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第16話 全盛期の力

 あたし達は朝食を済ませると早々にアルケミーを出立した。

 アルはアルで忙しい身の上、同行するかしないかの有無が分かれば長居は無用だったからだ。

 アルに馬屋の場所を聞けばまだ研究途中であると言いながらあたし達に機械馬オートホースというものをくれた。

 魔力を糧に動く馬、水馬のように乗りやすく、その上魔力がきれなければ途中で使えなくなることもなく小さくして収納も可能と来たときにはあたしなんかよりも十分こっちのほうが規格外だと呆れたがありがたく貰うことにした。

 アルゼンラインにはその代わりにまた、全てが終わったら顔を見せるようにと釘を刺されたが。

「それにしても、ここらはこんなに暑かったかね、異常気象だよ全く」

 そして何の問題もなく道を進んでいたが途中から場の温度が異常に上がったような気がする。

 おそらくだけど長年の感覚から来るこれは勘違いではないだろう。

「砂漠地帯へ向かうんですからそれは暑くなって当たり前なんじゃないんですか?」

「ここはまだアルケミーの領だからそこまで暑いわけがないんだよ、全く何も知らないねあんたは」

 だけど温度の変化にそこまで気を払っていない様子のアダムにあたしは突っ込みを入れる。

「……町から出たのが今回が初めてなので仕方ないです」

 そうすればアダムは少しだけむすくれてそんなことを言いながらそっぽを向いてしまう。

「そうかい、それならまぁ仕方ないのかもしれないねぇ」

 アダムがたまに漏らす子供っぽいところは、嫌いではない。 

「……何か言いたいなら言ったら……あれ、なんですか……?」

「急にどうしたんだい、あれって……ああ、また嫌なものを見たね、下がってな」

 あたしの視線からなにか察したのかムッとして突っかかってくるアダムはふと、上空に視線を向けて顔を青ざめさせるからその視線を追ってみればまた嫌なものが視界に写りこんだ。

 瞬間アダムを制しながら機械馬から降りるよう促してすぐに臨戦態勢を取る。

「どーもどーも糞ババア様、殺しに来てやったぜ」

 空から強襲してきたのは魔物の大群で、その一番前に立っていた鳥のような瞳の男が地面に着地すると嫌な笑顔でそう宣う。

「……スザク、あんた達の魔王はあたしを城に招きたいんじゃないのかい、それにしては邪魔したり、殺そうとしたり、何がしたいのか分からんやつらだね」

「スザク……四獣のひとり……!」

 あたしが文句を付ければ後ろにいたアダムが反応する。

 そう、この男は四獣の一人、スザクだ。

 つまりは昨日のコハクと同じで四天王の一人。

 コハクが魔王はあたしを招待したいと宣っていわりにはどうも本当に会いたいようには感じない。

 なぜならスザクは四獣の中でも残虐性が強く、過激な思考をしているような奴だからだ。

「こちらも別に一枚岩ではないのでね、オレはコハクの派閥、めんどくさいことになる前にお前を殺して魔王サマにはちゃんとして欲しいの、ゲンリョク達とは違うんでー、だーかーらー、お前が弱ってるって聞いてちゃんとこうして軍を統率して殺しに来てあげたってこと、だからとっとと死ね人間」

