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第13話 余命宣告

 あたしは早々にアダムが出ていったほうから視線を外してアルのほうを向くが

「本当にほっておいて大丈夫なの、あの子……」

 アルは心配そうにそう呟きながらいまだにドアのほうを見ている。

 研究以外では基本的に人格者の彼女らしい。

「なに、大丈夫だよ、そこまで弱い子じゃない」

 ここまでの旅で見てきたがあの子は真ん中に1本の芯をしっかりと持っている。

 フェンリルウルフの時だってそう、何があってもぶれないのは大きな強みだ。

 だから、そこまで心配することもないだろう。

「あなたがそう言うならいいけど」

 あたしの言葉でアルもとりあえずは放っておく、という判断をしたのか手近な椅子を引っ張ってきて私の前に座る。

「それにしもアル、あんたなんだいその見た目は」

 あたしはそんなアルに早々に一番気になっていたことを問いかける。

「何か変かしら?」

「変も変過ぎるだろう、あの時から一切年を取ってないじゃないか、もしかして完成したのかい?」

 変かしらと聞かれれば変としか答えようがない。

 そして、その原因に関しては少しだけ覚えがあった。

 だから突っ込んだことを聞いてみれば

「実はそうなのよー、ついに賢者の石が完成してね、それを飲んだから今の私は不老なの、あ、でもまだ不死ではないんだけどね、今は不死のほうも研究中」

 嬉しそうなアルはそう言って笑う。

 そう、前々からアルゼンラインは賢者の石の錬成を目標としていた。

 それは出会った頃すぐからのことだからもう数十年も前の話。

 賢者の石なんて錬金術師のなかでも夢物語みたいなもので、不死でこそないにしろとてつもない快挙だ。

 だがそれを世界に発信していないこともまた彼女らしいというか何というか。

 発表されていればあの片田舎にすらその快挙は流れてきただろうに。

「……化物にでもなる気かいあんたは」

 あたしは苦笑いしながらそう返したけど、不老不死、なんて荒唐無稽な話でも、アルなら出来てしまいそうなところが怖い。

 それだけ腕のたつ錬金術師なのだ。

「私はね、永遠に生きて、研究していきたいの、世界にはまだまだ解明出来ていないことが多すぎるから……」

「その探求心は見習いたいね全く」

 そう語るアルの瞳はキラキラと光っていて、まるで少女みたいで、こんな偏屈になってしまった自分との対比で自嘲的に笑うしかない。

「それよりも、アルスのお葬式な行けなくてごめんなさい」

「……いや、あれはあんたが謝ることじゃないよ、あたしがわざと知らせなかったんだからね、二回目の旅のせいで、あたしは色々なものを失いすぎたよ、全く、嫌になる」

 ふと、アルに謝られるけどそれはお門違いといったものだ。

 アルスは二回目の魔王討伐のメンバーにはいなかった。

 ミラのことを優先したからだ。

 だからあたしはミラとアルスを残して旅に出たけど、その間にアルスは殺された。

 魔物の手によって。

 それが、あたしとミラとの一番の確執で、世界を救うことに対する疑念を孕んだ理由だ。

「マチルダ……」

「……あんたには言っておこうかね、あたしはもうそこまで永くない」

 いたたまれないというようなあたしの名前を呼ぶアルには……

 魔王討伐の時、二回目もついてきてくれた唯一の仲間には伝えてもいいかもしれない、そう思って、あたしは初めてその事を口にした。

「っ……それって」

 アルはピクリと眉根を揺らしてから口を手で覆う。

「病気だよ病気、余命宣告されててね、もう一年も持たないらしい、だからこそ、今度こそ魔王を本当に殺さないといけない、制限時間が切れる前にね、そうしないと、アダムが汚す必要のない手を必要以上に汚すことになる、誰かを……たとえそれが親の仇だって、わざわざ手を血に染める必要はないんだよ、旅する中で少なからず魔物を殺すことにはなるだろうけど、必要以上は出来るだけそんなことさせたくない、そんな汚れ役はあたしだけで充分さ」

 そう、こんなしがらみはあたし達の世代だけで充分で、純真無垢なその手のひらを汚させるわせには、いかない。

 だから魔王はあたしが殺す。

「……私も大概だけど、あなたも中身は何も変わってないじゃない、あなたが死ぬその時までにもうひとつでいいから賢者の石を完成させるわ、そうしたら、あなたまで私を置いていかないでしょ?」

「ひとつ作り出すのにどれだけかかったと思ってるんだい全く……それじゃほんの少しばかり楽しみにだけしとくかね」

 そんなあたしを励ますようにアルはそう言って笑う。

 賢者の石を作り出すのにどれだけ苦労していたか知っているあたしはそんなことを言ってくれるアルが少しばかり嬉しくて、そう言いながらとても久しぶりに声に出して笑ったような気がした。

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