楠野里高校:06
正午になると体育館の舞台に巨大なディスプレイのようなものが出現した。さらに音も鳴るようで聴き馴染みのないBGMも流れ出してる。これには良太も驚いたが他の体育館にいる面々も固まってしまっている。
「……随分凝った演出。体育館のスピーカーから鳴ってないか?」
音の発信源を探して体育館も見回すがどうやら体育館に元々あるスピーカーから音が鳴っているようだ。しかしどういう技術かいつも聞いていたスピーカーの音よりも非常にクリアでヘッドホンから聞こえる音のようにも感じる。
「そうみたいだね。ハッキングでもしてるのかな?どんな技術なんだろう」
(どんな感想だよ。こいつも大概変なやつだろ)
独り言のつもりだったが大河に拾われてしまった。大河が変なことを言っているのを聞きながら心の中で毒づきながら出現したディスプレイを見ていると映像が映り、昨日話した“くろこ”と同じ格好の人物が中央に立っている映像が映し出された。巨大なディスプレイには不釣り合いのちょうど舞台に立っているようなサイズで。
それと同時に出現したときにはあったディスプレイの縁の部分が消滅し、“くろこ”のような人物は舞台の上に立っているように見える。
(…ホログラム?それとも舞台にいる奴は実態があるのか?)
恐らく縁の部分が消えたのを体育館にいた全員が気付いたのだろう。ザワザワと周りの人と話している。そして舞台に立っているように見える人物を警戒するように何人かは抜剣している。
出現から少し経ったあと、おもむろに舞台の上にいる人間は話し出した。
『こんにちは。高校生諸君。只今をもって君たちの高校に出現させていたモンスターを削除した。期限内に討伐出来た者たちがいた場合のためにおめでとうと言っておこう』
「? ねえ、これってもしかして」
「わからん。ライブ配信か録画かどうかなんて判別できん」
大河が声を掛けてきたので短く返す。俺たちが討伐したことを分かっていないように聞こえるがそれだけではLIVE配信なのかは判別できない。
『私は“くろこ”。この世界に君たちを『転移』させた張本人だ』
今、体育館に集まっている生徒は全員昨日俺達3人が“くろこ”を名乗る人物と接触し、今日この時間にこの放送があるのを知っている。そのため混乱はなかった。ただし目の前にある現実を受け入れられない者は俯き、泣いている者もいる。
『まず先に、この世界について説明しよう。この世界は地球を模した新たな世界。地球とは違う独自のルールを持つが、地球と同じ形、縮尺、地形を保持している。我々はこの世界を《Terra Aurea》と名付けた。』
「教科書でも何でもいいから地図を集めてきて!」
叫んだのは生徒会長。それに呼応するように何人かが体育館を飛び出していく。
『当然君たちの高校の場所も元の地球と同じだよ。分かりやすいだろう。そして“この世界”に転移したのは全世界の学生たち、日本の年代では高校生だ』
ザワザワとした混乱が広がっている。部活の主将たちも指示を飛ばし、地図を探しに何人も体育館から飛び出していく。良太も一応あった方が楽かも、と席を立とうとすると横にいた大河と比奈に掴まれて座らされた。
『君たちの目標はこの世界、《Terra Aurea》の『ダンジョン迷宮』完全攻略だ。この世界には大量の、学校の近くにもあるが地下へと繋がる洞窟が存在し、その洞窟の奥には巨大なダンジョン迷宮が広がっている。君達にはその最奥にいるボスモンスターの討伐を目指してもらう。』
(王道RPGか。確かに勝手に人は減っていきそうだな。だけど…)
良太が思案に耽っている間にも、他のグループではザワザワと話し合っている。そして一応会議の最初からやっていたのだが、必死に話の内容をノートに書いている書記役の筆記音もあるため体育館は騒々しい雰囲気になっている。
『あぁ...先に行っておかないといけないのだが、この世界で死んだとしても元の世界に帰ることは出来ない。この世界に生き返ることもない。君達もこの世界に転移したとき眠くなったりしなかっただろう。つまり君たちは元の世界の身体のまま移動してきたという事だよ。』
(サラッと言いやがって……やっぱり死んでも帰れないのかよ)
『元の世界に戻れるのは子世界をクリアした時だけだ。君達にも疑問はあると思うが、まず一定期間まで、学校内の電気、水道、ガスの利用は出来るようにしている。これもこの世界のルールの応用だ。私たちも感染症の大流行は求めていないのでね。だが一定の期間を過ぎれば設備は使えなくなる。それまでに自分たちで整えておいてほしい』
『この世界では君達に衣・食・住すべてを自分たちで補ってもらう。住に関しては先ほどの通り最初はサポートをするが他については行わない』
『武器や防具に関してはダンジョン内からドロップするだけではなく、鍛冶や服の制作を行う事も可能だ。農業や畜産などに関してもすべてそちらで賄ってもらう』
「おいおい、農業もかよ」「畑なんかやったことないぞ」
そこら中から不安の声が上がる。生徒会長なんかは頭を抱えて泣きそうな顔をしていた。
「りょうくんこれってさ、食料カツカツなんじゃない?」
「蓮太郎、多分正解。絶対今いるこの人数分でも食料集めるのしんどいだろうな」
「そうだよね……」
『この世界では職業を決め、その職業をレベルアップさせることが出来る。鍛冶や建築といったスキルは技能レベルによって完成度が大きく変わるから修業は頑張ってくれ。』
(ちょっと待てよ。それは、ある程度レベル上がらないと碌な武器作れないんじゃ……)
『ここで一旦10分休憩にしよう。今の内容を咀嚼して飲み込みなさい』




