眼間 脚本版
初めて脚本を書きました。
伏線や、小説・ドラマのネタが入っています。
どこにあるか探してみてください。
脚本としては稚拙かもしれませんが、お許しください。
登場人物
矢木湊斗 17 高校生、主人公
松坂透 17 高校生、サブ主人公
その他、松坂の友人、矢木の隣席の男子、現代文の教師
M:モノローグのことです。
エピグラフ 引用元
全体エピグラフ、最終エピグラフ:泉鏡花 「縷紅新草」
※最終エピグラフは物語に合わせて改変しました。
文章がとても美しいし、青空文庫で読めますので、是非読んでみてください。
用語説明 透明化…不可視化と同じ意味合い
?「ほら、紅い糸を持ってきましたよ。縁結びに―、それとも白いのが良かったのかしら?相手は幻だから。」
?「透明化は序章に過ぎない。透明化された人は、いづ れ人を透明化する。」
⚪︎県立△△高校 教室
9月下旬、現代文の授業をしている。
ネッカーの立方体を主題とした文章である。
教師「つまりがあるので線引いておこう、
筆者の主張は、全ての事象は多面的に見る
ことができる、というものだ」
矢木、授業を小耳に挟みながら何か考える。
矢木M「忍ぶれど色に出でなば我が恋は」
⚪︎授業後、廊下
矢木、松坂透を見かけてしまう。
松坂、友達と喋っている。
矢木、少し寂しそうに反対方向へ歩く。
松坂、走り、矢木の背中に飛び乗って
松坂「みーなーとっ」
矢木、驚いて
矢木「うわ、何急に」
松坂「今日放課後暇?」
矢木「暇だけど」
松坂「今日さ、俺と帰らねぇ?」
矢木、嬉しくなって
矢木「え、いい…いや、なんでもない」
松坂「うん? じゃ5時半でよろしくな」
松坂、友達の元へ戻る
矢木M「ものや思ふと人の詰るまで、」
⚪︎学校、体育館
学校で講演会が開かれている。LGBTQを知ると言った内容である。
ビデオの中の男性同性愛者のカップルが喋っている。
「パートナーシップ制はあるにしても、法的に不十分だから、同性婚の実現を求めて…」
矢木M「強者たちは、『みんな』を考えてくれる。
決してこぼれ落ちたのは見ないで。」
矢木M「動いていないのではなくて、動けない。」
⚪︎帰り道、川縁
矢木「大人が考えた青春の1ページみたいな風景だ
な、だいぶ安っぽい。」
松坂「はっ、言葉が相変わらずだな。」
矢木「みんな、夢の朧を作らないと狂ってしまうん だろうな。」
松坂 「言葉のセンス厨二病すぎるんよ」
双方、笑う。
矢木「つい今読んでる本の口調が出てしまった…」
矢木「最近どう?」
松坂「…まあぼちぼちだわ。」
松坂、景色を見渡す。
松坂「うわ、すげぇ、」
矢木「何が?」
松坂「見てくれよ、」
矢木、疑問に思い、指差す方を見ると、彼岸花が咲いていた。
松坂「あの花なんて名前だっけ?」
矢木「彼岸花、又の名を灯籠花。」
松坂「お前らしい伝え方だよな、あれだろ、沖方美樹のドラマハマりやすいだろ。」
矢木「よくわかったな」
松坂「あんな悩みで済むもんなら、大人って楽なのかもな。」
矢木「あのドラマは『優しい人』の攻撃性を見事に描ききってるから。」
矢木M「何も悪くない、このままで。会えているのなら、このままドラマの話をしたい。」
松坂「最近成績が下がり始めてさ、友達のいろんなことに成功してる様子見てるとさ、彼女とかできたりして、まさに青春を謳歌してるって感じで。」
矢木、物思いで話を流している。
松坂「…あーあ、彼女の1人や2人できないもんかな…」
松坂、ため息をつく
矢木、少々戸惑いながら
矢木「… 同時はさすがにやめとき」
松坂「ま、そうだよな。」
松坂、笑い始める
矢木、平然を保とうとしている。
松坂「お前も彼女とか、あ…ごめん。」
矢木「勝手に想像されて謝られた。ま適度に孤独なのがいいんだよ。」
松坂「ほーん。あ、自販機あんじゃん。」
⚪︎自販機前
松坂、小銭を探している
松坂「悪い、100円貸してくんね?」
矢木「はいよ。」
松坂「さんきゅ」
矢木、コーンポタージュを、松坂はペットボトルの紅茶を買う
松坂「あっ、っそー」
矢木「?」
松坂「自販機って2個同時に押すと左のが必ず出るんだったろ?同時に押せなくて欲しくない方やっちまったー」
矢木、おもむろにおどけて
矢木「交換するか、コンポタもあります!」
松坂「落ち込んだ時に『パンダスペース落ちる』とか教えてくれそう、さんきゅ。」
矢木「覚えてんなーちゃんと。ありがと。」
