第7話 水の都ウォーターブルー
それからあたし達の旅は何か大きな問題が起きることもなく数日後には水の都ウォーターブルーに到着していた。
「すごい……これが水の都ウォーターブルー……」
久しぶりに来た水の都は以前と変わらず美しい町だった。
青を基調にした建物達と至るところにある水源。
井戸や噴水、水路など、果ては空中には沢山の水泡がゆらゆらと光を反射して煌めいている。
「この町は水の精霊ウンディーネに愛され加護を受けているからね、水の資源が豊富なのさ、水魔法もここでは力が上がる」
この世界には精霊が存在する。
精霊というのは気まぐれで、人の前には滅多に顔を表さないし何かに固執することもない。
だけどウンディーネは別。
ウンディーネはこの町を選んでこの町に加護を与えている。
それは立地からなのか、気まぐれなのかは人間には分からないけどね。
「そうなんですね……」
「……馬も買わないといけないし、宿も取らないといけないからね、油を売ってる場合じゃないよ、といってもあたしも久しぶりに来たから道も変わってるかもしれないねぇ、ちょっとばかし探して回らないといけないかもしれないから覚悟しな」
空返事をしながらキョロキョロと辺りを見渡すアダムにあたしはそう告げる。
そう、前に来た時は大分昔の話だ。
今ではもう建物も変わっているかもしれない。
だから、別にアダムに町を見回してあげようなんて考えはこれっぽっちもない。
「……はい!」
アダムがどう受け取ったのかは知らないけど、少しだけ嬉しそうに元気にそう返事をした。
「……」
「やっと宿は決まったけど、なんだいあまり元気がないね」
泊まる宿を決めて、近くのショップで適当な食べ物を買って食べていたがアダムはあまり元気がない。
まぁ、それもそうだろうね。
あたしだって驚いたのだから。
「……あ、いえ、何か、最初の印象と違くて」
アダムは辿々しくそう呟く。
「確かに、以前来たときにはあった筈の噴水が枯れてたりおかしなところはあったねぇ、それに町に活気もなかった」
そう、水の都という名を冠するだけあってこの町の水資源は豊富、な筈だったのだが町のなかへ進めば進むほど枯れた噴水や何も流れていない水路なんてものが沢山あった。
道行く村人達もどこか覇気がなかったように思うし何かが起きているというのは一目瞭然だった。
「何か、あったんでしょうか? また魔物関係とか……」
「まぁあたし達は馬を買えば出ていく身だよ、気にすることじゃないさね」
考え込むアダムにあたしは早々にそう答える。
「……」
「……あんなことがあったのにまた首を突っ込もうとしてるのかいあんたは」
黙り込むアダムにあたしは呆れながらそうぼやく。
直近であんな目にあっておいてまた首を突っ込みたいなんて変わり者も良いところだよ。
あたし達は別にお助け屋じゃないんだ。
「いや、別にそういうわけでは……」
「……」
アダム自身も前回のミスを引きずっているのだろう歯切れが悪い。
あたしは急かすことはせずに返答を待つことにした。
「あのね」
だがそんな静寂をやぶったのは恐らくアダムよりも年下だろうと思われる年端もいかない少女だった。
「なんだいあんたは」
見たことのない子供。
全く、こんな小さいの置いておいて親はどこにいったんだい。
「今、この町では水がどんどん枯れてて、水消失事件って呼ばれてるんだよ、だからみんな元気がないの」
あたしのつっけんどんな物言いに身動ぎするでもなく頼んでもいない説明をしてくる。
子供っていうのはこういうのだから嫌なのだ。
「それをあたしに言ってどうするんだい」
あたしは至極全うな返事を返す。
それを言われてもあたしは何もする気はないしそもそも数のいるなかでなんであたしに声をかけたのかも分からない。
「おばあちゃん色々知ってそうだから、ついこえをかけちゃったの、私ウンディーネ様が大好きで、水が減ったらウンディーネ様が悲しんじゃう……だから、ゴミ拾いとかして水をきれいにしようとしてるんだけど全然解決しなくて……」
少女の発言は年端もいかない少女からすれば大人びた発言だった。
ゴミ拾いだって普通の子供は率先してしたりはしない。
「まぁ、それはそうだろうね」
あたしは少女の説明に頷く。
一度町を見て回った身からすればこの事件の理由はすぐに分かった。
きっとそれだけでは解決しない出来事だね。
「ねぇお願い、この事件をどうにかして……!」
「……それであたしに何のメリットがあるっていうんだい」
身を乗り出して懇願してくる少女にあたしは冷ややかに返す。
あたしがこれをどうにかして、あたしにはメリットなんて一つもない。
「マチルダさん……」
それ聞いてアダムは若干温度の低い声を漏らす。
「水が戻れば美味しいお水が飲めるよ!」
「……はぁ、水なんてどうでもいいけど分かったよ、理由には心当たりがあるからね、出来る限りはやってみようかね」
そして諦めずに元気に主張してくる少女が最後の決め手となって、この事件自体の根本も何となく分かっているからこそ、仕方なくその提案を受け入れた。
「ありがとうおばあちゃん!」
「こんなおいぼれだからね、あんまり期待するんじゃないよ」
「うん! ありがとう!」
うまくいかなかった時のことを考えて期待するなと言ったのに少女は嬉しそうにそう返して、早々に去っていってしまった。
「……マチルダさん意外と甘いんですね」
「余計なお世話だよ、全く……」
決めてはあんたの一言だよなんてことも言えるわけなく、あたしは苦言を呈してから座っていた椅子から立ち上がった。