2007年度
年度初めの4月、妻は無事に復職した。ただ、0歳児を保育所に預けたらこれまで通り働けるのかというと、全くそんなことはない。
まず、最初の2週間ぐらいは、「ならし保育」といって、朝9時くらいから昼の2時や3時くらいまでの保育から始まる。つまり、そもそもこの期間はフルに出社することができない。そこで、我が家では朝の保育園への送りは僕が担当し、妻は朝少し早く出勤して昼以降は半休を取得してお迎え、という方式をとった。
この時期が終わると、保育時間自体は7時半や8時から夕方6時や7時までとなる。そうすると、一応定時の仕事はできるのだけど、残業はできなくなる。また、5歳くらいまでの子はしょっちゅう風邪をひいたり、熱を出したりして、保育園から呼び出しの電話がかかる。これに対応して仕事の調整をしていくのは、あらかじめ予定できないだけにかなり大変だ。
この問題自体は当初から分かっていたので、我が家でもどうするか、かなり検討した。この検討は、夫婦のどちらがどれだけ育児を負担するかというだけではなく、そのような負担割合にした場合に家計にどのような影響があるか、という観点も重要になる。残業代に依存した家計運営をしていると、そもそも家計が回らなくなりかねないからだ。
我が家の選択は、僕は妻の育休中と同様に、抑制しながらも残業を維持して収入を確保しつつ、保育園の送りを担当する。妻は、当時妻の会社にあった時短勤務と出社時間調整の制度を使って、8時出社、16時退勤、昼休みを30分に短縮して、1日の勤務時間を7時間30分、残業なしの勤務にする、というものだった。2人がともに残業ありの勤務形態をとりながら、突発事態のたびに夫婦で電話連絡をするのは現実的でない、という判断からだった。
この方式だと、月々の残業代が減少するだけでなく、妻の勤務時間短縮分の給料が減少し、それに伴ってボーナスも減る。減収は痛いが、0歳児を保育園に預ける以上、これは仕方ない。いまだったら、夫婦で週の半分ずつをテレワークにして、どちらかは家にいる、というような勤務もできたかもしれない。でも、2007年当時、そういう働き方ができる会社はほぼ存在しなかった。そんな中で、何とかやりくりをしていたのだ。
そして、世界経済に不穏な空気が流れ始めたのも、この頃だった。2007年8月には、フランスのBNPパリバという金融機関が大きな損失を出したことに端を発するパリバショックが起こった。この後、世界の株式市場は神経質な動きをするようになり、時に値動きは荒くなった。年が明けた2008年には、同じフランスのソシエテ・ジェネラルが巨額損失を発表し、これまた、経済の先行きに暗雲が漂った。
積み立てていた保有資産も、含み益がどんどん萎んでいった。2008年3月の時点では辛うじてプラスを保っていたが、相場の傾向は下げ一択。ついにアメリカのベア・スターンズまで事実上破綻するというところにきて、いよいよ評価額がマイナスになったときの積立額増額のトリガーが引かれるかどうかという寸前まで来ていた。
【家計と資産の概要】2008年3月
年度末の時点での家計と資産の状況です。
収入の部
夫
月収:36万円(残業込み)
手取:29万円
年収:550万円
妻
月収:28万円(時短勤務)
手取:22万円
年収:400万円
貯金の部
貯金:430万円
資産の部
株式
44万円
投資信託
日本株式:80万円(▲1万円)
世界株式:62万円(△2万円)
投信合計:142円(△1万円)
積立状況
TOPIX連動:毎月1万5000円
先進国株式投信:毎月1万5000円
累積積立投資額:141万円
【コラム】育児休業と保活
産休については、前のコラムで解説しました。しかし、実際には出産後8週間で職場復帰する女性は稀です。もちろんそういう人がいないわけではないのですが、現実には保育園に入れるのが年度初めの4月に事実上限定されるという問題があるため、夫が育児休業を取得して一手に育児を引き受けるというパターン以外では、産休後にそのまま育休に入る、というのが一般的になっています。
