突然の追放とか言うテンプレート 12
これは俺の記憶ではなく、結果的に宿主と言えるアキト・イーストさんの記憶になるのだが……実は彼には一歳年下の妹がいる。
妹モノのテンプレ・ラブコメ作品であるのなら、実は血の繋がりがない義妹だったりするのだろうが……まぁ、今回はテンプレート・スキルが発動しなかった所から察しても、残念ながら普通の妹である模様だ。
うん、確かに残念かも知れないなぁ……だってさぁ? この妹ちゃん、かなり可愛いし。
アキト・イーストさん本人も、妹をかなり大事にしている事が分かる。
俺の記憶じゃないと言うのに、彼女に対しての愛情が心の中一杯に存在しているんだから……もしかして、このアニキは生粋のシスコンなのかも知れない。
……………。
いや、シスコン……なの、か?
もしかしたら、マジモノのシスコンかも知れないし、その部分はアキト・イーストさんのデリケートな部分かも知れないので、この話しはここまでにして置こう。
何はともあれ、アキト・イーストさんにとって妹は可愛くて可愛くて仕方がない存在。
彼女の為なら月にだって飛んで行けそうなレベルである。
……まぁ、この世界に衛星があるのかどうか分からんけど。
そこらは夜になれば分かるだろうし、とりまヨシとする。
どちらにせよ、可愛くて仕方がないアキト・イーストさんの妹こと、ミーコ・イーストさんは現在ラームズ伯爵家のメイド長をしている。
実に素っ頓狂な話しだ。
だって、小作人の娘だからね? ミーコさんは。
世間的に言うのなら、平民より位の低い存在だと言うのに、伯爵様に従僕される形で働き始め……更に昇進してメイド長になっているのだから、これがおかしくない訳がない。
ここに関して述べると……多分、短編小説一個分程度のエピソードになってしまうので……ま、まぁ……機会が出たら話す事にしようか。
とりま結論だけ述べると、今のミーコさんは立派なメイド長として働いており、日本風に言う所の中間管理職的な存在として日夜精進している。
感覚的に言えば、県庁で働く課長さん……と言った所だろうか?
月給制で賞与有と言う条件なので、収入的には大体同じ程度だと思う。
なんにせよ、伯爵様のメイド長をして居られる時点で、ミーコさんは人生勝ち組である。
福利厚生もしっかりしていて、有給はもちろんの事、産休や育児休暇もある。
寝食の場は伯爵様の屋敷と言う事もあり、基本的な衣食住に困る事もない……ここ、本当に異世界なんだろうか?
単なる小作人の娘でしかなかったミーコさんは、こうして両親に仕送りが出来るレベルで裕福になり、家族単位で平穏な生活を送る事が可能になったのだ。
これにはお兄ちゃんのアキト・イーストさんも泣いて喜んでいた。
もう見事に大号泣である。
この裏には……農地すら持たず、貧困層の代名詞みたいな存在だった自分達の家庭を……そして妹を救ってくれた事にある。
ちょっとした天候の変化で凶作なんぞになってしまった日には、一家心中すら現実の射程圏内だった。
それが、どうだろう?
今では妹がメイド長をし、兄は一流の冒険者だ。
もう、一家心中を考える事なんてない。
しがない小作人の家族は、こうして安寧の日々を得る事が出来たのだ。
それもこれもラームズ伯爵様による物。
今でもメイド長としてラームズ伯爵の元で御厄介になっている妹がいる関係上、アキト・イーストさんにとっては、現在進行形でお世話になっていると述べて過言ではなかった。
よって、一流クラスのパーティーから追放された素因が、たとえラームズ伯爵様であったとしてもアキト・イーストさんは恨まない。
大恩こそあれ、恨み節を語る事なんて出来る筈もないのであった。
他方、それでいて気になる部分もある。
ラームズ伯爵様は、どうして今のパーティーから追放する素因を作ったのだろう?
何度も言う様で恐縮だが、ラームズ伯爵様はアキト・イーストさんにとって恩人であり、色々な意味で味方してくれる素晴らしい人だ。
そんな人が、どうしてアキト・イーストの職場と言えるパーティーから意図的に引き剝がそうとしたのだろう?
恨みはしないが、不思議ではある。
果たしてこの謎は、程なくしてルミナの口から明かされて行くのだった。