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2010年度

 この年の一番の変化は、第1子が3歳児クラスに上がり、それと同時に、目論見通り認可保育園に入れたことだった。3歳児クラスは2歳以下のクラスと違って保育料も安く(といっても、月3万円近くにはなる)、第1子に多額の保育料がかかるステージは終わった。


 反面、0歳児クラスの第2子は、やはり認可保育園に入ることができず、認証保育所からのスタートになった。こちらは、月額6万円程度の保育料がかかるので、結局、子ども2人をあわせると月額10万円近い支出になる。年間でいえば120万円で、これは、国公立大学に子ども2人を通わせる場合の授業料に匹敵する。


 でも、時短勤務とはいえ妻も復職し、投資額を増額した状態でも家計はマイナスにならずに済んでいる。ということは、この調子で生活をしていけば子ども達が大学に進学するときがきても、少なくとも自宅から国公立大学に通う限りは問題ないということだから、将来に向けた明るいイメージを持つことができた。


 この年の株式相場は一進一退で、東証株価指数(TOPIX)は結局前年水準のまま900前後で推移し、先進国株式も上昇傾向ではあるものの、リーマンショック前の水準と比べると4割安という状況で、積立投資の資産もマイナスのままだった。


 しかも、2010年度は追い打ちのような事態が生じる。2011年3月、東日本大震災。東日本全域に甚大な被害をもたらし、経済的なインパクトももちろん大きかった。ただ、このときの僕たち夫婦が現実に直面したのは、そういう社会的に大きな問題ではなく、もっと小さな、でも切実な問題だった。


 帰宅困難になったとき、保育園のお迎えをどうするのか。


 この日、首都圏の鉄道は終日、ほぼ完全に運転を見合わせた。JR東日本に至っては駅のシャッターを閉めてしまい、締め出された人たちが途方に暮れていた。同僚の多くは、諦めて余震の続く中オフィスで一夜を明かすことを選択していたが、僕はそうはいかなかった。保育園に、子どもたちがいたからだ。


 この頃、僕も妻も、だいたい家から同じくらいの距離の職場に通勤していた。その距離、約12キロ。ただ、方角は少し違って、それぞれ橋を渡ったりしないといけないので、どちらが早く家にたどり着けるかは、何ともいえない状態だった。


 しかも、地震の直後は携帯電話がパンクしてつながらない。この頃はまだスマートフォンも今のようには普及しておらず、ラインのような便利なアプリもない。電話がつながらないならせめてメールでということで、携帯と、職場のメールアドレスに、めいめいお迎えに行こう、という内容のメールを送り、会社を出た。状況が状況だけに、上司も同僚も、何も言わなかった。


 地震後の混乱する街を歩くのは、普段とは全く違った。時速4キロで歩くなんてとても無理で、混雑している場所では時速1キロか2キロがせいぜいという状態。それでも、どうにか地震から5時間くらいが経った午後8時頃、僕は保育園にたどり着いていた。保育園にはまだ多くの子がの残されていて、保育士さんが備蓄の食料で晩ご飯を提供したりしており、大変有り難かった。保育士さんにも家族があるだろうに、大丈夫なのだろうか、などと思いつつ、子ども達といっしょに帰宅した。


 帰宅してテレビをつけたとき、さらなる驚愕が僕を襲うことになる。地震の後、ずっと街を歩いていたので、テレビの映像などをきちんと見たのはこれが最初だったのだ。必死に避難する車を後ろから津波が襲い、飲み込んでいく。この世のものとは思えない恐ろしい光景が広がり、これは子どもには見せられないと思って、テレビを消した。


 妻が帰ってきたのは、それから1時間後のことだった。


 2010年度は、本当に最悪の形で幕を下ろした。そして、この経験が、この後の人生設計を1つ、変えることになる。



【家計と資産の概要】2011年3月

 年度末の時点での家計と資産の状況です。


 収入の部

  夫

 月収:40万円(残業込み)

   手取:31万円

   年収:640万円

 月収:30万円(時短勤務)

   手取:24万円

 年収:420万円


 貯金の部

  貯金:420万円


 資産の部

  株式

   25万円

  投資信託

   日本株式:211万円(▲36万円)

   世界株式:231万円(△4万円)

   投信合計:442万円(▲32万円)


 積立状況

   TOPIX連動:毎月5万円

   先進国株式投信:毎月5万円

   累積積立投資額:474万円



【コラム】災害への備え

 東日本大震災の主要な被災地は東北3県でした。東京は震源から離れており、観測された震度も5強。建物が倒壊したり、インフラが物理的に途絶したりするほどではありませんでした。計画停電などはありましたが、電線が切れたわけではなく、比較すれば、まだ軽い方だったといえます。


 それでも、混乱の度合いは想像以上でした。街が津波に呑まれた被災地とは比べようもありませんが、東京という巨大都市が機能を止めるとどうなるのか、それを痛感させるには十分な出来事でした。


 近年、南海トラフ巨大地震や首都直下地震のリスクが話題になっています。南海トラフの場合、東京から震源が遠いため、揺れそのものは東日本大震災のときと近いかもしれません。しかし、首都直下地震で震度6強~7となれば、建物の倒壊やインフラの損壊など、より深刻な被害が想定されます。その時どう生き延びるかが現実的な問題になってくるわけです。


 ここで厄介なのが、家族が離ればなれになっている平日の昼間のケースです。東日本大震災では首都圏での落橋はありませんでしたが、首都直下では落橋が起きる可能性があります。東京周辺は川や運河が多く、橋を渡れなければ家に近づくことさえできません。地震直後に歩き出しても、本当に帰宅できるのかどうかは、全く保証がないのです。この場合、子ども達には学校や保育園で夜を明かすのが最も安全ですが、そこまで割り切れるかどうかは難しいところです。


 反対に、家族みんなが家にいる夜間や休日に地震が起きた場合は、帰宅困難という問題はありません。代わりに、インフラや物流が途絶した状態で、どれだけ自宅で持ちこたえられるかが大きな課題になります。


 日本では地震が起こると学校などに避難所が開設されますが、プライバシーの問題に加え、とりわけ人口密度の高い東京では、そもそも地域の全員は収容できないという現実があります。そのため、東京都が発行している『東京防災』などでは、耐震・耐火構造のマンションなどに住んでいる場合は、自宅避難を原則とする方針を強く推奨しています。


 また、物流が止まることも想定し、相当量の水や食料の備蓄も欠かせません。ただ、防災食品を1~2週間分ため込んで賞味期限のたびに買い換えるのは大変です。そこで、たとえば2リットルの水を20~30本常備し、毎週1~2本を消費し、その分を買い足す。いわゆる「ローリングストック」が現実的です。食料も缶詰などを普段の食事に取り入れながら回すと管理が楽になります。


 災害は、いつ来るか分かりません。そのためにお金を使い、場所を使うのはコストではありますが、リスクに直撃されたときにどうなるかを考えれば、備えは“投資”と同じです。備えあれば憂いなし。まさに、人生のリスクマネジメントそのものなのだと思います。

 この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。


 物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。


 この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。

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