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大聖女そっちのけ!?スパダリ王子殿下の溺愛から逃げられません!

作者: 河野

「僕というものがありながら余所見をするなんて、いただけないね」

「いえ…っですから余所見というか…!!」



今日もエドワード王子殿下は通常運転だ。

―――この国は今、沸き立っている。

つい先日、数十年ぶりの大聖女が眠りから覚め、この王国の結界を強固なものとする儀式とパレードを控えているからだ。

この国、エトワール王国では百年に一度、大聖女の力に目覚める少女がいる。

大聖女の力に目覚めるのは完全なランダムで、時には修道女であったこともあるが侯爵令嬢であったときもあれば王城に勤めるメイドであったこともある。

この度数十年ぶりに大聖女の力に目覚めたのは、平民だった。

これは誰しもが夢に見たような華麗なるシンデレラストーリーの幕開けとなる―――はずだった。

この国では、大聖女の力に目覚めた少女は成人を迎えると王族と婚約するものとされている。

今回大聖女の力に目覚めたのは平民、ただ王城や神殿に勤められるだけで名誉なことであるのに加えてこの国の救世主である大聖女の力を携え、さらに王族との婚約・結婚が約束されているのである。

大聖女に目覚めるだけでこの国の頂点に立つ一族の仲間入りとなるのだ。

もちろん、国を守る結界や各地の瘴気の浄化など大聖女たる使命が発生するのだが、ちまたではそんなことよりもそこから発生するラブストーリーの方が騒ぎになるのだ。


「エドワード殿下、そろそろ会議の時間ですよ…っ」

「君の瞳を見つめる方がよっぽど有意義な時間だというのに」

「そ、そういうわけにはまいりません…っ、大聖女の儀式についての会議なのですよ!」

「…はぁ、なんで僕の代でよりによって大聖女が誕生するんだろうね、次でもよかっただろうに。」


とんでもない発言だ。

大聖女の誕生は国のだれもが待ちに待った伝説のその人だというのに。

たしかに百年に一度程度の存在ゆえに、大聖女が途切れる時代もあるのだ。その間は前の大聖女が張った結界を神殿の力でギリギリ維持し続けるしかなく、今のエトワール王国はまさにその状態が続いており、国を守る結界が消耗され続けており次の大聖女の誕生を今か今かと待ち望んでいる状態だったのだ。


「大聖女が目覚めたせいで仕事は増えるし、みんな忙しなくなるし、なにより君との結婚の障害でしかないじゃないか」


エドワード殿下は、長い人差し指と親指を顎に当て困ったように悪びれもせず言ってのける。


「し、しかし、大聖女がこれ以上現れなければ結界の限界がくるところでした、間に合ったよかったとしか…」


私はエドワード殿下に掴まれた手を振り払えないまましどろもどろ答える。


「僕は国の結界よりも君との結婚や未来の方が大事だからね、結界はきっとほかに何か解決策を考えるところだったよ。いずれにせよ現れてしまった大聖女の扱いは考えないといけないけどさぁ。」


エドワード殿下は私の指に自分の長い指を絡ませて遊びながら、心底興味がなさそうに大聖女について悩んだふりをする。

ぐだぐだと言いながらもすくっと椅子から立ち上がると「そろそろ会議に向かわないと君を困らせてしまうね」とにこりと笑うが、手は放してくれない。


「ところでソフィア、次の会議は当然側近の君も参加するんだよね?」

「はい、同行いたします」


名前を呼ばれたことで手をつながれたままではあるものの背筋が伸びる。そう、私は殿下の側近として長らく彼に仕えてきている。

私の父は宰相、母は殿下の乳母、私は殿下の幼馴染のように育ち今では側近という立場にあり殿下の身の回りのお世話をする秘書のような役割を任されている。

殿下は冒頭から見て取れる通りかなり私に執着している節があるが、こうみえて仕事は早いし頭は当然のようによく、あまりの切れ者加減に大人たちからは末恐ろしいとすら思われている皇太子だ。

