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夏前期〜海水浴〜

マリィ「海だー!!」


きらきらと輝く青い海に、白い砂浜。

星の大地にも太陽の光がさんさんと降り注ぎ、まさに夏真っ盛り。

ネルフの夏は酷暑という程では無いが、それでも暑い。

春に開かれた茶会でなんとなしに誰かが言った「夏は海」が、意外な人物の提案で実現することになったのである。


マリィ「それにしてもお兄ちゃんから海に行こうって誘われたときは、暑さでおかしくなったのかと思ったよ」

ロレ「夏は海に行くって言いだしたのはお前だろ…」

マリィ「お兄ちゃんってば、そんなにマリィの水着見たかったの?」

ロレ「人の話を聞け」

ダイス「ふふ、君たちは相変わらずだね」


口を開けば喧嘩ばかりの兄妹にダイスが微笑ましげに近づけば、マリーはひらりと回って見せた。


マリィ「ねえねえ、ダイス!今日のマリィどう?かわいい?アーシェに選んでもらったの!」

ダイス「ああ、よく似合ってると思うよ。可愛いね」

アシェ「ふふ、やっぱりそっちで正解でしたね。マリーさんは可愛らしい水着の方が似合うと思って」

マリィ「ふふーん、お兄ちゃん聞いた?マリィかわいいって!」

ロレ「片目で見たらそう見えるんじゃないか」

マリィ「ローレンの目が節穴なだけじゃん」

ラディ「おいおい、そこまでにしとけ?喧嘩してる間に日が暮れちまうぜ」

イオ「それは困る!せっかく海に来たんだし、楽しまないと損だよー!」

アシェ「そうね。日焼け止めをしっかり塗ってから遊びましょう」


普段であれば鬱陶しい夏の日差しも、今はバカンスを楽しむための材料の一つだった。

暑い夏ほど、海が恋しくなるものだ。


アレッタ「綺麗な海ね、海の中まで透き通って見えるわ」

シン「僕もここまで綺麗な海はなかなか見たことが無いです。…あ、魚。カニもいる」

アレッタ「急に手を入れたら危ないわよ。挟まれるかもしれないし」

リン「あまり人の手が入っている感じも無いし、汚れる要因が少なかったんだろう」

イグ「まさに穴場というわけか!良い休日になりそうだ」

リリ「そうね、人がたくさんいるところよりはゆっくり……きゃっ!」

フィズィ「ふふ、海に来たらこうやって遊ぶんですよね?えーい」


フィズィはぱしゃぱしゃと飛沫をあげながら両手いっぱいに溜めた水をまき散らす。

近くにいたリリティアは早速ずぶぬれで、滴り落ちる水を払うようにいつもより高く括られた長い髪を横に振った。


リリ「なにすんのよ!」

フィズィ「わっ、やり返されちゃいました。今度はこっちも、えーい!」

イグ「うんうん、波の音と皆の声が良いハーモニーを生んで…ぶえっ!」

リン「…塩辛いな」


油断していたイグジスタとマンダリンも顔面から水を浴び、レンズを拭こうとメガネを外したマンダリンはついでにもう一発水鉄砲を食らっていた。


イオ「向こうは向こうで楽しそうだね」

ダイス「ああ。こっちはもうすぐ終わりそうだし向こうに行ってきても構わないよ?」

アーシェ「ごめんなさいね、準備を全部任せてしまって…」

ラディ「こういうのは男の仕事だろ?なあ、…って言ってもアンタはどっちか分かんねえけどよ」

ダイス「はは、どっちだろうね。…おや、キミのお嬢様がお呼びみたいだ」

ラディ「今度は何だ?全く、引く手数多で困っちまうな」

イオ「じゃあ荷物こっちに寄こしなよ。忘れられがちだけど、おれだって男だからさあ」

アシェ「ふふ、役得というやつだね」


しばらくすれば、ラディスラスはフィズィたちを率いて戻ってくる。

その手には沢山の魚と、大きなカニが抱えられていた。


ロレ「…なんだそれは」

