まあ、終わり良ければ総て良しだよね
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「ベルジアンヌ・ルーペンルクス公爵令嬢、貴様とは今この場で婚約を破棄する!!そしてここにいる聖女キャロリーナ・カスピラル伯爵令嬢と新たに婚約を結ぶことをここに宣言する!!」
壇上で、そう高らかに宣言したのは王太子ザンゼ・パン・ファンヌース殿下だ。
その左腕には貴族にしては華やかさが欠けていて、けれども庇護欲を掻き立てられる可愛らしさが際立っている令嬢が不安そうな面持ちで抱き着いていた。
困惑や納得など様々な感情を浮かべた人々がそんな宣言を受けた公爵令嬢は一体何と返答するのかと、注視した。
宣言を受けた公爵令嬢は堂々とした立ち姿でその顔には微笑みを浮かべたままゆっくりと口を開いた。
「殿下に対して出過ぎたことを申しますが、我が国の王族ひいては貴族は聖女、聖者との婚姻は認められないと憲法で定められているのは勿論ご存じですよね。例え王太子の貴方様でも憲法違反は処罰されるのは必定ですが差支えないでしょうか」
その言葉は最初から予測していたと言わんばかりに王太子はしたり顔をした。
「勿論だ。それは建国当時の混乱を収めるためとこの地に祝福を定着させるために聖女、聖者は国の端から端までを巡礼しなければならなかった。そのため王族、貴族としての務めが果たせないから最初から婚約者候補に含まれないように制定されたものだ。だがな、近年に至っては月に一回王都の聖堂で祈りを捧げるだけと簡略化されていても災害、ましてや戦争の片鱗すらない。聖女、聖者がいた他の国家もあったが年月が経るにつれて廃れていったり、戦争をしかけられて良くて属国、悪くて併合されていった。これは神の祝福はこの地に深く根付いており、それは不変のものになった証拠だ。まあグチグチ言ってきたがまだ公表されていないだけで既にこの条文を改正することが貴族会議で決まったのだ。他に何か文句があるのか」
公爵令嬢は壇上奥で鎮座している陛下にそっと目を配った。
陛下としてはあるまじき姿だが困惑を張り付けたような顔をしていた。ここ五年程体調を崩しており執務の特に長時間心身を酷使する会議や視察は完全に王太子が請け負っていた。それがあだとなってしまったようだ。
「まあ、そこまでご高察なされてるなら、教育に関しても差し支えないということですよね」
「当たり前だ。まだ完了はしていないが順調に進んでいるそうだ。全く、意地汚い。お前はもう用無しなんだよ」
「…………婚約破棄について承知いたしました。手続きに関してはお父様と陛下にお任せ致します。このままパーティーに参加するのは場の興を冷めさせるかもしれないので先に退席しても宜しいでしょうか」
質問形式だがその裏に今すぐ家に帰るという強い意志がみられ、その視線は王太子ではなく陛下に向けていた。
そんな令嬢に苛立ちを隠しきれないのか王太子が荒々しく口を開いた。
「待て!アンヌ!まさか何の責も負わずにこの場を去るつもりなのか!!」
「責とは何のことでしょうか。婚約を結んでほしいと提案されたのは王家からですわ。そしてその婚約の破棄は殿下側の要求ですよね?」
「そんな言葉で誤魔化そうとしているのか!お前は聖女キャロリーナに対して危害を加えていただろう。私はこの事実を皆に周知してほしくてこの場を設けたのだ。証拠はある!証言だけではないぞ!彼女の頬を叩いている瞬間が収められている写真もある!まあ、ここまで言ってもお前のような自惚れが過ぎる者がすんなり認めるとは思っていない。聖女に害なす者など死以外の罰があるわけないがキャロリーナは優しさを形作ったような人だからなその慈悲に感謝しろ!!お前をルーペンルクス公爵家から除籍し、平民としてから国外追放だ!準備はできて」「待て!!」
「父上!何故止めるのです!この者は聖女に危害を加えた罪人ですよ!キャロリーナの慈悲が無ければ今ここで私が切り伏せています!」
「だからこそだ。もし国外に出したら復讐のためといって我が国の機密情報をばらまくかもしれない。わしが満足に執務が出来なくなって一部をお前に任せていたように、ルーペンルクス公爵令嬢も王妃としての執務を請け負っていた。彼女を外に出すのもそしてカスピラル伯爵令嬢の思いを汲んで処刑も無理だ」
「なら、どうするおつもりですか」
「ルーペンルクス公爵令嬢は修道女となり初代聖女の力が目覚めるまでそしてその余生に営んでいた畜産に従事し心の汚れを一生をかけて祓え。場所はこちらで準備する。連れていけ」