外見に関してはいわずもがな国民女子全員がファンクラブに入っているといっても過言ではないほどの美貌を持ち合わせ、高身長にサラサラの金髪、ラピスラズリの瞳、長い手足に整いすぎた顔面は強すぎる輝きを放っている。

王族であるが故、当然育ちもよくお金持ち、そこに頭もよく、一途ときたもんだ。

これをスパダリと呼ばずしてなんというのか。


「それはよかった。君のいないところで大聖女との婚約話でも上がろうものなら…」


その続きはなんだか怖くて聞けなかった。

そう話しながらも会議室へ向かう足取りは早い、会議には遅れないように参加してくれる当たり、ちゃんと仕事はこなしてくれる。


「明日、大聖女様が登城なさるそうですので本日の会議は重要です」

「君との未来より重要なことなんてないけどね」


会議室の扉を前に一言を添えると、いい笑顔で返される。

そうして会議室の扉を開く。


賢そうなお歴々の顔が並び会議室は、殿下を待つのみの状態だったらしい。

時間ぴったりに現れた王子殿下に、さっと皆立ち上がり一礼をする。

手を挙げて礼にこたえて、自分の席に腰掛けるエドワード殿下。


「大聖女については国王である父上から僕に一任されている。質問も疑問もあろう諸君と国民の考えや言葉は確かに受け止めるが、最終的な決定は僕が下すことになる。」


そう第一声で強い言葉を発した殿下だが、それに反対する者はいない。逆らわないという意味ではなく、殿下という人間を皆が信じており、大きく誤った判断をしない皇太子だという信頼がここには存在しているのだ。

いくつもの書類を持った皆が、それでもと口々に疑問や議題をあげつらうも殿下は戸惑うことなく淡々と判断し、会議は進んでいく。


「では、明日の大聖女様の登城では、国王陛下とエドワード王子殿下が謁見なさるということで」


もちろん衛兵や重鎮なども参加はするが、主には国王と皇太子に対して大聖女が挨拶に来るというていだ。

大規模な結界修繕や各地の瘴気対応などの前にまずは大聖女と王族との良好な関係を築かねばならない。


「国内大規模結界の儀式は1カ月後を予定し、儀式後にパレードを開催する運びに。」


大聖女との初顔合わせから1カ月という短い期間で大規模な聖魔法を行使する舞台が用意されたのは、それだけこの国の結界のガタがきているからだろう。


「大聖女様は力に目覚められたばかりだが、たった一カ月で大規模結界を修繕するだけの能力を使いこなせているだろうか?」


当然らしい疑問の声が上がる。


「過去の大聖女は1カ月足らずで成功させたケースも散見される、これまでの長い歴史の中で暴発や結界崩壊などは起きていないことを鑑みても十分に足る期間と思われる。」

「明日の登城後は神殿との聖魔法訓練を充実させた日程を用意しているため、十分に聖魔法に触れる時間はあるものと思われる。」

「もちろん大聖女個人の人格や協力姿勢を鑑みる必要もあるが、すでに交流を経ている神殿側からはその部分について不安要素の報告はあがってきていない。」


過去のデータを見つつ、大人たちはこの会議に至るまでにも当然と思われる準備をしているという。

一番の幸いなのは今回覚醒した大聖女の人柄が悪くないということだろう。

これまでの記録にも悪人が大聖女の力に目覚めた例はなく、不思議と善人ばかりが大聖女として存在してきていた。

そして、大聖女の扱いや儀式・パレードの議題も淡々と進み、ついに殿下の表情を変える話題が湧いてきた。


「大聖女と国との強固な関係を維持するための婚姻の儀についてはいつごろをめどといたしましょうか?」


そこまで淡々と粛々と進んでいた会議が、ようやくといっていいものか張り詰めた空気になる。それまでにも危機管理など重大な議題もあったろうに、よりにもよって張り詰めた空気になるのは王族との婚姻関係についての話題だというのも少々おかしな話だ。

