第11話 錬金術師サンジェルマン登場
「……マチルダさん……! すぐに、治しますからっ……【ヒール】、あれ、効かない……なんでっ……」
コハクが消えるとアダムはハッとしたように慌ててあたしの傷に治癒魔法をかけるがあたしの傷が塞がることはない。
それもそのはず。
「コハクの使う武器や技には呪いがかかってる、だからちゃんとした手当てをしないと治らないんだよ、仕方ない、早いところアルケミーに向かってそこで解呪してもらうとするかね」
コハクの一番面倒くさいところは一撃一撃に呪いを込めているからその傷を治すにはまず解呪しなければいけないというところ。
呪いを使えるようになるには精神面な大きな負荷がかかる必要があるので使えるものは少ない。
そしてまた解呪の魔法を使える人は限られるがアルケミーに行けば直してもらえるだろう。
そういう人物に心当たりがある。
「この傷でですかっ!? そんな、無茶だ、着く前に死んじゃう……ボクのせいで……」
あたしが適当な布で止血していればアダムは泣きそうな声でそう呟く。
きっと今、この子は自分の家族が殺されたときのことを思い出してる。
重ねてる。
コハクの言葉からするにこの子はミラの死に際すら目にしているのだろうから。
「……バカな子だね、この程度の傷で死ぬわけないだろう、でもまぁ、それは置いておいて勝手に飛び出したことはいただけないね、前線な出るなとあれだけ口を酸っぱくして言っておいただろう」
だからあたしはわざと明るく努めて、それからちゃんと叱る。
「そ……れは……」
「……魔王を倒すんだろう、ここで死んでたら何の意味もないことくらい分かるだろうに……」
口ごもるアダムにさらにそう付け足す。
親の仇だろうと、頭に血が上ったものから、冷静さを欠いたものから死んでいくのだ。
「……」
「あら、あらあらあら、これはいったい全体どういう状態なのマチルダ! 嫌な空気を感じて来てみたら……」
どちらも何も言えない状況を吹き飛ばすように、空気の読めない間延びした声が突然響く。
このゆるゆるふわふわした声には聞き覚えしかない。
「あなたは……」
その声のしたほうを見たアダムはポカンとした様子でそれだけ呟いて武器に手を添えようとするから
「本当に良いところに来るねあんたはいつも、ねぇアルゼンライン」
あたしもそっちを向いて、わざと名前を強調して呼び掛ける。
「アルゼンラインって……サンジェルマン・アルゼンライン!?」
あたしの言葉なアダムが驚いた声を上げる。
それも仕方ないだろう、よく雑誌の紙面を飾るアルゼンラインとは見目が違いすぎるから。
アルは目立ちたくないと言っていつも自身とは違う姿の写真を使う。
だから本当のアルゼンライン・サンジェルマンの姿をアルゼンラインとして知っている人は少ない。
紙面に載るのはいつだって妙齢の男性だが、本人は女性で、おっとりとした優しそうな蒼い瞳と長い柔らかそうな水色の長髪の女性。
「え、私そんなに有名?」
だけどどが付く程の天然なアルゼンラインはポカンとしてそう返すだけ。
「アル、取りあえず助けてくれないかね、解呪したいんだよ」
二人に任せとくとおそらく話が進まない。
そう判断して早々にアルに注文をつける。
「その傷は……呪われてるのね、良いわ、行きましょうか、話はそれからね!」
そうすればアルはすぐに了承するとあたしの身体に手をかけた。