが偽らざる本音という意識の低い社会人1一年生



【家計と資産の概要】1999年3月

 年度末の時点での家計と資産の状況です。


 収入の部

  月収:25万円(残業込み)

  手取:20万円

  年収:340万円


 貯金の部

  貯金:20万円


 資産の部

なし



【コラム】給料の仕組み

 社会人になって、多くの人が最初に戸惑うのが、“給料がいつ入るのか”という話です。


 いわゆる正社員の給料は、月給制であることが通常です。そのため、昇給しない限り、基本給は毎月同じ額になります。では、どうして「毎月末日締め翌月20日払い」というような形をとるのかというと、各種の手当や残業代といった、基本給以外の、毎月金額が違ってくる部分があるからです。そのため、会社によっては、基本給については当月末日払いで、各種手当は毎月末日締め翌月末日払い、といった形をとっているところもあります。給料の制度は会社ごとに違うのです。


自分が勤めることになる会社がどのような締め日と支払日を採用しているかは、入社の際に作成する雇用契約書(「労働契約書」というタイトルの場合もあります)や、会社から渡される労働条件通知書に書いてあるはずです。また、就業規則や賃金規定といった社内ルールにも、そうした記載があります。


 契約書とか、規則とか、何だか難しそうだなと思うのは、無理もありません。少なくとも学生時代のアルバイトでそこまで考えて働いていた人は、ごく一部でしょう。たとえ成人はしていても、やはり学生は学生です。決して半人前というわけではないのですが、大人としての心構えは、順番に身につけていかなければいけません。その第一歩として、自分の労働条件をきちんと把握してみる、というのも、とても意味のあることだと思います。


 制度的な硬い話はこのくらいにして、給料の実際をみてみましょう。新卒の採用で話題になるのは大抵、初任給です。この物語では、当時の実際の水準という観点と、計算の簡単さという面から、月20万円としました。20万円の12か月分である240万円に、数十万円のボーナスがプラスされて年収が300万円ちょっと、というとイメージがつきやすいでしょうか。


 このイメージは、定時で出社し、定時で退社する場合、正確な言葉でいうと所定労働時間ぴったりの仕事をする限りは、正しい理解です。しかし実際には、残業をする職場も少なからずあります。というよりも、総合職採用の場合は残業をすることがむしろ通常でしょう。この残業した分については、残業代が支払われます。


 では、残業代はどのように計算されるのでしょうか。正確な計算はかなり面倒なのですが、所定労働時間が1日8時間で、月曜日から金曜日までの週5日勤務、土日は休み、休日や深夜の労働はナシ、という一番単純な例では、残業した時間に応じて計算されます。法律に忠実な計算式は、月給をもとに1時間あたりの給料の額を計算し、これに残業時間を掛け、さらにその額を1.25倍する、というものです。どうして1.25倍するかというと、法律で時間外労働には25%の割増賃金を支払わなければいけない、と決まっているからです。


 たとえば月給20万円の人が、1か月に20時間残業をしたとしましょう。1か月の所定労働時間が何時間なのかが問題になりますが、祝日の存在なども考慮しつつ、計算が簡単になるように、月160時間としましょう(1日の所定労働時間8時間×1月の所定労働日20日)。20万円を160時間で割ると、1時間あたり1250円となります。これに25パーセントの割り増しをして、1562円。これが、残業1時間あたりの給料です。20時間残業すると、およそ3万円が残業代になります。


 ただし残念ながら、残業代をきちんと支払わない、ブラック企業、とよばれる企業も中には存在します。しかし、その問題をきちんと理解するには、労働時間のルールや雇用契約の中身をもう少し知る必要があり、ここから先は応用編になるので、このコラムではこのあたりにしておきましょう。

 この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。


 物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。


 この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。

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