しかし、大聖女と王族の婚姻には重大な役割があるため軽視することも容易ではない。


「大聖女が他国に流れないために」

「国や国民への示しのために」

「その大きすぎる力を管理するために」

「大聖女の絶対的安全のために」

「王族との子を成すことでより慈しみをうちに向けるために」

「国とのかかわりを深く持ち反乱の恐れがないように」


理由は上げていけばキリがない。


「はっ、どれも単純で重要な理由ばかりなだけに、婚姻だなんて安直な答えによくも辿り着いたものだね」


それまで姿勢正しく座っていたように思えるエドワード殿下が待ちくたびれたような右手で頬杖をついて吐き捨てた。

遠回しに嫌味を言うが、結局は多くある課題を一つで解決させる「婚姻」という選択肢を肯定している発言である。

殿下自身も大聖女と王族との結びつきをより端的に強化するには婚姻を結び大聖女を取り込むことが最短だということを理解しているようだ。

皇太子への信頼がある面々でもこの場が張り詰めているのは、この婚姻話をほかならぬエドワード殿下本人が受け入れない可能性が大いにあるからだ。

それほどに、私・ソフィアがエドワード殿下に溺愛されていることが周知の事実となっている。


「はっきり言おう、大聖女と僕は結婚しない」


会議室の空気が一気に冷え込んだ。

これが大バカ者のお飾りの皇太子の我儘だったなら幾分か理解もできたろうが、側近に入れ込んでいるとはいえこのエドワード殿下は天下のスパダリである。国民からの支持も厚く、仕事もでき、判断をたがえたこともない優秀すぎる出来すぎた皇太子なのだ。


「し、しかし、では大聖女と王族との結びつきが…」


それでも国のために自身の自由恋愛よりも国の安寧を取ると、大聖女との婚姻を決意してくれると多くの期待もしていた重鎮たち。

やはり溺愛する側近・ソフィアへの思いが邪魔をするのかと、静かに私に冷たい視線が集まる。


「じゃぁ父上の側室に迎えるのはどうかな?」


とんでもない発言が飛び出してきた。もちろんエドワード殿下の発言だ。

しかも冗談で言っているようには聞こえない、至極まじめな圧で発声された。


「そ、それは…」


戸惑う会議室。

ただ王族と関係さえ結べればいいんでしょ?と圧をかけるエドワード殿下。

自分より年下の少女を自分の父親に嫁がせるのはどうなんだ?という倫理的に至極まっとうな意見をだれも言えずにいた。

王妃の立場もあろう、子を成せるのかという問題もあろう、そもそも大聖女の意思はどうなんだという話もあろうが、すべてを理解したうえでエドワード殿下は提案していると皆わかっているが故に、反論の言葉が出てこない。


「戸惑うよね。その程度のことなんだよ。」


はぁ、とため息をつきながらエドワード殿下は私に目を向けた。


「僕は、この隣にいるソフィア以外と結婚する気はない。」


はっきりと言ってのける彼に、私は冷や汗しか出てこない。

私への冷たい視線もあるがその視線をエドワード殿下は諫める。


「これは僕の我儘だということは理解しているし、大聖女とその役割を軽視するつもりはない。」


ソフィアには一点の非もない、と強く念押しした上で、エドワード殿下は続ける。


「明日の大聖女の登城では、大聖女自身にもその事実を飲んでもらう」


もし平民の少女が王子様との甘い夢を見ているとしたら、早々に夢から覚めてもらうというのだ。

いずれにせよ大聖女と結婚する気もないし、よもや子を成すことなど有り得ないと再び圧をかけるエドワード殿下。


「し、しかし!それでは大聖女様と国との結びつきを軽視しているのと一緒ではないですか!」


戸惑いと少しの恐怖を携えて、勇気ある発言が飛び出していた。いや、至極まっとうな反論なだけである。


「それは大聖女と話をするよ。要は、彼女が国への反乱の意思なく、この国を離れることなく、彼女の役割を行使し続けてくれれば済む話だ。婚姻という形で縛り付ける方が彼女の人権を無視しているのと変わらないだろう。」


うぐっ、と苦虫を嚙み潰したような顔をする。その反論もそうだろう。

ここまで大聖女個人の意思の尊重はなされていない、よもや当然のように聖魔法を行使する舞台装置としての役割を押し付けられ挙句に結婚相手まで国に唐突に決められようとしている少女の心を誰が守ろうとしただろうか。