松坂「お前と話すためだよ。」
矢木「…ありがとう?」
少し時が経ち
松坂、上を向いて缶を叩いている
矢木「あー、コーンって引っかかるよな、好きな人の一挙一動なみに。」
松坂「例え方よ、めんどいし捨てよっかな。」
矢木「腐って悪臭を放つから、全部食べたら?」
矢木M「夜明けは決して来ない、バーナムを動かさないと」
⚪︎矢木の夢
講演会で話していた男性同性愛者が矢木に向かって話している。
男性「自分たちの時代は、ゲイなんて色物扱いで笑い物だったし大変な思いをして生きてきた。だから、次の世代にそれは残したくないと思って、今の活動をはじめたんだ。パートナーもできて、いろいろあったけど、幸せは2倍、苦しみは半分になった。君もゲイなんだろ?いつかいい彼氏とかパートナーとかできるって。それまで頑張ろうな?」
矢木「そ、そうですね、いい彼氏とか、ね。頑張りましょう」
矢木M「いつか、ね。都合がいいよね。1人だと苦しみは2倍、幸せは半分になるのに。無責任だよね、沢山の涙を流したはずなのに。」
?「朝、気がつけば絆だった赤い糸が途切れていた。」
矢木、ベッドにいる。
矢木M「咳をしても独り」
矢木、38.5℃の熱を出している。
LINEを開く、通知が溜まっているものの全て公式アカウントからのそれであった。
矢木、松坂の笑顔を思い出す。
矢木M「目を伏せた自分の醜さと、傷とが抉り出されるように」
矢木、毛布にくるまって震えている。
矢木、今にも泣き出しそうである。
矢木M「金閣寺のように笑わないで」
数時間後、矢木、家にあったゼリーを食べる。
矢木M「高望みの逆罰か」
疲れたように眠る。
⚪︎学校
矢木、風邪が治った様子であった。
矢木「あ、あっあのさ、」
隣の席の男子に話しかける。
男子「どした?てか風邪大丈夫だった?」
矢木「あっ、うん大丈夫ありがとう、お願いなんだけどノート見せてくれない?」
男子「いいけど、松坂とかに送られてないのか?」
矢木、沈黙する。
男子「なんか、ごめん。とりあえず数学から、」
矢木「あ、本当にありがとう」
矢木、友人たちと戯れる松坂を見てしまう。
矢木M「あの中には入れない、あれが、松坂なのだから。」
?「優しい人って、自分が憂だと思うことを無視してるんですよ。」
⚪︎矢木、手紙を書いている。
矢木M「なんでもない日、何かが切れた日」
松坂へ送った手紙
突然の手紙、驚かせてしまったのなら、ごめんなさい。
面と向かって話していたなら、きっと感情がとめどなく溢れてしまうことでしょうから、手紙で伝えます。
単刀直入に言えば、あなたが好きだったということです。
ふと笑った時に、相手への優しさが滲む姿が、とても好きでした。
分け隔てなく人と接するあなたが好きでした。
もちろん自分にも。
最後に帰った時、ペットボトルの紅茶の蓋を開けて渡してくれていたこと、覚えています。
けれど、いつからか私にとってその感情は、「絆」にもなっていました。
コーンを食べ忘れていました。
きっと叶わないから、けりをつけるために書きました。 自己中心的でごめんなさい。
でも、最後にこれだけ言わせてください。
一緒にいてくれてありがとう。
読んでくれてありがとうございました。 矢木湊斗
翌日、手紙を松坂の引き出しのなかに入れる。
⚪︎松坂とのLINE
松坂からの返信が来ていた。
「手紙、読んだ」
「みなとのことは、友達として好きだけど恋愛的には好きにはなれない」
「でも、男が男を好きになることは、何も間違ってない」
「もっかい、友達としてやり直してくれないか?」
矢木、呆然とした後、スマホを叩きつける。
矢木「ふざけんな、どれだけ、想いを殺して…」
矢木、泣き崩れる。
矢木M「適度に孤独では無くなってしまって、気づけた。あの人がいたから、孤独でいられたのだと。」
?「誰もにドナウの水は数滴ふりかけられている」
数日後、
⚪︎学校 休み時間
矢木、模試の結果を興奮気味に伝える
矢木「見てくれよ、これ」
松坂「…ああ、すごいな、俺より上じゃん」
矢木「…あ、ごめん」
松坂「いいよ、よく頑張ったな。」
矢木、松坂の顔を見られない。
矢木M「自分がもっと我慢していたら、あんなことで切れてしまわなかったら。」
矢木「…どうかした?」
松坂「なんでもない」
矢木「それなんかある…ごめん」
松坂「だから、なんでもねえって」
矢木「ごめん、…ごめん」