 スザクはふざけた様子で言いながら、ぞろぞろと空から降りてくる魔物達に指で行けと指示を出す。

「……本当にめんどくさいことをしてくれるね、あの虎は」

 魔物達がそれぞれに武器を構えるのを見てため息交じりに一度剣の塚に手をあてがってから、この場合は魔法のほうが良いだろうと判断して手を前にかざす。

 はっきり言ってコハク単体に怪我を負わされてるようじゃあ苦戦するかもしれないが、あたしが怪我する分には問題ない。

「マチルダさん」

「あんたは下がってな、まだ鍛えてもらったわけでもないだろう」

 後ろからアダムに呼ばれてあたしは強く言いつける。

 コハクの時みたいな無茶をされても今回は守れないかもしれない。

「……ウル」

「ガウッ!」

「そいつは、久しぶりに見た気がするね、ずいぶん大きくなってる」

 だが何を思ったのかアダムは弓を構えながら自身の影の中にいたフェンリルウルフを呼び出した。

 見たのは久しぶりだけど、随分と育っているように思う。

 たしかにフェンリルウルフは育つのは早いがそれにしても大きくなりすぎな気がしないでもないが。

「人見知りみたいなので……ボクは確かに弱いけど……」

 アダムは言うが早いか前に進んできていた一体の魔物を弓で撃ち抜き、その横から飛び出してきた魔物はウルが飛び付いて噛み砕く。

「四獣じゃなければ、少しぐらい、役に立てる、かもしれないです、前には出すぎませんから少しでもスザクに集中してください」

 弓を構えたままのアダムと威嚇するウル。

 そして手を構えたままのあたしに怯んだのか魔物達はこちらへ向かう脚をじりじりと止める。

「……へぇ、言うようになったね、だけどまぁ、取りこぼしが出たら、そいつらはお願いしようかね」

 恐らくアルが何か言ったのだろう。

 あいつは昔から人はを焚き付けるのがで上手い。

 そうでなければアダムがスザクじゃない魔物にまで焦点を向けることはなかっただろう。

 出来る限り魔物だろうと何だろうと殺させたくないが今後のことを鑑みればいずれ少なからずさせなければいけないこと。

 だからこそ今は本人のやる気は削ぎたくない。

 そう思えたのはまぁ、アルの言葉が大きいだろう。

 そしてあたしはそれを尊重しながらも、あるものを取り出した。

「っ……その薬はっ……」

「なーに、お試しってやつさね」

 そう、それはアルに貰った薬。

 いくらアダムが雑兵を狩ったって劣勢は劣勢。

 なので三本もあるなら1本くらいお試しに使っても良いだろう。

 あたしは言うが早いかピンク色の液体を口のなかに流し込む。

「っ……」

 そうすればまたたく間に身体が熱くなっていき、心臓が大きく強く鼓動をうち始める。

 そして

「……さすがアルゼンライン、こんな薬を研究のついで感覚で作ってしまうなんてねぇ」

 砕けるように散った老体のなかから出てきて足元にあった水溜まりに映るあたしは、全盛期だった二十代の時の自分だった。

 老い去らばえた姿ではなくしゃんと背筋の伸びた自分。

 何度か手を握ったり開いたりしてみるが間接の違和感もない。

 アルゼンラインは生きている間にどれだけの功績を残す気なのか笑えてくるが、その大半は未発表のまま日の目を見ることもないのだろうということに少しの勿体無さも感じた。

「マチ、ルダさん……?」

「おいおいどういう原理だババア! 人間が何故若返ってんだよ」

 いきなり若返ったあたしを見て方々で声が上がる。

 片方は動揺。

 もうひとつは怒り交じりの声。

 だから

「五月蝿い鳥だよ全く」

 あたしは一瞬のうちにスザクとの距離を詰めると思い切り拳をスザクの派手で目に痛い真っ赤な頭髪に向かって振り下ろす。

「っぐ……!!」

 そして怯んだスザクの背中の羽を掴んで腰の剣を引き抜いた。

 あれ程までにあたしを苦しめた腰痛も、長年前線を退いていたことで感じていた身体の鈍りも嘘のように鳴りを潜め、身体は羽が生えたよう軽かった。

「お前がいたから暑かったんだね、焼き鳥が! キレイに捌いてやろうさね」

 あたしはそのまま刃を羽の根本に振り下ろして叩き斬る。

 スザクは炎の扱いに長けた魔物。

 そして自身も炎と同義で身体からはつねに熱気を放っている。

 だからこそ、こいつがいると一帯の空気が熱くなり気温が上がる。

「口の悪さは変わんねぇなババア!!」

 だが羽を斬られた鳥はそのままあたしから距離を取るとすぐに新しい羽を生やして空に飛ぶ。

「あんたの超再生も変わらんね!」

 スザクは炎の不死鳥の性質を持つ。

