2014年度
2014年度は、消費税の増税からはじまった。長らく5%だった消費税が、4月1日から8%になったのだ。当然、消費は冷え込む。たしかに増税で強制的に物価が3%上がったといえば上がったのだけど、その値上がり分は政府に吸収されるのだから、賃上げの原資になるわけでもない。
一方で、明るい話も少なからずあった。この頃から、企業が新卒の採用をかなり積極化し、僕の会社でも久しぶりに多くの新卒の若者が入社してきた。ちょうど、団塊の世代が60歳の定年を迎え、その後の再雇用期間も切れてくる時期で、人手も不足してきていた。若い人が増えると活気が増すし、何かパワーをもらえているような気もしてきた。
そんな中で、支店の課長をしていた僕のミッションは、若手の教育だった。何しろ、自分が新入社員だった頃ほどには、社会人として独り立ちしていくプロセスを会社として支える制度が充実していない。そもそも自分の頃は、新人がいきなり支店に配属されるということ自体がなかった。しかし今では、新人研修の期間は短縮され、現場で育てるOJTが標準になっていた。しかも、チームを率いる僕自身には、教育と同時に成果も求められている。
新卒が使い物になるようになるまでには、それなりの時間がかかる。でも、とにかく人手があることが大事なタイプの仕事もあるから、適材適所で、などと色々考えていた。この頃、支店という、ある程度自由度の効く場所で、人繰りをあれこれ考えるという経験は、この後、より大きな部署を任されることになるときに役立つことになる。次のステップへのヒントはいつも、そのとき必死でやっている日常のなかにあるものなのかもしれない。
そして、この年の経済を象徴するもう1つのできごとが、巨額の貿易赤字だった。東日本大震災以降、日本中の原子力発電所が停止し、その分化石燃料の輸入が増えたことや、アベノミクスによる円安の影響で、日本の貿易収支は悪化していた。ただし、日本はすでに巨額の対外資産(外国への投資)から毎年多くの収益を得ていたため、国全体としては収支が黒字を保っていた。モノを売って稼ぐ国から、資産を運用して稼ぐ国への静かな転換が、ちょうどこの頃、進んでいたのかもしれない。
私生活では、第2子が保育園の最終年次を迎え、長かった保育園の送り迎えが、ようやく終わりに近づいてきた。大変なことも多かったけれど、早寝早起きを含め、良い生活習慣がついた面もあると思う。保育園は、子の成長を見守ってサポートしてくれるというだけでなく、親や家庭にも、大きな恩恵をもたらすものだった。
そして、この年も株価は堅調だった。国内株式も、海外株式も値上がりを続け、年度が終わる頃には、その含み益が600万円を超えてるところまで来ていた。闇の中に投げ込み続けた現金が、いよいよ開花の時を迎えようとしている。これが投資というものなのかと、もはやそう頻繁に開くこともなくなった証券口座の数字を見ながら、静かに感じていた。
【家計と資産の概要】2015年3月
年度末の時点での家計と資産の状況です。
収入の部
夫
月収:44万円
手取:33万円
年収:700万円
妻
月収:44万円
手取:33万円
年収:700万円
貯金の部
貯金:900万円
資産の部
株式
32万円
投資信託
日本株式:683万円(△196万円)
世界株式:899万円(△432万円)
投信合計:1582万円(△628万円)
積立状況
TOPIX連動:毎月5万円
先進国株式投信:毎月5万円
累積積立投資額:954万円
【コラム】消費税の歴史
2026年の日本では、消費税率が10%(食品などについては8%の軽減税率)となっています。この税率になったのは、2019年の10月のことでした。日本の消費税の歴史は、政局と不況の歴史にぴたりと重なります。
そもそも、昭和の時代には消費税というものがありませんでした。そのかわり、贅沢品とされていた商品に、個別に消費税と同じような仕組みの物品税が課されるというシステムになっていました。しかし、1989年(平成元年)4月1日に、3%の一般消費税が導入されて、物品税は廃止されました。
今からみればたった3%ですが、これを導入するまでには苦難の道のりがありました。そもそもは1979年の大平内閣のとき、既に一般消費税構想がありましたが、導入が断念されます。1987年の中曽根内閣も、名称を変更した売上税という構想を掲げ、国会に法案まで提出しましたが、廃案になります。翌1988年、ついに竹下内閣が消費税法を成立させ、1989年に消費税が導入されるという具合で、いくつもの内閣が倒れてきたのです。
