楠野里高校:01
「下向くな。そっちの方がしんどいぞ~」
長い距離を走り終わって呼吸がしんどいので下を向いていると後ろから声を掛けられた。
大学生の瀧川先輩だ。良太と同じだけ走ったはずなのにあまり疲労を感じない笑顔で注意される。
「なんで、 そんなに元気なんですか?」
「う~ん...慣れじゃない?」
周りの同級生や後輩たちはなんとか呼吸をしている状況なのに、瀧川先輩はニコニコしながら返事を返した。
この瀧川秀人先輩は楠野里高校の卒業生で大学2回生だ。大学では陸上は辞めると言っていた気がするが、結局続けて高校にも時々顔を出して練習している。
「大学ではどんな練習してるんですか?この練習を慣れって言えるって」
「ハハハッ!大学ではこんなに走らないよ。慣れってのは高校時代のハナシ。そもそも俺は体力オバケって皆に言われたしね」
「でしょうね。笑ってるの先輩だけですよ」
良太も高校1年生の時に3年生だった瀧川先輩とは被っていたが圧倒的なスタミナに最初はドン引きした。
他の3年生や2年生が座り込むような練習メニューの後に一人だけ追加で走っていたからだ。
「...良太、周りをよく見れるようになったな。いい感じだ」
「まだまだですよ。見えてないところも多いですし、先輩には程遠いです」
「そうか?いい傾向だろ、全体的にレベルが上がってるんだから。」
瀧川先輩は他の部員の方を見ながら頑張りを肯定してくれた。瀧川先輩は高校に入学してから一気に自己ベストを伸ばしたため、その後が色々大変だッたようだ。
成長期の記録の伸びは本人や仲間の予想を遥かに超える場合がある。それと同時にそれを素直に称賛できるほど成熟していない時期でもある。
「でも、ケガで離脱した奴らは焦ってますよ。置いて行かれるんじゃないかって。」
「焦ってもいいことないからな~。無理せず休むのも重要なんだけど」
「そうですね...先輩はどうしてたんですか」
「う~ん...怪我したときは大人しくしてたな。アドバイスの時に、言ってることと行動が違うと説得力ないから。あと違和感もってそうな顔の奴は休ませてたね」
「素直にやめてくれたんですか?」
「こっちから話しかけたら違和感ある奴は認めるから休めって言ったら休むよ?」
しれっと視野の広さを披露した瀧川先輩に驚かされる。つまりは、自分も練習をしながらさらには周りのメンバーのコンディションまで気にして部活の時間を過ごしていたという事だ。
「...練習しながらそんなことできるんですか?」
「やるんだよ。それで自分の練習環境が良くなるならやって損はない」
「分かりました。意識してみます」
「がんばれ~。難しくはないから慣れるだけ」
「集合しろ」
丁度その時監督から声がかかり2人で瀧川先輩と2人で監督の方に近づいていった。
映画館で映画を見ていたような感覚から意識が浮上する。同時に小さな雑音も耳に入ってきた。ボーっと天井が見える。どうやら寝ていたようでベットの上にいるようだ。
「どこだ?ここ」
身体を起こし、周りを見るとどうやら保健室のようだった。消毒液か何かの保健室独特のにおいがする。
「保健室...か?いった事ないからわかんねえ」
壁の時計を見るとももうすぐ19時になるかというところだった。窓ガラスの奥も暗くなっている。
保健室の電気は消してあるが、廊下の電灯は付いているようだ。だが人の気配はなかった。
「...電気通ってるんだ。」
水道も通っているのではとトイレに行きたい衝動に駆られるが、流れないと恥ずかしい事になるので諦める。
とりあえず自分の教室に戻ろうかと保健室を出た。
教室に向かって歩いているとグラウンドの方向へ歩いていく生徒が見えた。起きてから初めて人を見たのでそのまま追いかける。
グラウンドに到着すると中央に大きなキャンプファイヤーが燃え盛っており、その周りで生徒たちなにかを食べていた。
「今起きたんだけど何食べてるの?」
丁度グラウンドの隅で食べていた同じクラスの女子グループに話しかける。こちらを見たまま固まったのに気が付いて不安になっているとグラウンドの中央に走り出していった。
「...人みて逃げ出すのはひどくない?」
少し悲しい気分に浸りながらキャンプファイヤーを眺めていると。グラウンドの中央から集団が良太の方に移動してくる。よく見ると陸上部と同じクラス同級生たちだった。
「おはよう。よく寝た?」
大河が嬉しそうに話しかけてきた。その横には蓮太郎や陸上部のみんなが笑っている...何人かは泣きそうだが。
「よく寝た。お腹空いたんだけど何食べてるの?」
大河達の手にあるマンガ肉を見ながら聞くと、笑いながら答えてくれた。
「ああ、これは俺たちが倒した恐竜のドロップ品みたいだよ。インベントリに入ってた。」
「インベントリ? あ~あれか」
良太が右下のアイコンを意識するとステータス画面が出てきた。その中からインベントリを開くと確かに肉が入っている。
「...ふ、ファイヤーストームT-レックス? 長いし捻りがない名前だな」
「やっぱりそう思う?この世界を作った人間は名前に興味ないんじゃないかな?」
「かもな。とりあえず肉頂戴」
「取ってくるよ。ちょっと待ってて」
言うや否や大河達はグラウンドの真ん中へ歩いて行った。なぜか1人残った蓮太郎はこっちを見ながら不思議そうな顔をしていた。
「どうした?」
「肉以外は何もなかった?俺のには皮とかあったけど」
「あったぞ。けど多分レアなやつなんだよ。今出すと面倒いし肉食えなくなる」
「なるほどね。それでこそりょう君だ」
蓮太郎は納得したように笑顔に戻りグラウンドの真ん中の方を見た。つられて顔を向けると大河達が大きな皿に山盛りの肉を運んできていた。
「詳しくは食べ終わってからか明日話そう。りょう君お疲れ様」
「お疲れ。蓮太郎もな」
蓮太郎と話しながらも、良太の意識は山盛りの肉に移動していた。
年末ですが29日、30日、31日と投稿します。