 だからこそ生半可な攻撃では再生してはいお仕舞いだ。

 倒すには、圧倒的な手数が必要になってくる。

 回りの有象無象は、まぁアダムとウルに任せてもまぁ大丈夫だろう。

 強そうなやつはスザクへの初檄と同時に発動させた無詠唱魔法で既に焼き払っている。

「……そもそも何で魔王しかりあのときに殺した筈のあんたら四獣がポンポン出てくるんだい全く……」

 あたしから距離を取ったスザクに疑問を投げ掛ける。

 そう、魔王もそうだがあたしはあの時あの冒険で魔王と、その配下達、それは勿論四獣も含めて一掃した筈だ。

 それなのに何故こうして目の前に現れるのか、それは説明してほしいところだ。

「もし魔王サマに会える時が来たら自分で聞けばー、ま、会えないけどな、お前はここで死ぬからなぁ! 【ファイアーボルトクアトロ】!」

 だけどスザクは端から答える気はゼロなようで、それだけ言うと両手を天にかざして無数の炎の槍を生成する。

 これが直撃すれば恐らくアルケミーまでその余波は到達するだろう。

 それは少しだけ、困る。

「あんたお得意の広範囲炎魔法……やっかいだねぇ」

 恐らく老害のままでは全ての炎の槍をどうにかするのは不可能だった。

 出来て半径数百メートルとかそれくらい。

 だけど、今のあたしなら出来る。

 そう強く確信していた。

 だから

「でも今のあたしなら……【アイスショックノヴァ】」

 あたしは最大出力の氷魔法で面とかってその魔法を受け止める。

 こちらに向かって射出された炎のそれは1本残らず氷の固まりとなり、そのまま動きを停止した。

 一撃も地面には届いていない。

「ハッ! 炎を氷魔法で凍らすなんて本当に規格外だよあんた、だけどオレは飛べるしな……って、は!?」

 そんな様子をポケッと見てゲラゲラも笑うスザクの元にあたしは迷うことなく地面を蹴って駆け出していた。

「別に空なんざ飛べなくてもあんた一人殺すくらい問題にすらならないね」

 炎はスザクからこちらへ向かって進んでいる、それを凍らせたのだから足場にすれば自ずとスザクの前まで来れる、というわけだ。

 別に他にも方法がなかったわけじゃないけど、恐らくこれが一番手っ取り早い。

「凍らせた炎を足場にっ……! ぐはっ!」

 反応の遅れたスザクをそのままあたしは剣の柄で思い切り殴って地面に叩きつけるとそれを追いかけるように自身も地面に着地する。

「前に殺した時は、確か原型がなくなるまで細切りにしたけど、それも面倒さねぇ」

「ば、ババア、なにする気だ……」

 あたしは地面に堕ちた憐れな鳥の胸元にグッと指を押し込む。

 震えるようにあげたその声は、四獣のくせして情けないったらない。

 それ程までに前回殺された時がトラウマなのかは知らないが。

「……凍らせてそれをそのまま砕くことにしたんだよ、大丈夫、ちゃんと全ては魔王から直々に聞き出すからね、だからあんたは……安心してまた死にな、

【アイスバーン】」

 あたしの詠唱と共に指の触れた部分からスザクの身体はみるみるうちに凍りつき始める。

「く、そ、あの虎……適当抜かしやがって、何が守るもん増えて弱くなってるだ……化けもんのままじゃねー、か……」

「コハクは知らないんだろうね、人間の成長速度ってもんを、ほら、あの子達もしっかり自分の身は自分で守ってる……って、これじゃあもう見れないね」

 スザクの今際の叫びを聞きながら丁寧に説明してやったけど、氷の塊となったそれにはもう声は届いていないだろう。

 あたしはそのまま指先に力を込める。

 そうすれば

 パリンっと音がしてスザクの身体は砕け散った。

 以前切り裂いた時よりも更に粉々。

 これならもう再生はしないだろう。

「……さて、まだ余力はあるかね、アダム! ウル! 下がりな! 早々にこの茶番にかたをつけるよ!」

 あたしは早々に視線を戦場に切り替えると二人に声をかける。

「は、はい!」

 そうすればしっかりとアダムとウルは後退する。

 あたしの援護があったとはいえここまで耐えたのは流石だと思うし、アルの言ったことはあながち間違いでもないのかもしれない。

「この辺一帯にいるのは、よし、あたし達だけだね【フルパリア】」

 あたしは軽く探知魔法で周囲を探ると今度は二人と周辺一帯に防御魔法をかける。

 これで巻き込まれることはない。

「さてと、どれくらい燃えるかね【メガフレイム】!」

 そしてあたしは満を持して、魔物の集団に向かって最大出力の炎魔法を発動した。

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