奇跡は、待っていなかった
いやー…でもなぁ…うーん…
と唸って葛藤してみせたが、
やっぱり逆らえないのは事実で。
結の想い人である、
谷中の靴箱の前でこの期に及んで葛藤していた。
彼女に頼まれてからというものの、
手紙を書いたり、
靴箱の位置を把握したり、
(この学校の靴箱は名前を表に書いておらず、実際に入れるところをリサーチするしかなかったのであった)
と下準備に励んでいた。
まぁ手紙なんて滅多に書かないから、便箋を買いに行かなければと思っていたが、
幼稚園の頃に使っていた桜模様が施された便箋が出てきた事は奇跡だったと思う。
そんな甲斐あって、手紙を書いたところまでは完璧だった。
内容としては、
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『いきなりのお手紙失礼いたします。
僕は、2年B組の眞咲律と申します。
突然ですが、僕のプロフィールです↓
173cm。帰宅部。
誕生日 : 4/4
趣味 : バッティングセンターに行くこと、ライブ鑑賞、1人カラオケ、散歩
好きなモノ : J-POP、邦楽ロック、グミ、トマトジュース
コンプレックス : 地毛の癖っ毛茶髪
→いつもセットしてストレートにしていますがこの梅雨の時期は天敵で諦めてます…( ; ; )
関わることはないかもしれませんが、もし良ければ以後お見知りおきを…
突然お手紙を入れた経緯としましては、
同封しておりますハンカチを拾ったからでして。
直接渡す勇気もない僕を許してください。
P.S. おこがましいですが、受け取った暁には返信くださると幸いです。
どうか、よろしくお願いします。
眞咲律
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え、我ながら良くない?
話したことはないが、優しいとよく女子が
先輩についてコソコソ話しているのを見たことがあるから返信してくれると信じて、追伸に残しておいた。
ま、この噂はあくまで女子には、だけど。
あと、自ら趣味や好きなモノを名乗ることで
相手も記してくれるんじゃないかという作戦に俺は出た!
なんなら、返信がもし返ってきて、
この1ラリーで終わったとしても結は俺に対して怒れないだろう。
だって元々の約束は果たしてるもんねー!
我ながら良いこと思いついたわぁ…
ま、LIMEを聞けてないのは心残りだけど、
それはさすがに、ねぇ…
1回目で聞くのはどうよ?
しかも、そもそも今時手紙で趣味とか聞いてるのも怪しいしね。
…もうそれは目を瞑ることにしたが勇気が出ず、靴箱の前で早10分経過した。
せっかく早く登校したものの、
部活の朝練をする生徒たちがゾロゾロと登校し始めた。
高校3年生は、
部活によっては異なるが、
大体がもうすぐ始まる夏の大会で受験に備えて、
実質引退となる。
そのため、この時期に律儀に朝練を行っている先輩たちはあまりいないはず、
と踏んでこの時間帯にしたのだが、
入り口から1番奥である3年生の例に影が見えたので、
思わず焦って入れるか迷っていたはずの靴箱に手紙を入れてしまった。
衝動的だったとはいえ、おそらく谷中先輩の靴箱に入れられただろう。
思いかけずのミッションコンプリートだったが、上出来だろう。
2年生がなぜここにいるのか?
その影の人物にもし聞かれても、
言い訳を持ち合わせてないので、誰かを確認することなく、その場をそそくさと去った。
?「ん…?…手紙…?」
…谷中先輩ではない、見知らぬ人物が受け取っているとは知らずに。