イグ「見たままだな、カニさ!」

シン「マンダリンさんが好きだと言っていたのを思い出して、獲ってきたんです」

アレッタ「魔法を使えば調理もできるし、調味料も一通り揃っているのだから食べられるでしょう?」

リン「俺はいいと言ったんだが…、止めても聞かなくて」

フィズィ「せっかくですし、みんなで食べましょう」

リリ「はあ…そうは言うけどアンタ料理なんかできないじゃない。ほらちょっと貸して」

リン「俺も手伝おう。火を使うのなら力になれるはずだ」


リリティアとマンダリンは、受け取った魚に鉄串を刺し火にかける。

次第に焼き色のついた皮の上を脂がはねはじめ、香ばしい匂いがふんわりと漂ってくるだろう。


リン「あとは任せていいか。カニの方も茹でてくる」

アシェ「アーシェたちも手伝いますよ、任せっきりは悪いですから」

アレッタ「ええ。とは言っても、あまりお役に立てるかは分からないけれど」

アシェ「リリティアさん、とってもお上手だものね。アーシェたち、お皿を出すくらいしかやることも無いんじゃないかしら」

リリ「ふふん、まあね。このくらいなら一人でもできるわ」


とリリティアが言った瞬間、焦げた匂いが充満する。

見れば魚のいくつかが、ぷすぷすと音を立てて黒く焼け焦げ始めていた。


リリ「な、生焼けよりはいいでしょ!」

アレッタ「ふふ、そうね。ほら、こっちはそこまで焦げていないし大丈夫よ」

アシェ「…うん、こっちもまだ焦げを取ったら全然食べられますね」


悔しがるリリティアを励ますようにぽん、と肩に手を置きアレッタは微笑む。

挿絵(By みてみん)

アシェットが焦げをぺりぺりと剥ぐ横で、つられてリリティアもおずおずと手を伸ばす。

こんがり焼けた魚を口に含めば「おいしい」と口をほころばせた。


ラディ「…よし、こんなもんか。火止めていいぞ」


湯だつ鍋の中から赤く染まったカニを取り出し荒熱を取ったあと、ラディスラスがカニの足をぽきぽきと分けていれば真っ先に受け取ったフィズィがぱあと顔を輝かせた。


フィズィ「おいしいです!」

ラディ「お口あったようで何よりだ。アンタも食べるだろ?」

リン「あ、ああ…頂こう」

挿絵(By みてみん)

ラディ「遠慮すんなって。アンタのために獲ったようなもんだしな」

フィズィ「そうですよ、たくさん食べてくださいね。おかわりはシンくんが持ってきてくれますから」


ビーチパラソルやら浮き輪やら、果てにはジュースグラスまで。

夏を満喫する若き魔法使いたちは、周囲に誰もいないのをいいことに各々持参したものを広げては自由にくつろぎ始める。


マリィ「ダイビングなんて初めてだからドキドキする~!」

シン「どこまで深く潜れますかね…酸欠で溺れないように気をつけないと」

ロレ「水魔法で膜を張って、その中に風魔法で酸素を送れば通常よりは長く持つだろう」

イオ「お〜、なるほど!風魔法なら任せてよ!」

シン「それじゃあ膜を張るのは僕がやりますね」

ダイス「3人とも、気をつけてね」

イグ「万が一のことがあったら水中で音を出してくれ!振動があれば音響魔法で感知できる」

マリィ「うん、じゃあ行ってきまーす!」


ざぷん、と勢いよく潜れば広がるのは幻想的な海の世界。

水面に反射した光が水中に降り注ぎ、色とりどりの魚の鱗をまるで宝石のようにきらめかせる。

岩から伸びたゆらゆらと踊る海藻は、魔法薬学の教科書で見たものからそうでないものまでエトセトラ。

思わず息を飲んでしまうほど、美しい景色がそこにはあった。


マリィ「みてみて!このお魚可愛いよ〜!」

イオ「おー…すごい。水中でもちゃんと声が届いてる!魔法って便利だなー」

挿絵(By みてみん)