平民の少女が大聖女に目覚め眉目秀麗な王子とラブストーリーの末にゴールインする、というシンデレラストーリーは、少女が王子に恋することが大前提だ。

王子との恋愛を夢見ていると勘違いするほどに、逆に少女にも心に決めた相手がいたとしてその自由恋愛を奪うことにもなる。その事実に誰も目を向けていないのもどうなのか、それこそ彼女を舞台装置としてしか見ていない倫理観に問題がある、とエドワード殿下は捲し立てる。

はたして王族や大聖女の各自由恋愛がそこまで尊重されるべきなのか?役割以上に恋愛を重視すべきなのか?という疑問はあろうが、大聖女の反乱を恐れると同時に望まぬ現実を押し付けた末に反乱を起こすのがエドワード殿下かもしれないという恐怖もある。


「今日の会議はここまでだね、重要なスケジュールは確認できたし。」


婚姻以外の方向性は一致しているし、逆に言えば婚姻問題だけが白熱したともいえる。

これ以上は平行線で何も進展しないことを思うとお開きになって当然かもしれない。

皆黙りこくり、静かに会議は幕を閉じた。




◇◇◇




「今年はようやく君の18歳の誕生日がくる、そうすれば結婚もできるようになる、今ここで強大な邪魔が入るのは僕たちの愛が試されているんだろうね」

「い、いえ、そんな…」

「僕からのアプローチが嫌いではないくせに。」


ドキリと胸がはねた。

エドワード殿下は今日も通常運転だが、少し機嫌が悪い。

彼からの愛のささやきはいつも私を戸惑わせる。何度聞いてもドキドキが止まらない。

恥ずかしさのあまり直視できないが嬉しくないといえば完全なウソになる。


「ねぇ、ソフィア。僕が何で怒っているかわかる?」

「や、やはり怒っておいでなのですね…」


もう間もなく大聖女の少女が登城する時間だ。エドワード殿下は正装をし、国王陛下のもとに向かっている。

私と手を繋ぎながら。


「君、昨日僕の明言があるまで、大聖女と僕が結婚する可能性を考えていたでしょう?」


ドキッと肩まで跳ねる。


「そ、それは…なんというか…当然というか…」


当然の心配である。一側近の私と相手は国を救う大聖女との掟であるところの婚姻話だ。

周知の事実であるところのエドワード殿下の溺愛を受けながらも、国のためと言われれば私が身を引くのが至極当然である。

しかし、身を引くというか一ミリも引かせてくれないのがエドワード殿下である。


「僕の愛を疑っていただなんて、正直ショックだったよ」

「その、えっと、、、も、申し訳ありません…」


肩をすくめて見せるが、どうも彼の目はいまだ疑いの色を帯びている。


「このあと大聖女と会うのも、ちゃんと結婚しないって言ってあげるから。」


どうしようもなく甘い殿下の声が、耳元をかすめる。

だから安心して、と笑う彼に胸が高鳴る。


「大聖女が出現したことで君を不安にさせるなんてね」


君が不安に思う隙もないくらいに口説いてきたつもりなのに、と続ける殿下。

そろそろ広間の扉が近づいてきたが、私のドキドキは止まりそうにない。

初めての大聖女との対面にも緊張するが、それよりも今もなお甘い言葉をささやいてくれるエドワード殿下への気持ちで気が気でない。


「もう一度言うよ、安心して。君以外を選ぶことなんてないから。」


強く意思の宿った瞳で話しかけられ、そして彼の手で広間の扉が開かれる。




◇◇◇




「---では、儀式は1カ月後に。」

「はい、国王陛下」


16歳の少女が使命に後押しされながら背筋を伸ばしその場に立っている。

長い銀の髪が揺れ、彼女が国王陛下に頭を垂れたのがわかる。

ここまでは、大聖女の聖魔法の覚醒までの話、能力の操作感や能力のレベル、浄化の程度や結界修繕に足る能力があるかの話などがなされた。そして大規模結界の儀式が一か月後にあり、その後大聖女お披露目のパレードがあることなども相互確認し、滞りなく確認作業が進められた。