その後の増税も、茨の道でした。1997年に税率が5%に引き上げられたときは、アジア通貨危機や山一証券の破たんなども重なって、景気は低迷しました。物語の主人公が泥沼の苦戦を強いられた就職氷河期に拍車がかかったのが、この時期です。2014年も、消費税率が8%になって、同じく景気が冷え込み、この後に予定されていた消費税率の10%への引き上げも、選挙の結果延期されて、ようやく2019年に増税となりました。
消費税を巡っては、いわゆる逆進性が議論されます。所得の多少に関わらず同じ税率が課されるために、収入の多くを生活必需品に費やさざるを得ない低所得者に負担感が大きく、逆に、経済的に余裕のある層にとっては大した痛手にはならない、という議論です。
この議論は当たっているところもあるのですが、そのような問題点は、たとえば低所得者の所得税を減税し、高所得者に若干の増税をするとか、いろいろな調整の仕方があります。そもそも日本の所得税は、その多くを収入上位5割以上の人たちの納税に頼っているので、たとえば収入下位3割から4割の人の所得税をある程度減税をしたところで、全体のインパクトは大して大きくないのです。
しかし、日本では消費税を導入したり、消費税率を引き上げたりする一方で、低所得者の所得税に関する制度はあまり調整してきませんでした。たとえば、所得税の課税最低限(それ以上の金額の給与収入を得ると所得税がかかることになる額面収入)が103万円になったのは、1995年のことです。そして約30年にわたり、この「103万円の壁」は1円も動きませんでした(2020年に基礎控除と給与所得控除の内訳の変動はありましたが、総額に変動なし)。これだと、単純に消費税の税率が上がった分だけ単純に税負担が増えますから、消費税の逆進性に関する批判には、一理あったのです。なお、2025年以降、所得税の課税最低限は引き上げ方向なので、今は少し、問題状況が違います。
一方で、消費税には良い面もあります。それは、日本で物を買う限り、どんな人も、課税を逃れることができない、ということです。たとえば所得税は、サラリーマンは収入の100%を把握されて源泉徴収されるのに、自営業者は経費の計上ひとつで収入額を操作できてしまう、という問題が長年指摘されています。また、もっと極端な例では、暴力団の非合法的な収入のように、最初から所得税を適正に徴収することが難しいタイプのお金の流れもあります。しかし、こうした収入が存在するとしても、その人が生きて行くためには一定の消費をしなければならないのですから、もれなく消費税という形で課税の網をかけることができるのです。
さらに、日本は今後、少子高齢化が進みます。高齢者の主要な所得は年金で、年金所得については手厚い所得控除があるので、所得税を納税している高齢者は多くありません。しかし、高齢者の中にも、資産を十分に持っていてそれなりに消費ができる層の人たちもいます。そうした人たちにも、相応の消費税を納税してもらうことで、現役世代にばかり負担が偏るのを防ぐことができます。
税制は家計にも国の将来にも直結する、まさに政治そのものです。消費税をめぐる長い議論が示してきたのは、単に「上げる・下げる」ではなく、負担のあり方を社会全体でどう最適化するのかという、根本的で難しい問いでした。こうした課題に真正面から取り組める政治を実現するために、私たちができる最も基本的で、しかし最も重要な行動が、選挙で1票を投じることです。とりわけ若い世代こそ、自分たちの未来に関わる意思を表明する機会を決して手放してはなりません。目先の減税のような耳障りのよいことばかりでなく、真に困難な問題にも正面から向き合おうとする、本物の政治家を選び取ること。それが、有権者として持つ権利を生かし、この国の未来を形づくっていく第一歩なのです。
この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。
物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。
この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。