言い終わるや否や令嬢は両腕を騎士に掴まれて少し強引に引っ張られて行く。そんななかでも言い返そうとしたのか王太子と陛下を交互に見つめてまた口を開いたが、ルーペンルクス公爵の迫力のある捕食者のような顔を視界に映した途端、諦めたような笑みを浮かべた。その後俯いて素直に引っ張られてホールから退場した。
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「みんなぁーご飯だよぉー」
どさっとそれぞれの飼料を箱に置くと平原で思い思いに過ごしていた子たちが目をギラギラさせて走ってきた。そんな姿に自然と口角が上がってしまう。ご飯の姿をニヤニヤしながら見ていると呆れたような声が後ろから聞こえてきた。
「お嬢、いつまで気持ち悪い顔して見ているんですか。まだ掃除終わっていませんよ」
「気持ち悪い顔ですって!これでも国一番の高嶺の花、人間版のバラって言われていたんだから!」
「…いや、高嶺の花はまだしも人間版のバラって悪口じゃないですか」
「いいのよ!含みがあっても綺麗なバラに例えられるなんて光栄でしょ」
レオンはこの言い合いの幼稚さにより頭が痛くなった。
「はぁ。分かりましたよ。失礼な発言しましたすみません」
「ふん。まぁ今回は気分もいいから許してあげる」
その腕を組んで背を少し反らして胸を張っている姿は幼子が親に対して自慢しているのとよく酷似していた。実年齢差にただただ痛いやつにしか見えないなとレオンは思ったがギリギリ音として外には出なかった。
「あれから三か月ですか。今まで忙しかったので聞けなかったんですが、なんであんなにあっさり受け入れたんですか?ご当主様もそれこそ親バカという言葉がよく似合う方だったのにどうして助けようとしないのでしょうか?」
「うーん………レオンと私は主従契約を結んでるから勝手に他言しないし、ここにいるってことはお父様も伝えていいって思ってるってことなのかな………」
「そんな言いにくいことなんですか」
「うん、レオンなら大丈夫だよ。一応ね【命令、これから話すことは絶対に他言無用だ】」
「……【承知いたしました】」
「よし!じゃあ話すけど長くなるかもだからあの子たちをお家にいれてからにしよう!」
そう言って勇ましく草原にいる子たちに走っていく背中にぼそっとレオンが呟く。
「…契約でわざわざ縛らなくても俺は貴方の言うことならなんでもしますよ」
今日も今日とてとてつもなく疲れた。もうこのままほっぺとテーブルが一体化しそうと思っているとコトっ、ガタンと音がなった。瞼と顔を上げると目の前に湯気が出てるコップが置かれており自分の向かいにレオンが座っていた。
「あっ、ありがとう。いやーレオン様がいてくれて助かったわー」
「だから最初に言ったじゃないですか。まだ、掃除が終わってないって。なのに部屋に戻すなんて…」
「ごめんごめん。ふー、話をしよっか。何から聞きたい?」
「先ずお嬢は聖女に危害を加えたんですか?証言だけなら王太子に買収されて作られたかもしれませんがあの写真ははっきりお嬢が叩いてますよね」
「分かってて聞いてるよね。多分だけど王家抱えの影武者部隊が動いたんだと思うわ。よーく見て耳の少し下にほくろあるけどこの写真にはないでしょ。お父様も気づいてるでしょうね」
「じゃあ何でお嬢もご当主様も今回の決定に異を強く唱えなかったのですか」
「いくつか理由はあるけど、先ず前提から話すわ。カスピラル伯爵令嬢は王家が保護する必要が出てきた。そして一番手っ取り早いのが王族の一人にすることだった」
「まさか、あの出来事はすべて承知の上だったんですか!」
「違うわよ。いや、この言い方は間違えね。一部は知ってたわ」
「一部ですか」
「そう一部。さっきも言ったけど、カスピラル伯爵令嬢を王族にするのは決まってた、パーティーで発表することも決まってた」
「何が一部ですか。全部知ってるじゃないですか」
「レオン勘違いしてるでしょ。彼女が殿下の妃になって王族になるんじゃなくて、陛下の養子になって王女になる予定だったのよ」
「いまさらですが、なんでわざわざ聖女を王族にしないといけなかったんですか?保護だけを目的にしているなら聖女を守るために王城に住み騎士が護衛につくことになったって発表すれば済む話ですよね」
「実はね、彼女の力は身体が純粋のまま……つまり乙女じゃないといけないの」
「そういうことだったんですね。王女になれば伯爵家からすぐに王城に移り住むことを強制してから監視も出来るし、もし聖女に好きな人がいても上流階級の結婚には親の許可が絶対必要。そして、今回王太子がした憲法改正もわざわざしなくて済む。確かにこれほど合理的な計画はないです」
