3:思い出
席に戻ると、杏那がねぇねぇ!と話し掛けてきた。
「もう1人の男の子来たって!楽しみだねー」
「ふーん…」
「何よ?楽しそうじゃないわね〜」
と、少々ふてくされながらも、杏那は男の子と話はじめた。
私はサラダをちびちび食べてると、
「あー来たー!」
と、葛西旬くんが、少し大きめな声で言った。
「あー…ごめんごめん」
と言って、席に着いたのが、さっきトイレの場所を聞いてきた人だった。
「わー。結構イケメンじゃね?」
と、杏那が私の耳元で囁いた。さすが杏那……目ざとい。
「ほらー自己紹介しろよー」
と、旬くんが言った。
「ああ……遅れました、五木葉です。多分みんなより年上の十八歳です。よろしくお願いします」
言い終わってから、五木葉さんがこちらに気づいた。
「あ…さっきの人だよね?さっきはありがとう」
と、頬笑みながらお礼を言った。
「い…いえ」
「え!え!なあに!?二人はお知り合いなの!?」
と。杏那が興味しんしんに聞いてきた。
「ああ、うん。さっき、トイレの場所を教えてくれたんだ。…えっと、名前は?」
「柏原美彩希です」
「そうなんだ。いい名前ですね」
「あ…ありがとう…」
そんな事あんまり言われた事無いから照れるなあ…。
でも、何だか五木さんっていい人そう…。
そんな事を思ってるうちに、杏那が五木さんに何やら話しかけてる。
多分、杏那は五木さん狙いかな…。
私はどうしよっかな…。何か誰とも全然話してないよね。
「じゃあ次はカラオケいっちゃおー!」
と、杏那が言い、みんな盛り上がっていた。
私も、家に帰ってもする事がないから、カラオケに行く事にした。
カラオケは、すぐ近くにあり、杏那はずっと五木さんに話しかけながらカラオケ店まで行った。
「じゃー!一曲目はわたくし杏那から行きたいと思いまーす!」
「イエー!」
みんな盛り上がってますなー。てか何で私は一人寂しくはじっこでポッキーを食べてるんだか…。
「大丈夫?楽しくない?」
五木葉くんが話しかけてきてくれた。
「ああ…いえ、別に」
あんまり気を持たせたくないから、私は素っ気なく答えた。
「そう?なら良いけど…」
それで二人とも黙ってしまった。
何か…話しかけなきゃいけないっぽい?かな…?
「あの…」
「なに?」
「んーと…杏那の事、どう思いますか?」
「どうって?」
あー!何聞いてんの私!
あっ、でも杏那は五木さん狙いだから、後でどう思ってたかを杏那に伝えてあげればいいっか。ナイスじゃん私!
「何か、いい子そうとか…」
「ああ、そうだなー…明るい子かな。会話が終わらないし、楽しい子だよね」
「へー…」
よし、聞こう。
「恋愛対象としては…どうですか?」
「え?…うーん…」
何でか私が心臓バクバクしてきてる…!
「友達としてはいい子だと思うよ。でも、恋愛感情はあんまり出てこないかな…」
何故か私はホッとしていた。
「ねー!みっさきー!歌おうよー!」
と、杏那が声をかけてきた。
「ほら…!何だっけ!あの歌うたおうよ!思い出の歌!」
「え……」
思い出の歌というのは、太一とよく歌っていた歌の事だ。
太一が死んでから、一回も歌ってないし、聴いてもなかったな…。
「歌おうよー!」
「ん…いいや」
今うたったら泣きそうだし…。
太一を思い出すと、今でも胸が張り裂けそうになる。
この思い出の歌をうたったら、私どうにかなっちゃうかもしんないし…。
「じゃあ、私がうたおーっと」
と、杏那が言って、音楽が鳴り出した。
音楽を聴いた途端、懐かしさと悲しみがあふれてきた。
「~♪~♪」
やめてよ…杏那…!!
やば…泣きそう…
「あれ…?大丈夫?柏原さん?」
と、五木さんが眉をひそめて聞いてきた。
「あの……ちょっとトイレ…」
と言って、私は部屋から出た。
トイレがしたかったわけでもなく、気持ち悪くなったわけでもない。
この音楽を聴いた途端、何故か太一が帰ってきたように思えた。
ガチャ
いつの間にか、裏口まで来ていた。
裏口の階段の所で、私は涙を流していた。止まらなかった。
もうどこにもいない太一の事を、探してしまいそうになる。
ガチャ
「大丈夫?柏原さん・・・っ!」
五木さんが、息を切らして尋ねた。
何でここにいるのとか、そんな事思う前に体が勝手に動いた。
何故か私は、五木さんに抱きついていた。