松坂「やめてくれよ、ごめんってもう言わないでくれ」
矢木M「ごめん」
⚪︎学校、放課後
矢木、考え事をしている。
矢木M「あれ、やり直してくれないかって、普通自分の方が言う立場なのでは?」
松坂の友人「ねぇ」
矢木「あ、え、あ、何?」
友人「最近松坂おかしくない?元気ないし君なら何か知ってると思って、」
矢木「ごめん、わからない。」
友人「そっか残念だな、時たま親がうるさいとか言ってたけど、今は明らかにだし。」
矢木「自分の志望校って確か松坂のより下…あっ」
矢木、何かを思い出した。
⚪︎松坂とのLINE
矢木「会って話したい。今度は、言葉で」
矢木M「誰もがハンバートハンバートであるのに、自分の悲しみに酔っていた。」
?「歴史とは、勝者の物語である。そこに人間性は排除され、永遠とキッチュとが挿入される。」
⚪︎学校からの帰り道、河原
矢木「ごめん来てもらって」
松坂「まぁいいわ、なに」
矢木「…率直に言って、ごめん。自分勝手だった。」
松坂「いいよそれは、俺もお前を苦しめてたことに変わりはないんだし」
矢木「自分は、松坂の全てを知っている訳じゃないけど、悩んでるだろ。」
松坂「ああ」
矢木「言いにくかったら、言わなくていい。言葉がまとまらないなら、待つ。人として、他人が悩んでいるのを放っておけない。」
松坂「…俺さ、だんだん成績とか落ちてって、焦りとか情けなさで、最後に帰った時は久々に自分を休憩させようと思って。あの時のコンポタ、あったかかったな。彼岸花、綺麗だったな。でもこれ以上サボったらってお前から離れた。そしたらお前の手紙。自業自得だよな。なのにやり直してくれなんて恥知らずに送って、それでいてお前にキレて、ほんと情けない」
矢木「いや、自分も無神経だった。ごめん。」
松坂「…どうすればよかったんだろうな」
矢木「わからない。時は矢だから、戻れない。」
松坂「苦しみを抱えて生きろってか?」
矢木「…」
松坂「どした?」
矢木「いつか報われるよ、って言おうとしてた。いつかなんて、夢で言われて一番苦しかったのに。」
松坂「…」
矢木「幸福な人は全てよく似て、不幸な人はそれぞれ違う理由で不幸になるってよく言うけど、人なんていっぱいいる。似てるわけなんてない。彼女を持って楽しそうにしてる友人たちも、きっと何かしらはある。」
「周りじゃなくてさ、自分で見て考えて行動を起こせば、結果が悪くても愛せるんじゃない?」
松坂「それが難しいから悩んでるんだけどな。」
矢木「…ごめん」
松坂「…前に、現代文の授業であった多角的に見るとか言ってたな、それ、なんか使えねぇかな、」
矢木「それか、諦めるとか。諦めるは明らかと同じ語源だし。明らかにしたら、何か見えるかも。」
松坂「ちょっと心が軽くなった気がする。」
矢木「教師が直接正解を与えるという夢の朧じゃなくて、自分たちで生き続けなきゃならないから。最後は自分次第。」
松坂「だな。」
矢木「悪も善もない、だから目の前からこぼれ落ちたものを拾い続けなきゃいけないのかもな」
松坂「どういうこと」
2人、笑い合う。
矢木M「人生なんて、何を描けばいいかなんてわかりはしない。でも、額縁には入れたくない。」
?「川の風一通り、赤灯籠が静と動いて、男の影が……2人見えた。」
最後まで読んでくださりありがとうございます。
本作の書きたかったこととしては、
無視してきたものに光を当てること
人は無意識に傲慢であること
の2点です。
例えば、朝ドラ「虎に翼」では、放送時間の制約により仕方なかったにせよレズビアンの方々が無視されました。(もちろん作者の方はそのことを自覚なさっていて、そのことについてXでポストなさっていました。)
そして、ゲイとMtFの方たちの登場に「思想の押し付け」との声がありました。
そしてこの物語の中でも、男性同性愛者が、同性婚の実現をあたかもその方々全員が望んでいるように発言し、矢木はそれに反発しています。
その矢木自身も、松坂の状況を全く見ず、自分のことばかりに注目していましたし、松坂も矢木が断腸の思いで書いた手紙に矢木が苦しむような返信をしました。
どの人も、誰かを透明化していますし、最初のを除けば、自分が正しいという無意識な傲慢さがでています。
そのことを描きたく本作品を書きました。
作者自身も気をつけないといけませんね。
できれば小説版の方もお読みくださるとありがたく思います。