ただ、だからといって、男性は妻の妊娠出産前と同じように仕事をしていればよい、というわけではありません。むしろ、それはやめた方がよいです。出産後の女性の体は大きなダメージを受けているため、ちょっとしたことをするのも大きな負担になります。そんな中で、授乳をはじめとした育児をしていかなければいけないので、その身体的負担は想像を絶します。特に現代人は、昔と違って農業などの肉体労働をしているわけではないことが通常なので、体力的な部分では昔の人たちほど丈夫でないことも多いのです。
物語の舞台となっている2000年代初頭は、育児休業を取得する男性が、極めて少数ながら現れてきた時期でもありました。ただ、それはあまりに少数で、妻の方が所得が高いため早期に職場復帰をする必要があるとか、生まれた子に重い病気があって、夫婦で対応しないとどうにもならないといった、本当に切実な理由がある場合以外、男性側が現実的に育休の検討をするという風土自体がありませんでした。
しかし、今は違います。男性の育児休業に関する制度は数年おきに飛躍的に充実してきました。2026年の執筆時点では、従来の伝統的な育児休業に加えて、産後パパ育休という4週間までの育児休業が取得できるようになりました。この期間は、育児休業給付金(収入の67%)に加えて出生時育児休業給付金(収入の13%)という上乗せの支給を受けられるようになっていて、この2つを合わせると手取り額がほぼ全額カバーできます(ただし、ボーナスの査定など反映されない部分はあるので、年収ベースでいくと多少の問題はあります)。
そしてもちろん、伝統的な数か月単位の育児休業を取得することも可能で、こちらは、最初の半年について、67%の育児休業給付金が、その後の期間については50%の育児休業給付金が支払われます。様々な理由から長期の育児休業を取得する男性も増えており、物語の舞台となっている20年前と比べると、現実的に利用可能な制度は増えています。赤ちゃんの最初の1年間の成長というのはまさに目覚ましいものがあり、それを直接目撃するという機会は、人生の中でもそうあるわけではない感動的な体験になります。もちろん職場環境や家庭の事情で難しい場合もありますが、もし可能なら、数か月単位の育児休業を検討してみてほしいと思います。
さて、男性が取得するにせよ、女性が取得するにせよ、育休を終えて職場復帰するためには、別に子のお世話をする人がいるか、保育園に預けるかしか実際上ありません。ところが、2006年当時の東京では、待機児童が大きな問題となっていて、そもそも保育園に子を預けること自体が大変という、とんでもない状況になっていたのです。
2026年の時点ではこの問題はかなり解消されているので詳細は省きますが、保育園に入りやすくするためにペーパー離婚するとか、住民票上だけ別居する、という夫婦もいたといわれているぐらいでした。いわゆる保活、です。ただ、そこまでではないにしても、都市部の一部には激戦区といわれる地区があったりもするので、もし、結婚の時点で子をもうけることが視野に入っていて、しかも、その時点で新居に引っ越そうと考えているなら、引っ越し候補地の保育園事情も考慮要素の1つにしておくと、その後の計画がスムーズになるかもしれません。
この物語はフィクションです。歴史的な事実として、固有名詞で触れられる企業もありますし、株価や指数などは現実の数字に即していますが、それらはいずれも、あくまで実在の企業等をモデルとして再構築したものに過ぎず、記載された内容が真実であることは保証しません。
物語内(コラムを含みます。以下同じ。)で紹介する銘柄や投資手法について推奨したり勧誘したりするものでないことはもちろん、投資そのものについて推奨する意図はありませんし、投資の結果を保証するものでもありません。投資判断はあくまでも各自の自己責任でお願いします。
この物語では、法律や税金の制度を紹介している部分があります。可能な限り正確を期しましたが、その正確性を保証することはできません。また、近年は制度改正のテンポが速いので、早晩、ここに書かれている法律や税制は、現実に適合しなくなることが見込まれます。そうした点を除いても、具体的な状況に対する法律や税制の適用について、筆者はその責任を負いません。その種の判断はあくまでも各自の自己責任で、そして、ご自身で判断が難しい問題については、弁護士や税理士、FPといった専門家への相談を強くお勧めします。