「さて、エドワードよ、話があるといったな」


国王陛下が静かにエドワード殿下に話を振る。


「はい、父上。そして大聖女・ルミナス。僕は大聖女との結婚は致しません。」


話を振られてすぐに、エドワード殿下は本題を切り出した。

父君であられる国王陛下がどんな反応をするのか気になっていたが、なぜだか落ち着いている。

これは事前に話をしていたとしか思えない。或いは側近への溺愛ぶりに加えて昨日の会議の報告で、いろいろ諦めたのかもしれない。

父親の側室に大聖女を推すようでは色々望めないこともわかったのかもしれない。

落ち着いて何ならため息をつきそうな国王陛下に比べ、目を見開いたのは大聖女である16歳の少女の方である。

国の習わしでは大聖女は当然のように王族と結婚するのだから、きっと自分もそうであろうと心づもりがあっただろう。

呆然としている16歳の少女―ルミナスに、エドワード殿下は続ける。


「君の待遇は保証する、と同時に君の自由も尊重したいと思う。」


揺るぎない瞳に、ルミナスは一度しっかりと瞬きをした。


「かつての大聖女たちが、王族との婚姻を結ば()()()のは、言い方変えようとも結局は大聖女をこの国に拘束するためだ」


ルミナスに聞く姿勢があることを確認してから、エドワード殿下は口を開いた。


「僕は、僕に僕の役割があるように、君が君の役割を全うしてくれるなら、

君と僕の自由を守るために、婚姻を義務付ける法律を変えようと思う。」


強い意志のこもった言葉に、国王陛下は静かにルミナスに視線を移した。

そして、ルミナスもエドワード殿下から視線を逸らすことなく言葉を聞いていた。



「---わかりました。ありがとうございます。」



ルミナスは、深く一礼をした。

あっけないほどに、16歳の少女は納得を見せた。

そうして初めての謁見の場は幕を下ろした。




◇◇◇




「---というのも、彼女にも想い人がいるのを知っていてね。もちろん家族の待遇も保証しているよ」

「それはつまり、買収…」


どうやら16歳の彼女も絶賛大恋愛中らしく、はなから王子様とのラブストーリーは望んでいないようだったのだ。

加えて、平民の出である彼女は家族の衣食住を保証されたことで何ら不満なく国に感謝をしていた。また、反旗を翻すような理由もなく、この国を愛していた。


「…エドワード殿下、」

「ん?」

「彼女がこの国を好きなことは、私も理解できます。」

「僕にもその意味が分かるよ。だから、この国を守りたいと思ってる。」


この国を愛するということは、今この国をこの国たらんとしている王族の運営を支持しているということだ。

ルミナスは平民の出で裕福ではないにせよ、日々の生活におおむね満足し、恋愛を謳歌できるだけの日常がそこにはあるのだろう。

その日常を作ってくれているのは、この国をよくしようと必死で働いている国の人たち、そしてその方針を決め動かす王族である。

つまり、エドワード殿下の日々の働きが、ルミナスをはじめとする皆の日常を作っているのだ。


「民の幸せが、僕らの幸せを作っているんだよ。

彼女が彼女の生活を大切にしたいと思えるなら、僕や王族の思いも大切にされるといいよね」


だから、この国は強いのだ。だから、この皇太子は愛されるのだと思う。

民や王族どちらかだけが幸せであっても均衡は保てない、国が民の日常を守るが故に守られる王族の日常もあるということをエドワード殿下は理解している。


「つまり、僕が日々頑張って仕事をするのは、愛しいソフィアとの未来を守るためだったわけだ」


にこりと微笑んでそっと手を握られる。

もう、我慢も不安もしなくていいらしい。


「---はい、私もあなたとの未来を守りたいです」


いつか彼の溺愛が事切れるのではないかと心配した日々もあった。

それでも、大聖女と王族の婚姻という国一番の決まりも、エドワード殿下には通用しないみたいだ。

彼が私を求めてくれるように、これからは私も逃げずにその瞳に向き合おうと思う。




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