転生したら子供の保護でした。
「は?なんでこんな所に子供が?」
思わずマンホールの穴に飛び込むが腐敗臭と汚水の生暖かい空気が出迎えて胃の中のスープを戻しそうになる。何とか吐きそうなのを抑えて周りを見てみるが二畳ぐらいの空間に乱雑に本が積み重ねられ、虫が集る食料が入っている籠があるのみだ。到底人が正常に生きて行けるような場所じゃない。
「大丈夫!?」
子供に声をかけて揺すってみるが反応がない。よくよく見てみると体が震えているようで顔色も悪いかなり状態が悪いようだ。
「はやくこんな場所から連れ出さないと」
こんな町のゴミ溜めの様な所に子供が居るなんて、、、。
子供を連れ出そうと体を担ぐとかなり軽く感じた。わたしも小さい体だし担ぐ以上軽いのは助かるが子供の命がこんなに軽いなんて信じたくなかった。
「病院の場所なんて知らないしマスターの家に連れて行くしか、、、」
何とか子供を担ぎつつ梯子を上って下水から出るとそこにニヤニヤとこっちを見ながら近づいてくる子汚い男が2人いた。
「あんたそんな汚い子供連れて何処に行こうってんだいヒヒ」
「人を助けるより俺らと一緒にあっちでイイ思いしよぜ?」
最悪あの表情は奴隷商の顔を思い出す大抵最低な事を考えている顔だ。
「わたしはこの子を病院へ連れて行くので結構です」
「そういわずにさ」
「近づかないでください!」
「そんな怖いこと言わない方が良いよ?痛い思いしたくないでしょ?」
男たちの片方がナイフを取り出して明確に脅してくる。
ナイフの刃にわたしの姿が反射するのを見て一気に心拍数が跳ね上がる。
落ち着けわたしの心臓マスターと初めて会った時の方がヤバかったし、トラックに轢かれて1回死んだ身だろ今更ナイフの1本くらい大丈夫。
そう思い込もうとするが思いに反して冷や汗が止まらない。
「そうそうガキはおとなしくしてればいいからさ」
今からひどい事をされそうってなってるのに足が竦む。担いでいる子供の命が掛かっているのにこのまま何もせず、、、。
「たす、、、け、、、、て」
背中の震えている子供から助けを求める声が聞こえて気が付けば男達から背を向ける形で走り出していた。
逃げるように遮二無二走る。
「おい!逃げるな!!!」
「子供背負ってるのに早いぞあいつ!」
後ろから男たちの怒声が聞こえてくる。捕まったら散々嬲られた後に殺されそうだ。
狭くて曲がりくねっている道を捕まらないようにひたすら進んで行くがどうやって進めば市場の方に出れるのか全く分からない。
「あぁもう!お外1日目でなんでこうなるの!?」
外に居ると奴隷商に売られるわ吸血鬼に眷属にされるわロクなことが無いんだけど!?
少し息が上がってきた頃、どれだけ走っただろうか走りながら振り返って後ろを見てみるといつの間にか追いかけて来ているのが1人になっていた。
「このままもう1人も振り切れば、、、!」
そう思って正面を見たらもう1人の男が前の方で待ち構えて立っていた。急いで立ち止まるが男2人に完全に挟まれる形になってしまった。
「え、なんで?」
「もう鬼ごっこは終わりかい?お嬢ちゃん」
「逃がしてくれたら嬉しいですけど?こんな子供で遊んでもたのしくないでしょ?」
「ガキはガキでも楽しめるもんだぜぇ?それに綺麗だから高く売れそうだしな」
奴隷の身分から逃げれたと思ったのにまた売られそうなのほんと辛いね、、、。
「痛い思いしたくなかったらおとなしくするんだな」
「おとなしくする人がさっきの場面で逃げ出すと思う?」
「なら殴られても仕方ないよなガキ」
なんとか良いアイディアを引き出そうと会話で時間を稼ごうとしてみるが全くダメみたい。
安全の為に背中に背負っている子供をおろしている間に、目の前の男が1歩前に出て殴りかかってくる。
「ぐえっ」
「へへさっさとその汚ねぇの置いて逃げてたら回り込まれる様な事もなかっただろうに残念だったな?」
「自分より弱いのを守るのは普通じゃない?」
