突然の追放とか言うテンプレート 11
冒険者のパーティーから追い出されている時点で分かる事かも知れないが、アキト・イーストさんは冒険者だ。
職業は……一応の剣士っぽい。
なんか違和感しかないけど、剣士っぽい。
暗殺拳の使い手なのに剣を持つ必要性があったのだろうか?
ただ、彼の場合はクズ野郎の指示によって荷物持ちをやらされていた感じだったから、どんな役割であっても問題はなかったのだろう。
つくづく不遇極まっておりますな。
モ〇ハンの片手剣より不遇ですな。
「……取り敢えず、まだこの街を出て行くと決めては居なかったぞ?……まぁ、仕事を請け負う事が出来ないのなら、他の街に行くしかないのは間違いないんだけど……」
「そこっ! そこだよね! あのクッソ金髪野郎! 自分が子爵の息子だってのを良い事に、ギルドマスターを言い包めやがってぇぇ……っ!」
スキルテンプレートにより、どうしてルミナが街を出ると勘違いしたのか? その理由を知った上で答えた俺の言葉に、彼女はこれでかと言わんばかりに怒りのオーラを身体から放出していた。
「ちょっ……ルミナさん? なにもそこまで怒らなくても……?」
「これが怒らずにいられる話し? もうぴえん超えてぱおんだよぉぉっ!」
待って? それ怒りじゃなくて泣いてるからね?
明らかに間違った使い方をしているんだけど、言葉の間違いを訂正するには……ちょっとルミナの怒り具合が強過ぎて、気弱なボクちんには出来そうになかった。
果たして、怒りが頂点にまで登り詰めていたルミナは、身体全体から紅蓮の闘志を具現化させ……ゆらぁ~……っと、妖艶かつ怪しい動きを見せながらゆっくり俺の前に近付いて来る。
え、えぇと?……普通に怖いのですが?
心の中でバケツ一杯分の冷や汗を流す俺。
きっと、自分でも無意識の内に顔が引き攣っていただろう。
果たして。
「……良かった」
ルミナは答えた。
心から安堵した声音を言霊に乗せて。
程なくして、カウンター席に座っていた俺の背中に立ち……優しく抱きしめて来る。
…………。
……参ったな。
結局、ルミナはこう言うヤツだ。
色々と粗野な部分があり、短気が災いして無駄に喧嘩を売ってしまう様な魁乙女塾な彼女なんだけど……。
でも、実は人一倍優しい。
「今回の事は……さ? バザールのアホが全面的に悪い。追放された事に関して言うとさ? 実は理由があったし、予定調和的な部分もあったんだけど……まさか、ギルドに手を回して妨害工作までして来るとは思ってもみなかったから……」
背中で優しく包み込む形で俺を抱きしめつつ、やんわりとした口調で答えたルミナは……えぇと? 予定調和? それってどう言う意味かな?
まぁ、テンプレートが発動していた時に、なにやら意味深な文言が浮かんでいたから、それ相応の理由があったのは分かっていた事なんだけど……どゆこと?
「予定調和って、なんだ? 伯爵様が俺を、あのパーティーから追放させた的なヤツか?」
「そうそう、それ。ここは……ねぇ? アキトにも悪い事をしたなぁ……って思ってはいたんだよ? うん、ごめん。ラームズ伯爵に変わって私も謝っておくよ。ごめんなさい」
答えたルミナは、心底申し訳ない声音で俺へと口を開いて来た。
背中越しである関係上、どんな顔をしているのかは分からないが……きっと、かなり申し訳なさそうな顔をしているんだろうなぁ……。
「いや、別に構わないよ。そこはマジで気にしないでくれ。伯爵様には色々とお世話になってるし、今でもかなり世話になってるから」
俺は努めて穏やかにルミナへと言葉を返した。
この言葉に嘘はない。
伯爵様にはこれまでかなぁ~りお世話になっている。
そして、それは現在進行形であったりもする。
……そう。
現在進行形なのだ。