シン「この海藻、授業で習ったものですよね。えっと、確か解毒薬に使うとかで…」

イオ「あー、なんだっけ?クラゲだったかな、かわいい生き物だなーって思った気がする」

マリィ「こんな時まで勉強の話!?お兄ちゃんみたいなこと言うのやめようよ〜…」

シン「すみません、ミルさんなら分かるかなと思って…。あ、あっちは見たことないですね」


シンは水を蹴ると更に深くへ潜っていく。

二人も慌てて後を追うが、シンは止まることなく奥へと進む。

薄らと聞こえていた海鳥の声も届かない、こぽこぽと漏れる呼吸音だけが響いている。

少しずつ光が遠のき、あたりが暗くなり始めた頃。


シン「なんでしょう、これ」



ダイス「3人とも遅いな…、何も無ければいいんだけど」

フィズィ「心配ですね…、ウミヘビなんかもいないとは限らないですし。見てる分には可愛いんですけど…」

アシェ「かわいい…?…まあ、感性は人それぞれですよね」

リン「かなりの猛毒だったような気がするが…」

ラディ「とにかく、探しに行った方がいいんじゃねえのか?」

リリ「そうね、私も賛成。アンタと同じ意見なのはちょっとムカつくけど」

アレッタ「ええ、大事になる前に動いた方がいいんじゃないかしら」

イグ「何かあったら音を出してくれとは伝えてあるけど、…あ!ええっと、…」


どうやら反応があったらしい。

ひとまずほっと息をつくものの、イグジスタの表情は神妙なままだった。


イグ「3人が何かを見つけたらしい。詳しくは分からないけれど…」

ロレ「ああ、見つかったのか。大手柄だな」


ローレンは珍しく声を僅かに弾ませながら、まるで親に隠れて悪戯をする子どものように笑った。


ロレ「せっかくだから、宝探しに行こう」



イグ「すごい、まるで宝物庫のようじゃないか…!ああ、こっちも楽器が…!」

ダイス「魔法具もたくさん転がっているね。ローレンくんは、ここを知っていたのかい?」

ロレ「本で読んだ。実在するかは半信半疑だったけど」


ダイスは床に転がった魔法具のひとつを手に取ると、指で埃を払い透かして見せる。

挿絵(By みてみん)

3人が見つけたのは海の中に沈むオンボロ小屋、ではなく大昔の魔法工房であった。

秘密基地のように隠されたこの部屋の中には、今はもういない家主が作ったであろうガラクタがこんもりと溜まっている。


ダイス「これは見る人の記憶を投影する魔法具かな」

イグ「ふむ…ダイス君には何が見えたんだい?」

ダイス「…家族のこととか、かな」

マリィ「家族かあ…ねえ、マリィにも貸して!もしかしたら昔のこととか見えるかも!」

ロレ「やめておけ。そんなものよりもっと別のものを探した方がいい、例えば使用者の頭が良くなる魔法具とか」

マリィ「マリィそんなにバカじゃないもん!ちょっと欲しいけど…」

イオ「あはは、それはあるか分かんないけどさ、他のかわいいのは見つかるかもしれないじゃん?」

アシェ「これだけ多才な人ですもの。アクセサリーとかもあるかもしれないね」

ラディ「それらしい道具ならそこらにあるし、探せば宝石付きの物ひとつやふたつ見つかってもおかしくねえな」

リリ「ふーん、詳しいのね。…それなら少し見てみましょ、私も気になるし」


宝探しを始める横、既にお宝…もとい壊れた楽器をまじまじとイグジスタは見つめていた。


ダイス「それ、直せそうなのかい?だいぶ古いように思うけれど」

イグ「なかなか手強そうだ、だけどやってみる事に意味があるだろう?長い歴史を渡り歩いた遺物に触れる、こういう貴重な経験を私は語り継ぎたいのさ」

ダイス「長く存在しているものだけに価値があるとは思わないけれど…なるほど、それも一理ある」

シン「僕の国も物を長く大切に扱う習慣が根強いんです。歴史的な物を守りたいという気持ちはよく分かりますよ」

イグ「東洋の楽器も素敵だと聞く、そちらの国の音楽もとても興味深いな。いつか本場で聞きたいものだ」


かろうじて残った弦をぴん、と弾けばお世辞にも美しいとはいえない音が響く。

錆びてしまった糸をなぞりながら、かつてはどんな音を鳴らしたのだろうかと思いを馳せた。


ロレ「よし、こんなものだろう」

リン「…その本、持って帰っていいものなのか?」

ロレ「持って帰っていい物を探しに来るなら、僕はわざわざこんな所に無許可で来たりしない」

フィズィ「…それってつまり、」

ロレ「この区域は立ち入り禁止だ。近年魔物討伐が済んだばかりであまり開発されていない場所だからな」

アレッタ「学校にバレたら良くて停学、…悪かったら退学レベルの校則違反ね」

マリィ「えー!じゃあ今日のことみんなに自慢できないじゃん!!」

ラディ「それどころか俺たちも共犯に仕立てあげようってか?なかなか悪いことするなァ、優等生」

ロレ「失礼だな、妹の願いを叶えてあげようという兄の粋な心遣いだと言ってくれ」

ダイス「ふふ、それじゃあ彼の意図を汲んであげないとね」


地上に戻れば既に日は傾いていて、水面を夕日が赤く照らしていた。

名残惜しさを憶えつつも、来年は別のところでと約束を交わしながら海を眺めて、片付けをして。

証拠を隠すように浜辺に残された足跡を風がさらって消していく。

けれど、秘密になった一夏の思い出は確かに記憶に刻まれていた。

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