無意識転移の合法銀髪ロリ
初めまして紳士です。ご覧いただきあざまする。
本作は約11万文字で脱稿済みのメタフィクション作品です。
覚えてるor起きてる限り、1時間おきくらいで投稿していくので、よろしけらばお付き合いください。
そこは異世界、もっといえば魔界と呼ばれる暗黒の世界。
灰色の空。血のように赤い海。地球では見られない食人植物や魔獣、そして魔力や魔族まで当たり前に存在する、RPGゲームのような世界。
そんな厨二病患者なら誰もが憧れる世界の中心――魔界の絶対統治者・魔王ラリルの住む魔王城に、少女の声がこだましていた。
「――まったく、本当に嫌になる。お父様はいつまで私を城に閉じ込めるつもりだ。これでは籠の中の鳥ではないか」
赤い絨毯がどこまでも続く回廊を進むのは、身長一四〇センチしかない華奢で美しい少女。
宝石のように青く澄んだ瞳。大きく可憐だが凛とした目元。人形のように小さな鼻と口。背中まで伸びたサラサラの銀髪。そして頭からチョコンと生えた二本の白い角と、背中から生えたコウモリのような翼。
一見すると中学生――下手をすると小学生くらいにも見え、日本のアニオタやロリコンが見れば興奮必至の銀髪ロリ美少女は、絨毯と同化しそうな真紅のドレスを靡かせ、父親ラリルへの不満を口にしていた。
「仕方ありません。ロレル様は、将来この魔界を引き継ぐ魔王女。それゆえ魔王様もロレル様の安全を第一に考えているのです」
ロレルの三歩後ろから落ち着いた声をかけたのは、水色ショートカットの魔族メイド。静かで美人なお姉さんフェイス。どこぞのメイド喫茶で働いていそうな白と黒のコテコテなメイド服。そしてロレルの小さな胸と正反対に、成熟した大人の魅力を主張しまくる大きな膨らみ。
ロレルが産まれた百三十年前より古くから魔王に仕える彼女は、主君の気持ちを見事に代弁してみせた。
だがロレルが求めていたのはそんな答えではない。父の気持ちなど分かっているが、欲しいのは不満に対する全面的な共感だった。
「つべこべうるさいぞシルヴィ。くる日もくる日もやれ能力の修行だ、民たちに寄り添った統治の勉強だ、恒久的な平和だの、私の人権はどこにある! 私はお父様の傀儡ではないのだぞ!」
「失礼しました、その通りです。魔王様はロレル様の人権を無視したクソ親父です。私がロレル様の立場なら、魔王様を抹殺してこんな世界から逃げ出します」
「えぇ……そこまで言ってないんだが……お前時々ぶっちゃけが過ぎるよな。疲れてるのか? な、なんかごめんな……」
「重ねて失礼しました。今の発言は忘れてください」
ロレルはシルヴィの発言に顔を引き攣らせる。確かに求めていた答えに近いが、そこまで過激なことは求めていない。しかも言った本人はいつも通り冷静そのもの。
(……いかん、私としたことが毒気を抜かれてしまった。まさかシルヴィはそのために? ……策士かこいつ?)