「まあ、その計画を殿下がボロボロにしてくれたけどね」
「王太子は知らなかったんですか」
「私が十歳の頃、前任者が亡くなってその時に一緒にそういう話を聞いてたから知ってるはずだけど、殿下は良くも悪くも一直線だからね。興味がないことは一切覚えられない人なんだよねー。あの時はまだ彼女とは会ってないし」
「このままじゃ聖女の力は失われる可能性ありますよね。なんであの時陛下は王太子と聖女の婚約を止めなかったんですか」
「災害や戦争などに晒されず常に平和の世を生きられるのは人々の危機管理能力を麻痺させる。もはや聖女、聖者の力が無ければこの国はあっという間に滅びるわ。その要の弱みとなる情報を例え国内でも大衆に出すわけにはいかない。それなら他の者に泥をかぶってもらった方がいいと考えたんでしょうね。実際に力の消滅の仕方について他国が知ったらその人の好みのを忍ばせて恋仲になってそういう行為をしてこの国を終わらせに来るでしょうね。それより私達ルーペンルクス公爵家は彼女を嫉妬でいじめる女とその女を育てた無能な男というレッテルを貼って力が失われてもルーペンルクス公爵家の呪いによるものだってことにした方がいいのよ。お父様も背負う覚悟を持っていらっしゃったようだし」
「でも貴女方がかぶる必要はなかったじゃないですか。お嬢は王太子の婚約者となった八歳の頃から朝から夜遅くまでほぼ休みなく勉強をし続けて好きなお菓子も観劇もやめたのになんでお嬢が!優しいご当主様が!泥をかぶらなければならないんですか!!そんな理不尽から逃げてくださった方が何倍もよかったです!」
「落ち着きなさい。そしてそれ以上言わないで。レオン、私達貴族はね、生まれた時から国民の税によって命の一部を貰って自分自身を成り立たせているの。だからこそ国民がいるこの国を守らなけばならない、義務なの。それを成し遂げた私たちの言動を貶めないで」
「ーーーー申し訳ございません。頭に血が上ってしまいました。………ふー…最後にもう一つ質問してもいいですか」
「えぇ勿論いいわよ」
「聖女の力を失った後は新たな聖女が生まれるんですか?」
「いいえ。後任者が生まれるのは前任者の生命活動が止まった時だけよ」
「質問についてのご回答ありがとうございます」
「あら、もういいの?」
「はい、今日のところは。飲み物もなくなりましたし、よく考えたらまだ夕食を取られていませんでしたね。今から作ります。何がいいですか」
「ふふ、今日のところはかぁ。レオン君になんでなんで期がまた来たねー。夕食はラム肉とパンケーキが食べたいなー」
「はぁ~からかわないで下さい。それが嫌ならその都度教えてくださればいいのに。ラム肉とパンケーキって癖強の組み合わせですね。パンケーキは激甘めでよろしいでしょうか。あの子たちもそのうちお嬢のお腹の中に納められそうです。太りますよ」
「別にいいじゃん。今まで好きな時に好きなもの食べれなかったんだから。うん、それでよろしくー。あの子たちは大事だから食べませーん」
「はいはい。では少々お待ちください」
ガタンっ。コツ.コツ.コツ.コツ
レオンの背中を頬杖をつきながぼんやりと眺めた。あんなに怒るとは思わなかったなー。それも伝えなかったことじゃなくて、私が私達が泥をかぶることに関して。うふふ、レオンは会った時から変わらないなあ。背中が見えなくなったころにまるで蠟燭の火を消すような感じで呟いた。
「レオン、もう一つ勘違いしているわね。キャロリーナ・カスピラル伯爵令嬢は聖女ではないわ」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ここまで読んでくださった方へのおまけとして設定の一部をここに少しだけ記したいと思います。
・キャロリーナについて
想像魔法が使えます。創造ではありません。≪想像≫です。
簡単に言えば上手くイメージが出来てそれを行える魔力量があれば何でも出来ます。
魔力量は詳しく決めておりませんがベルジアンヌは1,000のところを彼女は10,000です。
(ベルジアンヌは貴族の中で10位内に入るほどの魔力量)変わる可能性はありますが。
ある目的のために行動しています。
・聖女、聖者について
聖女、聖者はあだ名みたいなものです。
希求することでその地に起こる災害や戦争など全てを予防する。豊穣を約束する。
簡単に言えば災害を起こす雨雲などが近づいても直撃する前に消滅。
戦争を仕掛けようとしたらその首謀者含め協力者が寝たきりになる。そんな感じです。