第6話 新しい仲間
「で、そのフェンリルウルフどうするつもりだい? まぁ一番良いのは国に保護してもらうことだろうね、密漁の被害者だからちゃんと保護してくれるだろうね」
フェンリルウルフの密漁被害はこの一辺の国の問題とされている情勢の一つだ。
保護活動をしている団体もあるのだからそこに預ければ万事解決する話だろう。
「……でもマチルダさん、この子見つけたときずっと震えてて怖がってたんですけどやっと落ち着いてくれて」
だけどアダムはそのフェンリルウルフと出会った時のことをポツリポツリと話ながらフェンリルウルフを抱き締めている腕に力を込める。
「まぁ、気持ち良さそうにしてはいるね」
フェンリルウルフの様子を見れば確かに少しの不安は感じ取れるがそこまで気が立っているような様子も伺えない。
「家族や仲間を皆失って、きっとすごい不安だし怖いと思います、それなのに、誰かに押し付けてはいおしまいは……したくない」
アダムは必死に言葉を選んでいるのだろう、たどたどしくそう語っていく。
それで、アダムが何を考えているのかよく理解した。
「はぁ、つまりあんたはこのチビウルフを連れていきたいって言ってるのかい?」
あたしはため息を吐きながらアダムに確認する。
「……そう、なります」
アダムは俯いてそれを肯定する。
やはりそうだ。
この子は今、そのちびウルフと自分の境遇を重ねて見ている。
自身も何の罪もなく住んでいた町も両親も奪われたのだ、魔物達の手によって。
「これは旅行じゃないんだよ、命懸けの旅だよ、そんなちびっこいのまで連れて行けば足手まといだよ」
だけどこれは遊びじゃない。
幼いフェンリルウルフを連れて歩くなんてさらにお荷物が増えるようなもの、その辺は理解させないといけない。
「……」
でも。
「……まぁ、フェンリルウルフはすぐに育つ、育てば番犬くらいはしてくれるかもしれないね」
そんな正論でどうにかしてしまおうとは思わなかった。
甘いと言われるかもしれないが。
「マチルダさん……!」
「今回だけ特別だよ、次はないからね」
嬉しそうに顔を上げたアダムから顔を反らしてあたしは仕方なく許可を出した、ということを強調しておいた。
「あ、ウル!」
ウルと呼ばれたウルフェンビーストは大きくあくびをするとアダムの腕から飛び下りてアダムの影の中に飛び込んで消えた。
名前もう付けてた時点で連れてく気満々じゃないか。
「……消えちゃった」
「ウルフェンビーストは影に潜むことが出来るんだよ、個体差は大きいけどね、このサイズで完全に溶け込めるなら良個体だよ」
ポカンとしているアダムにあたしは説明を付け加える。
大体のウルフェンビーストは大人になると影に潜む能力に覚醒する個体が希にいる。
この力があったからこそこの一匹だけが生き残った、そう考えれば全てが合致した。
早く大人になって、アダムを守ってくれればいいけどね。
あたしはそれだけ考えてからアダムの集めてきた木片を焚き火にくべた。