父親への怒りが一蹴された。だがそんな簡単に許すまいと、ロレルは辛うじてしかめっ面をキープした。
「まあいい。それよりシルヴィ、私をいつもの場所へ送れ。少し外の空気を吸ってくる」
彼女が指定したのは魔王城の中庭。その中でも魔王家のみが立ち入ることを許された、『魔聖域』と呼ばれる場所。
現在彼女たちがいる回廊から約二百メートルほど離れたその場所なら、辛うじてシルヴィの能力『空間転移』の範囲内だろう。
「かしこまりました。――念のため確認ですが、城の外へは行かないように」
「分かってる。というか私への結界が張られてて無理だろうが! ……早くしろシルヴィ」
「はい」
シルヴィの角が淡く光り始める。彼女の周囲――魔界全てに満ちる魔素を魔力へと変換し、彼女固有の能力が発動する。
「では行きます。【空間転移】」
シルヴィがそう口にするや否や、ロレルは音もなくその場から姿を消した――。
――灰色の空の下、紫、青、暗緑色の雑草がロレルの足元に広がっていた。
どれも彼女の膝丈ほど。うねり、逆巻き、中には真っ直ぐ空に向け伸びる魔界特有の植物がひしめき、魔界では珍しい澄んだ小川には、夜光蟲が淡く幻想的な光を眩かせている。
(……ここなら誰もいないし、いいよね)
いかにもファンタジー全開。『魔』は付いているが、『聖域』と呼ぶに相応しい空間を見渡し、ロレルは純朴な少女の顔付きを見せていた。
「ふぅ……やはりここは――――ううん。……やっぱりここが一番落ち着く。ママもここが大好きだったもんね……」
凛とした目付きはそのままに、表情は亡き母を想い寂しさを纏う。誰よりも優しく、いつでも自分を甘やかしてくれた母親。だが彼女はロレルがまだ十歳の頃に病に倒れた。父親は魔界全土の医者を集めたが、それでも母は助からなかった。
それ以来、ロレルは辛いことがあると『魔聖域』――よく母と二人きりで過ごしたこの場所で、思い出に浸っていた。
「……ねえママ。私、立派な魔王になれるのかな…………なんて嘘。私、ほんとはそんなのなりたくない。お城の外を冒険したいし、人間の国にも行ってみたい。それにママとパパみたいに……誰かを好きに、誰かに好きになってもらいたいの」
可憐な見た目に相応しい、夢見る乙女。これこそ立場や仮面を脱ぎ捨てた、本来のロレルの姿。父親はもちろん、最も仲の良いシルヴィにすら見せたことのない真の彼女。
「ふふ。みんな、今のは誰にも言わないでね?」
小川に足を浸け、夜光蟲と戯れる。彼女を包むように光が集まり、まるで彼女の言葉が分かったかのようにホワホワと点滅する。
「ありがとうみんな。約束だよっ」
ロレルが照れ混じりにはにかむと、夜光蟲たちも嬉しそうに光を強めた。
「よーし、もう少し癒されたら戻ろっかなー。ほんとは嫌だけど。――――ん?」
そこでロレルは何かに気が付いた。たくさんの夜光蟲の中に、見慣れない、弱々しい光が漂っていることに。
(あれは……)
夜光蟲ではない、不思議な魔力の光。ゆっくり近付くと、その光は怯えたように光を弱め、ロレルから逃げようとした。
「待って! ……逃げないで」
駆け寄り、包むように抱きしめる。そしてロレルは悟った。この光は、やはり何かに怯えていると。
傷付きたくない、愛してほしい、そう訴えている気がした。
「……大丈夫。怖くないよ。大丈夫だから」
そっと触れ、慈しむように撫でてみる。光はわずかに驚くと、やがて安心したように光り始めた。
(なんかよく分かんないけど……この子、きっと私と一緒だ……)
ロレルの優しさに呼応するように、光がさらに輝いていく。ロレルを癒すように温かく、ロレルの悲しみに寄り添うように優しく。
「ありがとう。私が慰められちゃったね」
しかし光は際限なく輝きを強め、温かさが熱さへと変わっていく。
「………………ん? え、なにこれ、まぶしっ。ちょ、そろそろ収まってほしいんだけど。怖い怖い怖い」
そこでようやく異変を察したロレルだが、もはや手遅れ。光から不思議な魔力が迸り、彼女をスッポリ包んでしまった。
『……我は……我はお前を求める』
そして聞こえる低い男の声。声が聞こえたこと、その声の質にロレルの目が点になる。
『……我はブラックドラゴンナイト――略してBDK。かの世界を統べる頂点にしてアルティメット魔王。お前こそ我が探し続けたエンジェルだ』
「いやいやいや、ほんとに何言ってんの⁉︎ 誰か知らないけど落ち着いてビーディー系? さん!」
今度はなぜかノリノリで意味不明なイタイ言葉を吐き散らす光。ロレルは心から恐怖を感じ、慌てて逃げようとしたが――。
『エンジェルの望みを叶えよう。さあ、我の世界へ来るがいい。――【世界転移】!』
「ちょ、待てやめろ馬鹿! 離せ、誰か助けてー!」
その言葉を残し、ロレルは膨大な魔力に飲み込まれていった――――。
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