突然の追放とか言うテンプレート 17
そうか……世界が、俺の実力を………………ん?
「それ、まずくね?」
「マズイね。ヤベーね! 場合によっては人類存亡の危機だね!」
「そこまでかよっ!」
声高に言い放つルミナに、思わずツッコミを入れる感覚で叫び返した俺だったのだが、
「そこまでなんだよ!」
直後、ルミナは超が付く真剣さで俺へと叫び返して来た。
つまり……冗談なんかで言っている訳ではないと言う事だ。
「アンタは分からない事だとは思う……ううん、私だってラームズ伯爵からの受け売りと言うか、事後報告と言うか……ともかく結果だけを断片的に知ってるだけなんだけど……でも、これだけは確実に言う事が出来るよ」
ドが付く真剣さそのままに語り出したルミナは、ここまで言うと更に真剣さを増やすかの様な勢いで俺へと顔を近付け、凝視しながら再び口を開いた。
「アンタは、世界でも覇権国って言われている超大国の首脳陣から『監視対象』にされている……それだけじゃない。アンタと言う存在をこの街から出さないと言う密約が、世界のトップ陣との間だけで、水面下に締結してるんだよ……真面目な話し」
「……はぁ?」
ポカンとなってしまった。
この世界に来たばかりの俺が知らないのは当然ではあるのだが……そんな記憶、アキト・イーストさんにもない。
つまるに、本人とは全く関与しない所で勝手におかしな約束が成立している上に、今の今まで全く分からなかったのだ。
「……なぁ? 俺って、人権とかあるよな? 渡航の自由とか、住む自由とかもある……よな?」
「ないよ? アンタが自分の意思でこの街を出て行こうとしたら、伯爵家の人間が総出で止める。もちろん私も」
「俺にも国民の持つ権利をくれよっっ!」
なんか滅茶苦茶な事を言われてる気がした俺は、思わず天を仰いで『ジーザス!』って感じのポーズを取っていた。
「……仕方ないでしょ……アンタは反則的過ぎるんだよ。世界のパワーバランスをけちょんけちょんにして、戦争のゲームチェンジャーも甚だしい行為を呼吸と同義語で出来ちゃう時点で、世界からすれば歴史的脅威にしかならないんだよ……場合によっては350年振りとなる魔王の到来と感じてしまう人すら出て来る危険性だってあるんだから」
「…………」
ルミナの言葉に、俺は絶句した。
余談になるが、この世界にはかつて魔王が存在していた模様だ。
こんな所に妙なファンタジー要素をぶっ込んで来るんだなぁ……まぁ、魔法が普通に使える時点で、既に一定のファンタジー要素が組み込まれている様な物ではあるんだが。
「350年前なんて大昔の事は良く分からないけど……歴史の教科書に載っている魔王の話しが本当なら、性格は違うかも知れないけど……その実力と言うか力だけを純粋に言えば、アンタも魔王とドッコイな訳よ。少なからず世界の首脳陣はそう考えてる」
「俺は魔王になんぞならないぞ?」
「そこは分かるよ。うん……私は理解も出来るし、納得だって出来る。なんならいつでもアンタの味方」
素朴な俺の台詞にルミナはにっこりと笑みを作りながら声を返すが……間もなく神妙な顔付きになり、
「だけど、それはアキトと言う人柄を昔から知っている私だからこそ出来る事。顔も名前も知らない赤の他人が同じ感覚だと思う? 当然そんな訳ないじゃない?」
真面目な表情そのままに、現実と言う物を突き付ける形で俺へと声を吐き出して行った。
実際問題、ルミナの言っている事に間違いはないだろう。
しかしながら……そうなると、俺は魔王と同じ扱いを受ける危険性があるのか。
「なんとも世の中ってのは世知辛い……」
俺はカウンターに向かって項垂れた。
その直後、うつ伏せになる俺の頭に、ルミナの右手がポンと載せられる。
「まぁまぁ、そこまで悲嘆しなくても良いじゃない? 別に生活に困る事はないしさ? 外の世界には出れないかも知れないけど……私も付き合うから。ずっと一緒に居てやるからさ?」
程なくしてルミナは温和な口調で、俺を諭すかの様に答えた。
びっくりするまでに穏やかで、慈愛に満ちた声音だった。