楠野里高校:05
生徒会長、細川有希子は混乱していた。思っていた以上に自体が深刻であるような会話が繰り広げられているからだ。
(竹中君、こんなに雑な性格だったとは思わなかった・・・)
有希子が責任者としてこの場所に座っているのは鈴木大河の要請によるものである。正確には教室で丸まって泣いていたら、大河から命を受けた陸上部に拉致られた形だ。
(どうしよう。今話してる内容だと私だけではどうしようもないわよ。指揮官とかできる器じゃないし。)
細川有希子は生徒会長として言えば真面目に職務を行っているが、生徒会に入ったのは内申点の為というのが主な理由である。リーダーシップを発揮して場を動かすタイプではなく、前例を踏襲する堅実タイプの性格だった。
(でも、私がここで泣き出すことは出来ないわよね。一番なんとかできると思って進行を頼んだ秋村さんでも止まってたし。)
それが問題なのだ。正直な話、この会議で話される内容のほとんどは生徒会や主要な部活の主将達には共有されている。それでも竹中良太の落とした爆弾は全員に衝撃を与える結果となった。共有はされていても、実際に対峙した人間の認識を聞いてしまえば、否が応でも意識してしまうものである。
「しかし、殺し合いをおしなくともこの世界のクリア自体は可能だと言っていました。ですが殺し合いをするように仕向けられるのか、もしくはそれが最短でクリアできるのかは、まだ分かりません」
そう鈴木君が続けている。
(この世界についての説明はあるのだろうけど、今のままでは未確定情報で進んでしまうかもしれないか。それでも確認はしないといけないわね)
「生徒会長どうぞ。」
私が手を挙げたのに気が付いた鈴木君が指名してくれる。それを確認して立つと体育館にいる全員の視線が突き刺さった。
「今の話では、目的が達成されていなくともクリアが出来てしまうように聞こえますが、その認識で良いのですか?」
今の発言の内容には血を流す必要のない脱出方法の可能性を提示していた。この会議の責任者としては確認しないわけにはいかない。
「大丈夫でしょう。この世界に連れてきたと名乗る本人が言っていたことですし、俺たちが教えてもらったのはおまけの情報なので元の情報を知らないとわからない部分もあるでしょうからね」
「...なるほど。そういう事ですか。分かりました。」
本人が言っていたというのは情報の共有で出てきた謎の人物“くろこ”のことだろう。安易に信用は出来ない相手であるが私たちよりは間違いなく上位者であるだろう。
(ふざけないでよ。高校生だけで何をさせる気?)
有希子は昨日、大河たちに暫定でこの学校の責任者を頼まれた時に頼れる人間を集めようと学校中を走り回った。楠野里高校は系列の幼稚園・小学校・中学校・高校・大学が隣接して集まる私立学校であるため高校の建物でなくとも他の建物には誰かいるのではと探し回った。
(高校生以外誰もいない。この世界では少なくとも身近に同級生以上の年齢の人間はいなかった。)
そもそも大学の建物はあったが、中学校などの他の建物はきれいさっぱり無くなり、草原や林に変貌していた。
「まあ勝手に殺し合いするようなシステムになっている可能性も捨てきれないだけどな」
頭の中で、昨日の愚痴を考えていると、心底いやそうな声色で竹中君が話したのが聞こえた。その発言に思わず顔を顰めてしまう。
「どうしてそう思うの?」
「いや、普通に考えて日本で生きてきた俺たちに自ら血を流すっていう選択を取らせるのは簡単じゃないだろ?しかも相手日本人どころか下手したら友達だぞ?」
質問した鈴木君に答えるように竹中君が考えを話している。それを聞いている会議の参加者もその考えに納得しながら苦い顔を浮かべていた。
(たしかに。この世界には高校生しかいないのであれば戦いになる可能性は低いはず…よね)
有希子もその意見には納得した。少なくとも今の私たちには戦うという意思そのものがないのだから不自然に感じざるを得ない。だが今はこれ以上の話が予想の域をでない会話になる雰囲気を感じた。
「とりあえず、その可能性があることを十分に考えて行動しましょう。予定していた会議の時間が過ぎてしまいました。先ほどから話出てきている“くろこ”によれば正午から我々に向けての何かしらがあると昨日接触があったときに言われたようです。一旦解散とします。」
(これ以上の話はキャパオーバーよ。とりあえず休憩ね)
「食堂で簡単な軽食の準備をしてもらっています。取りに行ってください。“くろこ”からの連絡方法がわからないため、正午には一応体育館に集合でお願いします!」
有希子の締めの言葉に司会を頼んでいた秋村さんが続けた。その言葉を聞き、静寂に包まれていた体育館は一気に騒々しくなる。何人かはぐったりとしているしているが陸上部のメンバーは颯爽と体育館から出ていった。
(どれだけ図太いのかしら。いや、竹中君や鈴木君という精神的支柱があるかも。)
陸上部を視線で見送っていると生徒会や、主要部活の主将達が集まってきた。みんな疲れているようだがそれ以上に困惑していた。
「生徒会長。最後の話、どう思った?」
近づいてくるなり、サッカー部主将の野口君に問われる。他の人たちも気になっているようで、全員の視線が有希子に向けられた。
「…まだ分かりませんが、最悪我々も殺し合う可能性を考えた方がいいでしょうね。…信じたくはありませんが」
「…そうか。まだわからんが、今だとあいつら次第か。現状だと俺達では太刀打ちできない」
集まっている全員が暗い表情になる。誰も名前をあえて言わないが今の情報だけだと、ここにいる全員の命をたった数人が握っている可能性がある。それは正しく脅威となりえる事だった。
あけましておめでとうございます(時期外れ)。
正月明けから忙しすぎて全然更新出来ていませんでした。とりあえずなんとかなりましたので投稿を再開します。1月投稿できなかった話数分は今年のどこかで穴埋めする予定で考えています。
今年もよろしくお願いします。




