第9話 昔の思い出
ウンディーネの一件を終えてウォーターブルーの町内に戻ると急に枯れていた水源が復活して水を吹き出し始めたことで町人達は驚き慌てふためいていた。
この先どうなるかはこの住人達が自分で考えてどうにかすることだ。
あたしの出番はない。
「さて、着いたね、ここで馬を調達しようかね」
ファームに着くと早々に自身に合っていそうな馬を探し始める。
「……はい」
だがアダムは確実に乗り気ではない。
「……あんた、隠しことが下手だねぇ、馬、乗れないんだね」
煮え切らない態度に業を煮やしたあたしはアダムに指摘する。
「……そう、なります、ね」
「そんな恥ずかしがることでもないだろう、でも困ったねぇ、馬を使わないとなると移動に時間がかかるねぇ、あ、これがあったね」
歯切れの悪い返事にあたしは呆れながら辺りを見渡す。
普通であれば馬なんて乗らない人生の人も多いだろうから仕方ないことなのにそれでしょげられても困るというものだ。
牧場を見渡しているととあるひとつのものが目に入った。
「これ、は……」
あたしがそれに近づくとアダムもついてきてそれを凝視する。
馬の形こそしていれどそれは真っ青で、水を固めたようなものだった。
そして身動きはしない。
「これは水馬、水魔法で作られた馬だね、普通の馬より扱いやすいけど長期間は持たないし高い、でもまぁ、値段は気にする必要もないし、あたしは馬を買うから一旦あんたは水馬にして、進みがてら馬に乗る練習して、次の町で馬を調達しようかね、ここで練習して乗れるようになるまで待機は時間も勿体ないからね」
「分かりました……!」
あたしの提案にアダムは強く意気込んでそう返してくる。
ああ、嫌でも昔を、思い出すね。
アルス、あたしの旦那でパーティーの法術師だった。
彼も能力を買われて魔王討伐に抜擢された実力者だった。
あたしは馬なんて乗ったことなかったけどアルスの家は貴族で、馬の乗り方を教えてくれた。
それがまさか、こんな形であたしが教える側になるなんて、一寸も考えたことがなかった。