強がってみるが降ろしている最中に殴られたせいでモロに拳が入っちゃった。今すぐ泣き出したいほど痛いけど、ここをどうにかして切り抜けないと、、、。
「そうら次は蹴りが来るぞー!」
「ぐっ」
「おいあんまり傷つけると売れなくなるから気をつけろよな」
くそっ!こんなのに好きにされるなんて!口の中が血の鉄の味でいっぱいだしうまく呼吸できてなくて苦しさ鹿伝わってこない。脳に酸素が行ってないのがわかる。
男の1人がニヤニヤ笑いながら近づいてくる。
「そろそろ諦めてくれたかな?それとも気絶した?」
「お前こんなガキに思いっきり蹴り入れてたからなー死んでたら奢れよ?」
「おいほんとに動かないけど死んだか?」
ダメもとで死んだふりを決行し、油断した男達が近距離まで近づいた所で起き上がりまた追ってこられないように男の足を狙って蹴る。
「こいつ生きてるじゃねぇか!」
「倒れて!!!」
「ぎゃああ」
ローキックの要領で思いっきり蹴ったら追ってきていた方の男の足が90度に折れ曲がった。もしかしてマスターが言ってたちょっと力が強くなるってこれの事?ちょっとどころじゃないような、、、。そういえば10歳のわたしが子供を背負っていたのに男2人に追いつかれなかったし身体性能って結構上がってるような気がするんだけど。
「このクソガキ!!!」
先回りしてきていた方の男がそこら辺から持ってきたのか角材を持って振りかぶっていたが、残っている敵が1人となって冷静になれたのか向かってくる角材の軌道が見える。見えている軌道から体をひねり避ける。
「避けられた!?」
「あなたも倒れて!!」
「ぶっ!?!?」
攻撃が避けられて態勢を崩した男の顔面を思いっきり殴る。骨が折れる感触が手に伝わってくるが、まぁ正当防衛だし問題ないでしょ。ちょっと男の体が1~2m飛んで行ったけど死んでない死んでない。
「はぁはぁ、、、片付いた?」
言葉に出した瞬間ドッと体に疲れが噴出する。さっき殴られたせいか追いかけられた時の恐怖からか足も震えている。
「とりあえずあの子を助けないと、、、」
置いていた子の所まで行き、背負い上げるとさっきより震えが大きくなっている。
急いで治療しないとマズそうだ。
「急いで家にっっ!」
右のお腹辺りに激痛が走り思わず膝をついてしまう。痛みの原因を探すと右脇腹にナイフが刺さっていた。足が折れた男が痛みで歪んだ顔でこっちを見てきている。
「へっお前もその汚いガキと一緒に死ねや。」
男はそう言って地面に顔を落とした。気絶するなら刺す前に気絶しててよ。
刺された事を認識し始めたら痛い通り越して熱くなってきた。ちょっとでも動くと激痛が走って泣きそうになるが今は一刻も早くこの子を助けてあげないと、、、。
「急がないと、、、」
子供を背負い足を引き摺りながらマスターの家を目指す。段々と子供が重くなっているような気がするわたしの力が弱くなっているのかもしれないけどね。それに日ごろからマスターから血を吸われていたからだろうか血がボタボタと流れてる今も寒気やだるさはあまり感じられず歩いてられる。吸われるのも役に立つことがあるんだね。
「せっかく貰ったお金もいつの間にかどっか落としたし食材も逃げるときに置いてきちゃった、、、今回のお出かけは散々だね」
「マスターの家に着いたらこの子から色々聞かないと、、、」
結局なんでこの子はあんな下水道の中で震えていたのだろう、なんでわたしはこのに誘われるように言ってしまったのだろう、思考がグルグルと回り始めて来た。
「おかえり日が落ちるまでには帰りなさいって、、、何その傷!?」
「わたしよりこの子を、、、ちょっと眠くって、、、」
「レーテ何があったの?レンカちゃん!?」
いつの間にかマスターの家に着いてたみたい。安心感からか力が抜けてその場で倒れてしまっていた。
マスター達が駆け寄って来るが正直何言っているのかよく聞こえない。まぁ後はマスターに任せておけば魔法か何かでやってくれるでしょ。
あぁあの子が無事だったらいいなぁ、、、。